3 / 60
定例の交流会にて
定例の交流会にて・2 ◇俯瞰視点
しおりを挟む
そんな空気の中、皇帝と宰相はお互いの趣味である釣りの話で盛り上がっていた。
今年は川釣りにたったの三回しか行けなかった、だの。海釣りにはもう二年以上もご無沙汰だ、だの。
それはもう、延々と。
興味が無く、ただ聞かされるだけの側にしてみれば、実に辛い時間でしかない。
宰相の息子二人は家でも聞かされているのか、相槌を打つ事もない。
会話をしている一人が皇帝である為、一応は聞く姿勢を取っているだけだ。
第二皇子はゆっくりと食事を摂っている。
明らかに聞き流している彼を咎める者はいなかった。
第一皇子は人形皇子と揶揄される事もある美貌を、皇帝と宰相へと向けている。
傍から見る限り、彼だけが話をちゃんと聞いているように見えた。
海釣りという単語から、話は流れ……他国へ外遊中の第一皇女と、彼女に同行している宰相の長女へと移って行った。
次期皇帝となる第一皇女とその一行は、少し前から、小国連合に属する海沿いの国を滞在していた。
滞在先から素晴らしい釣竿が送られて来たと、少年のような表情で話す皇帝と宰相。
もう良い頃合いだろう、と。
計っていたように口を開いたのは第一皇子。
「流石はロザリンド嬢だ。実に相手の事を考えた、心の暖かい贈り物ですね。あの人は昔から優しくて、能力も秀でている。優秀とは彼女の為にあるような言葉ではないですか。ロザリンド嬢に支えられる事は、姉にとっても国にとっても心強い事でしょう。」
緩やかに口端を吊り上げれば、第一皇子の顔には完璧な冷笑が浮かび上がる。
言葉は皇帝と宰相に向けつつも、視線はチラリと宰相の息子二人へと向けた。
嘲るような視線を、既に苛立った様子の長男は暗い眼差しで受け止める。
この後に第一皇子が何を言うか、その予測が付いたというように、次男は辟易とした表情を浮かべる。
「好き嫌いを無くしてやろうと気遣ったロザリンド嬢から、大嫌いな物を山ほど投げ付けられた事も……良い思い出になりますね?」
敬語で話す言葉遣いは、あくまでも皇帝と宰相に向けたものであると示している。
しかし、その内容は誰に向けての言葉であるか……。
「ぐっ……。」
長男は咄嗟に歯を食いしばり、皇子達に見られない位置で拳を握る。
それを見た第一皇子の顔が冷笑から、愉悦を滲ませたものに変わった。
長女のお陰で第一皇子は苦手な食べ物を克服したようだが、長男は未だ、幾つかの野菜に好き嫌いがあった。嫌いな野菜を省いて行くとサラダが半分以下の量に減るぐらいには。
もちろん今は、子供の頃のように残したり、いつまでも食べられないという事はなくなっているのだが。成人した男としては少々恥ずかしい事であるのは否めない。
「そうだろう? ジェフ。」
「……はい、兄上。」
長男が悔し気な表情を見せた事で、第一皇子はすぐに興味を無くしたようだ。隣の第二皇子へと水を向ける。
しかし、第二皇子は最初から微塵も興味が無さそうだ。
運ばれて来た皿に盛り付けられている料理の、死んだ魚の目の方がよっぽど気になるらしい。兄である第一皇子から話を振られる事さえ煩わしいと言わんばかりに、感情の籠もらない返事で受け流した。
それきり第二皇子は言葉を発さず、第一皇子も黙る。
空気が更に冷えたように、誰もが感じるだろう。……ただし、この雰囲気の中、釣り話に戻して小声で会話を続けている皇帝と宰相を除く。
第二皇子は基本的に、交流食事会では殆ど喋らない。自分から口を開く事が無い。
よって、宰相の息子達と言い合いになる事も無く。皇帝や第一皇子が話し掛けた場合も、今のように短い言葉で受け流すのみで、その会話自体が終わる事も多い。
今回もこのまま話が途切れるか、と思われたが……。
そうはならなかった。
先程の第一皇子の発言に食い付いた者がいる。
「……ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
ずっと呆れたような視線で眺めていた男。
宰相の次男レイモンド……参戦。
今年は川釣りにたったの三回しか行けなかった、だの。海釣りにはもう二年以上もご無沙汰だ、だの。
それはもう、延々と。
興味が無く、ただ聞かされるだけの側にしてみれば、実に辛い時間でしかない。
宰相の息子二人は家でも聞かされているのか、相槌を打つ事もない。
会話をしている一人が皇帝である為、一応は聞く姿勢を取っているだけだ。
第二皇子はゆっくりと食事を摂っている。
明らかに聞き流している彼を咎める者はいなかった。
