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定例の交流会にて
定例の交流会にて・5 ◇長男レオナルド視点
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確かにクリスティ殿下の言う通り。
姉のロッザは自身の弟たちに……オレにも、弟のレイにも、その下のレン(レンブラド)にも。肉体言語を伴ったかなり厳しい指導……というか、鬼過ぎる特訓のような事をやっていた。
オレも弟たちも何度も涙目になったし、実際に泣かされてたっけなぁ。
例えば……。
トマト嫌いなオレは、トマトの味が分からなくなり、トマトのどこがどう嫌いだったかの記憶もあやふやになり。その結果。一周回ったかどうか知らんが、平気で食べられるようになった。
指導を受けてた当時は、むしろ逆効果になるんじゃねぇかと思ったもんだが、意外と食えるモンなんだな。
他にも未だに嫌いな野菜は沢山あるが、嫌いなだけで、それが料理に入ってても別にどうって事はなくなってる。
しまった、オレの思い出話なんぞ、どうでもいい。
オレは、内心で冷や汗を掻きながらクリスティ殿下の様子を窺う。
さっきの言葉の真意を探ろうとして……思い知った。
クリスティ殿下の顔に、それはそれは楽し気な微笑が浮かんだからだ。
一見すると単なる綺麗な微笑みだが。わざとらしいぐらい、唇を吊り上げた笑顔。
これまでも宰相閣下の息子として、一応は騎士団に身を置く者として。何度か浴びせられた事のある視線だから、分かる。
あれは間違いなく、恨みを込めた眼差しだ。
あぁ、姉貴よ……第一皇子に、一体何をしてくれたんだ……。
口振りからすると姉貴が第一皇子に酷い真似をしたのは、結構な昔の話なんだろうが。未だにこうやって言われるような、一体何を……。
ちっとも可愛くない、とか思ったりして悪かった。
クリスティ殿下は今更になって言われたくもないだろうが、申し訳ねぇ。姉貴に代わって謝る、申し訳ねぇ。
「そうだろう? ジェフ。」
ハッ、待てよ……? 姉貴が第一皇子に対してやらかしたって事は、第二皇子にも同じ事をやらかしてる可能性が……。
大いにあるだろう。むしろ、無い可能性の方が低いと言ってもいい。
「……はい、兄上。」
食事会が始まってから、初めて、ジェフリー殿下の声を聞いた。
少し硬めで、オレよりもちょっと高い声。
たった一呼吸程度の短い言葉を聞くだけで、オレは気分が浮足立つ。
浮付いてる場合じゃないってのに。
もしかしたら、姉貴から無茶な事をされたんじゃないか。
そう思ってジッとジェフリー殿下を見詰めてみたが、相変わらずの無表情……いや、関心の無さを明らかにした表情のままだ。
ソテーされた魚にフォークを入れる作業で忙しそうにしてる。
一連の話に何の興味も無けりゃ、自分の兄から話し掛けられるのも鬱陶しいか。
これじゃ、姉との間に何かあったのか、どうなのか。全く窺えねぇ。
っつ~かよ。本当にもう、分かっちゃいるんだが。
もうちょっとでいいからよ、何か反応しねぇか?
視線を感じて顔を上げる、とか……何かあるだろう?
お前にとっちゃ、面白くもねぇ食事会に無理矢理参加させられて、どうとも思ってねぇ男にジロジロ見られて、不愉快なんだろうなってのは分かるがよ?
何故、気にならない? なんでだ? 気付いてないのか?
あぁ~あ、なんでこんな……反応の無い、眼中に入れてもくれねぇ相手が好きなんだろうなぁ、オレは。
グダグダしてても仕方ねぇ。
せっかく今、クリスティ殿下がジェフリー殿下に話し掛けたんだ。
この流れでオレも会話に参加したって、別に構わんだろう。
今日こそは話をすると決めて来ただろう、オレよ。
とりあえずは声を掛けるんだ。
ジェフリー殿下、と。
一言、まずは呼び掛ければいい。
何を話そうか……あぁそうだ。
姉の話が出てるんだから、それでいいか。
ひとしきり考え、自分で自分の背中を押した。
行けそうな気がする。
「じ、ジェ…」
「ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
食堂に響き渡るのは弟、レイモンドの声だ。
大声を出してるわけでもねぇのに、我が弟君の声は非常によく通る。
ガキの頃から俺とレイは、どうも喋り出すタイミングが重なるらしい。
そして大抵、レイの声だけが周囲に聞こえて、オレは喋ってもいない事になる。
今も。完全に出鼻を挫かれた。
クリスティ殿下が微笑の消えた顔をレイに向ける。
ジェフリー殿下はレイの言葉に、ピクリとも反応しなかった。
レイがオレと同じように無視されてる事に、オレはちょっと安心して。
次の瞬間、自己嫌悪だ。
……兄として、情けねぇな。
オレは密かに申し訳なく思いつつ、黙って見守る事にした。
レイの発言を遮ってまで、この場の会話を攫うような話題は、オレには無い。
姉のロッザは自身の弟たちに……オレにも、弟のレイにも、その下のレン(レンブラド)にも。肉体言語を伴ったかなり厳しい指導……というか、鬼過ぎる特訓のような事をやっていた。
オレも弟たちも何度も涙目になったし、実際に泣かされてたっけなぁ。
例えば……。
トマト嫌いなオレは、トマトの味が分からなくなり、トマトのどこがどう嫌いだったかの記憶もあやふやになり。その結果。一周回ったかどうか知らんが、平気で食べられるようになった。
指導を受けてた当時は、むしろ逆効果になるんじゃねぇかと思ったもんだが、意外と食えるモンなんだな。
他にも未だに嫌いな野菜は沢山あるが、嫌いなだけで、それが料理に入ってても別にどうって事はなくなってる。
しまった、オレの思い出話なんぞ、どうでもいい。
オレは、内心で冷や汗を掻きながらクリスティ殿下の様子を窺う。
さっきの言葉の真意を探ろうとして……思い知った。
クリスティ殿下の顔に、それはそれは楽し気な微笑が浮かんだからだ。
一見すると単なる綺麗な微笑みだが。わざとらしいぐらい、唇を吊り上げた笑顔。
これまでも宰相閣下の息子として、一応は騎士団に身を置く者として。何度か浴びせられた事のある視線だから、分かる。
あれは間違いなく、恨みを込めた眼差しだ。
あぁ、姉貴よ……第一皇子に、一体何をしてくれたんだ……。
口振りからすると姉貴が第一皇子に酷い真似をしたのは、結構な昔の話なんだろうが。未だにこうやって言われるような、一体何を……。
ちっとも可愛くない、とか思ったりして悪かった。
クリスティ殿下は今更になって言われたくもないだろうが、申し訳ねぇ。姉貴に代わって謝る、申し訳ねぇ。
「そうだろう? ジェフ。」
ハッ、待てよ……? 姉貴が第一皇子に対してやらかしたって事は、第二皇子にも同じ事をやらかしてる可能性が……。
大いにあるだろう。むしろ、無い可能性の方が低いと言ってもいい。
「……はい、兄上。」
食事会が始まってから、初めて、ジェフリー殿下の声を聞いた。
少し硬めで、オレよりもちょっと高い声。
たった一呼吸程度の短い言葉を聞くだけで、オレは気分が浮足立つ。
浮付いてる場合じゃないってのに。
もしかしたら、姉貴から無茶な事をされたんじゃないか。
そう思ってジッとジェフリー殿下を見詰めてみたが、相変わらずの無表情……いや、関心の無さを明らかにした表情のままだ。
ソテーされた魚にフォークを入れる作業で忙しそうにしてる。
一連の話に何の興味も無けりゃ、自分の兄から話し掛けられるのも鬱陶しいか。
これじゃ、姉との間に何かあったのか、どうなのか。全く窺えねぇ。
っつ~かよ。本当にもう、分かっちゃいるんだが。
もうちょっとでいいからよ、何か反応しねぇか?
視線を感じて顔を上げる、とか……何かあるだろう?
お前にとっちゃ、面白くもねぇ食事会に無理矢理参加させられて、どうとも思ってねぇ男にジロジロ見られて、不愉快なんだろうなってのは分かるがよ?
何故、気にならない? なんでだ? 気付いてないのか?
あぁ~あ、なんでこんな……反応の無い、眼中に入れてもくれねぇ相手が好きなんだろうなぁ、オレは。
グダグダしてても仕方ねぇ。
せっかく今、クリスティ殿下がジェフリー殿下に話し掛けたんだ。
この流れでオレも会話に参加したって、別に構わんだろう。
今日こそは話をすると決めて来ただろう、オレよ。
とりあえずは声を掛けるんだ。
ジェフリー殿下、と。
一言、まずは呼び掛ければいい。
何を話そうか……あぁそうだ。
姉の話が出てるんだから、それでいいか。
ひとしきり考え、自分で自分の背中を押した。
行けそうな気がする。
「じ、ジェ…」
「ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
食堂に響き渡るのは弟、レイモンドの声だ。
大声を出してるわけでもねぇのに、我が弟君の声は非常によく通る。
ガキの頃から俺とレイは、どうも喋り出すタイミングが重なるらしい。
そして大抵、レイの声だけが周囲に聞こえて、オレは喋ってもいない事になる。
今も。完全に出鼻を挫かれた。
クリスティ殿下が微笑の消えた顔をレイに向ける。
ジェフリー殿下はレイの言葉に、ピクリとも反応しなかった。
レイがオレと同じように無視されてる事に、オレはちょっと安心して。
次の瞬間、自己嫌悪だ。
……兄として、情けねぇな。
オレは密かに申し訳なく思いつつ、黙って見守る事にした。
レイの発言を遮ってまで、この場の会話を攫うような話題は、オレには無い。
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