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定例の交流会にて
定例の交流会にて・2 ◇俯瞰視点
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そんな空気の中、皇帝と宰相はお互いの趣味である釣りの話で盛り上がっていた。
今年は川釣りにたったの三回しか行けなかった、だの。海釣りにはもう二年以上もご無沙汰だ、だの。
それはもう、延々と。
興味が無く、ただ聞かされるだけの側にしてみれば、実に辛い時間でしかない。
宰相の息子二人は家でも聞かされているのか、相槌を打つ事もない。
会話をしている一人が皇帝である為、一応は聞く姿勢を取っているだけだ。
第二皇子はゆっくりと食事を摂っている。
明らかに聞き流している彼を咎める者はいなかった。
第一皇子は人形皇子と揶揄される事もある美貌を、皇帝と宰相へと向けている。
傍から見る限り、彼だけが話をちゃんと聞いているように見えた。
海釣りという単語から、話は流れ……他国へ外遊中の第一皇女と、彼女に同行している宰相の長女へと移って行った。
次期皇帝となる第一皇女とその一行は、少し前から、小国連合に属する海沿いの国を滞在していた。
滞在先から素晴らしい釣竿が送られて来たと、少年のような表情で話す皇帝と宰相。
もう良い頃合いだろう、と。
計っていたように口を開いたのは第一皇子。
「流石はロザリンド嬢だ。実に相手の事を考えた、心の暖かい贈り物ですね。あの人は昔から優しくて、能力も秀でている。優秀とは彼女の為にあるような言葉ではないですか。ロザリンド嬢に支えられる事は、姉にとっても国にとっても心強い事でしょう。」
緩やかに口端を吊り上げれば、第一皇子の顔には完璧な冷笑が浮かび上がる。
言葉は皇帝と宰相に向けつつも、視線はチラリと宰相の息子二人へと向けた。
嘲るような視線を、既に苛立った様子の長男は暗い眼差しで受け止める。
この後に第一皇子が何を言うか、その予測が付いたというように、次男は辟易とした表情を浮かべる。
「好き嫌いを無くしてやろうと気遣ったロザリンド嬢から、大嫌いな物を山ほど投げ付けられた事も……良い思い出になりますね?」
敬語で話す言葉遣いは、あくまでも皇帝と宰相に向けたものであると示している。
しかし、その内容は誰に向けての言葉であるか……。
「ぐっ……。」
長男は咄嗟に歯を食いしばり、皇子達に見られない位置で拳を握る。
それを見た第一皇子の顔が冷笑から、愉悦を滲ませたものに変わった。
長女のお陰で第一皇子は苦手な食べ物を克服したようだが、長男は未だ、幾つかの野菜に好き嫌いがあった。嫌いな野菜を省いて行くとサラダが半分以下の量に減るぐらいには。
もちろん今は、子供の頃のように残したり、いつまでも食べられないという事はなくなっているのだが。成人した男としては少々恥ずかしい事であるのは否めない。
「そうだろう? ジェフ。」
「……はい、兄上。」
長男が悔し気な表情を見せた事で、第一皇子はすぐに興味を無くしたようだ。隣の第二皇子へと水を向ける。
しかし、第二皇子は最初から微塵も興味が無さそうだ。
運ばれて来た皿に盛り付けられている料理の、死んだ魚の目の方がよっぽど気になるらしい。兄である第一皇子から話を振られる事さえ煩わしいと言わんばかりに、感情の籠もらない返事で受け流した。
それきり第二皇子は言葉を発さず、第一皇子も黙る。
空気が更に冷えたように、誰もが感じるだろう。……ただし、この雰囲気の中、釣り話に戻して小声で会話を続けている皇帝と宰相を除く。
第二皇子は基本的に、交流食事会では殆ど喋らない。自分から口を開く事が無い。
よって、宰相の息子達と言い合いになる事も無く。皇帝や第一皇子が話し掛けた場合も、今のように短い言葉で受け流すのみで、その会話自体が終わる事も多い。
今回もこのまま話が途切れるか、と思われたが……。
そうはならなかった。
先程の第一皇子の発言に食い付いた者がいる。
「……ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
ずっと呆れたような視線で眺めていた男。
宰相の次男レイモンド……参戦。
今年は川釣りにたったの三回しか行けなかった、だの。海釣りにはもう二年以上もご無沙汰だ、だの。
それはもう、延々と。
興味が無く、ただ聞かされるだけの側にしてみれば、実に辛い時間でしかない。
宰相の息子二人は家でも聞かされているのか、相槌を打つ事もない。
会話をしている一人が皇帝である為、一応は聞く姿勢を取っているだけだ。
第二皇子はゆっくりと食事を摂っている。
明らかに聞き流している彼を咎める者はいなかった。
第一皇子は人形皇子と揶揄される事もある美貌を、皇帝と宰相へと向けている。
傍から見る限り、彼だけが話をちゃんと聞いているように見えた。
海釣りという単語から、話は流れ……他国へ外遊中の第一皇女と、彼女に同行している宰相の長女へと移って行った。
次期皇帝となる第一皇女とその一行は、少し前から、小国連合に属する海沿いの国を滞在していた。
滞在先から素晴らしい釣竿が送られて来たと、少年のような表情で話す皇帝と宰相。
もう良い頃合いだろう、と。
計っていたように口を開いたのは第一皇子。
「流石はロザリンド嬢だ。実に相手の事を考えた、心の暖かい贈り物ですね。あの人は昔から優しくて、能力も秀でている。優秀とは彼女の為にあるような言葉ではないですか。ロザリンド嬢に支えられる事は、姉にとっても国にとっても心強い事でしょう。」
緩やかに口端を吊り上げれば、第一皇子の顔には完璧な冷笑が浮かび上がる。
言葉は皇帝と宰相に向けつつも、視線はチラリと宰相の息子二人へと向けた。
嘲るような視線を、既に苛立った様子の長男は暗い眼差しで受け止める。
この後に第一皇子が何を言うか、その予測が付いたというように、次男は辟易とした表情を浮かべる。
「好き嫌いを無くしてやろうと気遣ったロザリンド嬢から、大嫌いな物を山ほど投げ付けられた事も……良い思い出になりますね?」
敬語で話す言葉遣いは、あくまでも皇帝と宰相に向けたものであると示している。
しかし、その内容は誰に向けての言葉であるか……。
「ぐっ……。」
長男は咄嗟に歯を食いしばり、皇子達に見られない位置で拳を握る。
それを見た第一皇子の顔が冷笑から、愉悦を滲ませたものに変わった。
長女のお陰で第一皇子は苦手な食べ物を克服したようだが、長男は未だ、幾つかの野菜に好き嫌いがあった。嫌いな野菜を省いて行くとサラダが半分以下の量に減るぐらいには。
もちろん今は、子供の頃のように残したり、いつまでも食べられないという事はなくなっているのだが。成人した男としては少々恥ずかしい事であるのは否めない。
「そうだろう? ジェフ。」
「……はい、兄上。」
長男が悔し気な表情を見せた事で、第一皇子はすぐに興味を無くしたようだ。隣の第二皇子へと水を向ける。
しかし、第二皇子は最初から微塵も興味が無さそうだ。
運ばれて来た皿に盛り付けられている料理の、死んだ魚の目の方がよっぽど気になるらしい。兄である第一皇子から話を振られる事さえ煩わしいと言わんばかりに、感情の籠もらない返事で受け流した。
それきり第二皇子は言葉を発さず、第一皇子も黙る。
空気が更に冷えたように、誰もが感じるだろう。……ただし、この雰囲気の中、釣り話に戻して小声で会話を続けている皇帝と宰相を除く。
第二皇子は基本的に、交流食事会では殆ど喋らない。自分から口を開く事が無い。
よって、宰相の息子達と言い合いになる事も無く。皇帝や第一皇子が話し掛けた場合も、今のように短い言葉で受け流すのみで、その会話自体が終わる事も多い。
今回もこのまま話が途切れるか、と思われたが……。
そうはならなかった。
先程の第一皇子の発言に食い付いた者がいる。
「……ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
ずっと呆れたような視線で眺めていた男。
宰相の次男レイモンド……参戦。
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