第一皇子は人形皇子と揶揄される事もある美貌を、皇帝と宰相へと向けている。
傍から見る限り、彼だけが話をちゃんと聞いているように見えた。
海釣りという単語から、話は流れ……他国へ外遊中の第一皇女と、彼女に同行している宰相の長女へと移って行った。
次期皇帝となる第一皇女とその一行は、少し前から、小国連合に属する海沿いの国を滞在していた。
滞在先から素晴らしい釣竿が送られて来たと、少年のような表情で話す皇帝と宰相。
もう良い頃合いだろう、と。
計っていたように口を開いたのは第一皇子。
「流石はロザリンド嬢だ。実に相手の事を考えた、心の暖かい贈り物ですね。あの人は昔から優しくて、能力も秀でている。優秀とは彼女の為にあるような言葉ではないですか。ロザリンド嬢に支えられる事は、姉にとっても国にとっても心強い事でしょう。」
緩やかに口端を吊り上げれば、第一皇子の顔には完璧な冷笑が浮かび上がる。
言葉は皇帝と宰相に向けつつも、視線はチラリと宰相の息子二人へと向けた。
嘲るような視線を、既に苛立った様子の長男は暗い眼差しで受け止める。
この後に第一皇子が何を言うか、その予測が付いたというように、次男は辟易とした表情を浮かべる。
「好き嫌いを無くしてやろうと気遣ったロザリンド嬢から、大嫌いな物を山ほど投げ付けられた事も……良い思い出になりますね?」
敬語で話す言葉遣いは、あくまでも皇帝と宰相に向けたものであると示している。
しかし、その内容は誰に向けての言葉であるか……。
「ぐっ……。」
長男は咄嗟に歯を食いしばり、皇子達に見られない位置で拳を握る。
それを見た第一皇子の顔が冷笑から、愉悦を滲ませたものに変わった。
長女のお陰で第一皇子は苦手な食べ物を克服したようだが、長男は未だ、幾つかの野菜に好き嫌いがあった。嫌いな野菜を省いて行くとサラダが半分以下の量に減るぐらいには。
もちろん今は、子供の頃のように残したり、いつまでも食べられないという事はなくなっているのだが。成人した男としては少々恥ずかしい事であるのは否めない。
「そうだろう? ジェフ。」
「……はい、兄上。」
長男が悔し気な表情を見せた事で、第一皇子はすぐに興味を無くしたようだ。隣の第二皇子へと水を向ける。
しかし、第二皇子は最初から微塵も興味が無さそうだ。
運ばれて来た皿に盛り付けられている料理の、死んだ魚の目の方がよっぽど気になるらしい。兄である第一皇子から話を振られる事さえ煩わしいと言わんばかりに、感情の籠もらない返事で受け流した。
それきり第二皇子は言葉を発さず、第一皇子も黙る。
空気が更に冷えたように、誰もが感じるだろう。……ただし、この雰囲気の中、釣り話に戻して小声で会話を続けている皇帝と宰相を除く。
第二皇子は基本的に、交流食事会では殆ど喋らない。自分から口を開く事が無い。
よって、宰相の息子達と言い合いになる事も無く。皇帝や第一皇子が話し掛けた場合も、今のように短い言葉で受け流すのみで、その会話自体が終わる事も多い。
今回もこのまま話が途切れるか、と思われたが……。
そうはならなかった。
先程の第一皇子の発言に食い付いた者がいる。
「……ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
ずっと呆れたような視線で眺めていた男。
宰相の次男レイモンド……参戦。
10
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

皇帝の立役者
白鳩 唯斗
BL
実の弟に毒を盛られた。
「全てあなた達が悪いんですよ」
ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。
その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。
目を開けると、数年前に回帰していた。


主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー
selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。
幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)

もういいや
senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる