美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、外の世界に出て色々衝撃を受けたりしながら遊ぶ

ぼくの『麗しい』な兄は艶やかにご立腹らしい

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ぼく達が身体を洗って身支度を整えた頃には。
薄々気が付いてはいたが、すっかり夕方になっていた。
楽しい時間は本当にあっという間だね。

休憩室の利用後にも、何か手続きが必要なのか。分からずに困っていると、またもやエドガーが助けてくれたんだ。
彼は見計らったように絶妙なタイミングで、色々と心得た顔でやって来た。
そして、ぼく達に分かりやすく説明もしながら、速やかに利用終了の手続きを済ませてくれたんだよ。

流石は学級委員長、エドガーは優秀だね、気が利くね、有難いね。
もうエドガーに足を向けて寝られないよね。
むしろ、寝るなら抱き締めて寝たいもんだよね。

お昼に兄を宿へと連れ帰ったカーネフォード家の馬車は、幸いにもぼくを迎えに来てくれていた。
出来る事なら一緒にエドガーを乗せて、彼の家までキャッキャウフフしながら送って行きたかったんだが。
残念な事にエドガーは学生寮暮らしだったよ。本当に、実に残念だ。
あぁ、まさかとは思うが……やんわりと断られたんじゃないよね?
エドガーはそんな嘘を吐く子じゃないと、ぼくは信じているよ。ぼくのエドガーがそんな悪い子なわけがない。
しかし淫靡な意味での悪い子なら大歓迎だ、お仕置きしないとね。ふふっ。






さて………………、と。



調子に乗るのはこの辺で止めておこうかな。

何故なら、ぼくは今。


「………。」
「えぃ、エイベル兄さん……?」
「………。」
「どうかした?」
「………。」

非常に気まずい空気の中に居るからだ。



場所は、自宅へと帰る途中の馬車の中。
時間は、ぼくとアルフォンソとの思い出メモリアルがあった日の翌日。しかも、もう夕方近い。
シチュエーションは、恐らくだが。ぼくが絶賛・叱られ中……かな。

とにかく兄の機嫌がすこぶる良くない。
大事な事なのでもう一度繰り返す。
学校で一番の『麗しい』な兄は今、機嫌がとても麗しくないようだ。
向かい側の座席からずっと、無言でぼくを睨んでいる。

ただ……兄の機嫌とは裏腹に、見た目は激烈な『麗しい』だ。
元から細いのに今は半分しか開いていない瞳。薄くて一直線な唇は、こっそりと歯を食いしばっているからか、更に水平になっている。
正直これは控えめに表現しても。いつにも増した……言うなれば、とても気合いを入れた『麗しい』に他ならない。


ねぇ、エイベル兄さん? どんなに怒っているとしても、その顔じゃ相手を喜ばせるだけだよ?
これだけ破壊力ある『麗しい』で殴り付けられたら、誰だって堪らない。ご褒美だと錯覚しちゃうよ?
ぼくはぼくの中にサトル的なボクがいるから、若干興奮はしてもそれを胸中に収めておけるんだ。だから今も、兄さんの身が安全で居られるんだからね?


――― すげぇ。コケシが睨んで来る。こっわぁ……。
……… サトルは遠慮してくれないか、ぶち殺すよっ!


急に出しゃばって来たサトル的なボクを、ぼくは穏やかに黙らせた。
ボクの感覚があるおかげで、『麗しい』が増量中な兄を襲わずに居られるのは有難いと思っているがね。それとこれとは話が別だ。


もういい加減にサトル的なボクは、エイベル兄さんの『麗しい』を揶揄うのを止めて欲しいものだ。
たまにでも、素でドキッとしている事にぼくは気が付いているからね。

エイベル兄さんも。
もういい加減に、自分が表情豊かな顔をするとどれだけ危ういかを理解して欲しいものだよ。高ランクの『麗しい』を何年やっているんだ。
もしこれが兄のスタンダードな不機嫌顔だとしたら、ぼくは学校内での振舞いを今以上に注意した方が良いだろうか。ぼくの言動が兄を不機嫌顔にさせない為にね。
こんな姿を学校で見せ付けるなんて、実にけしからんじゃないか。




あぁそうそう。学校と言えば。
第一回目の通学最終日に、同級生とランチを一緒に食べたいというぼくの野望が叶う事は無かったよ。
恐らく皆にも予想は付いていたよね?

兄に言い出す事が出来なかったぼくの失態なんだが……朝食を摂っている際に、先んじて兄から宣言されてしまったんだ。
曰く「今日のランチは絶対に個室で食べる」とね。
その時に「ぼくは同級生と食べるよ」とは言えなかった。
兄がとても落ち込んでいるような、不安そうな様子に見えてしまい。その原因は前日のぼくの所為かと、柄にもなく罪悪感を覚えてしまったからだ。


前日に少々無茶をしたにも関わらず、アルフォンソも個室でのランチを共にしてくれた。……のは良いんだが。
アルフォンソの実に可愛らしい様子と、ぼくの何らかの態度。それを見た兄は確信したらしい。ぼくとアルフォンソの間に起こった出来事を。
いやぁ、見事にばれたもんだね。

そこから兄は艶やかに不機嫌になってしまった。
どんな不機嫌かは、既に描写した通りだ。
生徒も先生も、何なら学校関係者も含めて、『皆の憧れエイベル様』がこんなに表情を変える姿を見られたんだ。
本当に今日、学校にいた人達は幸運だよね。
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