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本編●主人公、外の世界に出て色々衝撃を受けたりしながら遊ぶ
ぼくは勢い余ってしまった
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……あぁ駄目だ、本当に苛付くね。
自分に特大級のブーメランが返って来るのを承知で言わせて貰うが。
顔面が中の下、そこそこレベルの癖して!
その程度のツラの持ち主が、ぼくの前で、ぼくの連れの悪口なんて、よくも言えたもんだねぇ……っ!
ゆらり……と。
ぼくはアルフォンソの頬から手を離すと、不愉快な音を発生させる方へと顔を向け…
「アドル……。」
…ようとした、ぼくを。
アルフォンソの落ち着いた声が押し留めた。
ぼくがしようとした事を。言おうとした言葉を。察しているのか。
それをさせないように、アルフォンソがぼくのジャケットの裾を摘んでいる。
どうして止める? 何故だ、アルフォンソ。
ぼくは彼等に言い返してやりたいのに。
「……俺は、慣れているから。大丈夫だ。」
確かにアルフォンソは『麗しい』の高ランクなエイベル兄さんの友人だから、こんな事は多いのかも知れない。
だからと言って傷付かないというわけじゃないだろう。
今も自分で言う程『大丈夫』そうには見えない。
「アルフォンソ……。」
「ほら、アドル? せっかくの紅茶が冷めてしまうぞ?」
苛立ったぼくを宥めるように、アルフォンソは力無い微笑みを浮かべる。
表情に強張りなどは見えず、彼がこうした状況に慣れているんだと分かった。
この世界の顔面偏差値的には、ある意味、当たり前なのかも知れないが。
どうして、黙って耐えなくちゃならないんだ? 侮辱された側の人が……その人を大事に思う誰かが言い返したって良いだろう。
偏差値の低い人を馬鹿にしたければすればいい。
だが、一方的に攻撃する権利が保障されていると思うのは大間違いだよ。
例え爵位の高い人でも、それを笠に着て目に余るような横暴な振る舞いを続ければ、何らかのペナルティを負う事になるんだから。
同等以上のそれを覚悟しなきゃ、でしょ?
「……アドル?」
いつまでも動かないぼくに、アルフォンソは戸惑いを見せる。
通常時なら、ぼくは一生懸命『格好良い』の笑顔を作り出す所だが。
今のぼくは怒りによる興奮と。
アルフォンソが慣れてしまっている事への、妙に悲しい気持ちと。
この世界はこういうものだという、冷静……いや、冷たい考えと。
ぼくと一緒にいるのに平気で悪口を言わせてしまう不甲斐なさで。
恐らく無表情になっているだろう。
「ぼくは嫌だ。……慣れてもいなければ、大丈夫でもないよ。」
「アドル、駄目だっ…」
「ぼくが我慢出来ないんだ。せっかく我慢してくれているアルフォンソには申し訳ないが、ぼくは心が狭いみたいだよ。奇跡ランクの『格好良い』なのに、幻滅させたら御免ね?」
無駄な饒舌さを披露した後、ぼくはアルフォンソの返事を聞かず振り返る。
悪口を垂れ流す彼等を含めた『周囲の』人達に向かってだ。
対人スキルの低いぼくだから。
今からする事は殆ど考えの無い、脊髄反射のような行動。
一歩、足を踏み出して。
悪役俳優がするような芝居掛かった仕草で、ゆっくりと大きく拍手を打つ。
パンっ! パンっ! ……パンっ!
三回目を打ち終わった頃には、喋っている人も、他所を見ていた人も、普通に食事やお茶を楽しんでいた人も。属性を問わず、学年も問わず。
この場に存在する全員から注目させる事に成功した。
言っておくが、学校に通い始めてから今まで。ぼくが自ら人々の注目を集めようとしたのは、学級で自己紹介した時だけだよ。
何事かと固唾を呑んでいる周囲を、ぼくは万遍なく見回した。
ぼくの表情筋はすっかり無表情に固定されているから、さぞや薄気味悪い事だろう。
「ぼくの聞き違いでなければ。今、アルフォンソの悪口が聞こえたんだが、……どうかな?」
質問に答える声は無い。
当たり前だ。ぼくはこんなにも不機嫌さを表しているんだ。
ぼくと親しい間柄でも無ければ、今のぼくに話なんて出来ないだろう。
「辺境伯の子息で、エイベル兄さんの友人でもあるアルフォンソは、ぼくの大事な人だ。その彼が、目の前で軽んじられるなんて……それは絶対に。ぼくは許さない。」
言葉を発しない人々を順番に眺めて行きながら、自分が一番言いたい台詞の部分で、目的の連中へと視線を合わせた。
揃いも揃ってニヤニヤしていた顔が蒼白になっている。
「もちろん、兄さんも許さないだろうがね。……で? 誰か、心当たりは?」
ぼくが目的グループの所へ行かず、こうして声を張り上げているのは。アルフォンソの近くに居たかったから、だけじゃない。
たまたま耳に入ったのが彼等の会話だっただけで、アルフォンソの悪口を言うのは他にもいるんだろう。
この場の状況が噂になって広まればいいんだ。
静まり返った学食内で、声に出さずに心の中で秒数をカウントする。
ぼくが、ぼくの気持ちを落ち着かせる為に。
こんな威圧をいつまでも続けてはいられないからな。……意外と消耗するんだ。
これだけは言おうと思っている事。それを忘れる前に終わらせなくちゃ。
「気の所為、だったか……。時間を取らせてしまって御免ね?」
ぼくの言葉で、場の空気が僅かに緩む。
だがまだ『凍っている』に等しい状況だ。
「ただ、これだけは知っておいて欲しい。アルフォンソに限らず。アドル・カーネフォードは、一緒にいる人への暴言を我慢出来ないんだ。……よろしく頼むよ。」
そこでようやく、ぼくは『格好良い』の微笑を作った。
話はこれで終わり。という意思表示として。
状況が終了して、どっと疲労感が押し寄せる。
ぼくは若干の不安を纏いながらアルフォンソの様子を窺った。
「え……? ど、どうして?」
驚きの余り、ぼくは思わず声に出していた。
アルフォンソが声も出さずに泣いているからだ。
自分に特大級のブーメランが返って来るのを承知で言わせて貰うが。
顔面が中の下、そこそこレベルの癖して!
その程度のツラの持ち主が、ぼくの前で、ぼくの連れの悪口なんて、よくも言えたもんだねぇ……っ!
ゆらり……と。
ぼくはアルフォンソの頬から手を離すと、不愉快な音を発生させる方へと顔を向け…
「アドル……。」
…ようとした、ぼくを。
アルフォンソの落ち着いた声が押し留めた。
ぼくがしようとした事を。言おうとした言葉を。察しているのか。
それをさせないように、アルフォンソがぼくのジャケットの裾を摘んでいる。
どうして止める? 何故だ、アルフォンソ。
ぼくは彼等に言い返してやりたいのに。
「……俺は、慣れているから。大丈夫だ。」
確かにアルフォンソは『麗しい』の高ランクなエイベル兄さんの友人だから、こんな事は多いのかも知れない。
だからと言って傷付かないというわけじゃないだろう。
今も自分で言う程『大丈夫』そうには見えない。
「アルフォンソ……。」
「ほら、アドル? せっかくの紅茶が冷めてしまうぞ?」
苛立ったぼくを宥めるように、アルフォンソは力無い微笑みを浮かべる。
表情に強張りなどは見えず、彼がこうした状況に慣れているんだと分かった。
この世界の顔面偏差値的には、ある意味、当たり前なのかも知れないが。
どうして、黙って耐えなくちゃならないんだ? 侮辱された側の人が……その人を大事に思う誰かが言い返したって良いだろう。
偏差値の低い人を馬鹿にしたければすればいい。
だが、一方的に攻撃する権利が保障されていると思うのは大間違いだよ。
例え爵位の高い人でも、それを笠に着て目に余るような横暴な振る舞いを続ければ、何らかのペナルティを負う事になるんだから。
同等以上のそれを覚悟しなきゃ、でしょ?
「……アドル?」
いつまでも動かないぼくに、アルフォンソは戸惑いを見せる。
通常時なら、ぼくは一生懸命『格好良い』の笑顔を作り出す所だが。
今のぼくは怒りによる興奮と。
アルフォンソが慣れてしまっている事への、妙に悲しい気持ちと。
この世界はこういうものだという、冷静……いや、冷たい考えと。
ぼくと一緒にいるのに平気で悪口を言わせてしまう不甲斐なさで。
恐らく無表情になっているだろう。
「ぼくは嫌だ。……慣れてもいなければ、大丈夫でもないよ。」
「アドル、駄目だっ…」
「ぼくが我慢出来ないんだ。せっかく我慢してくれているアルフォンソには申し訳ないが、ぼくは心が狭いみたいだよ。奇跡ランクの『格好良い』なのに、幻滅させたら御免ね?」
無駄な饒舌さを披露した後、ぼくはアルフォンソの返事を聞かず振り返る。
悪口を垂れ流す彼等を含めた『周囲の』人達に向かってだ。
対人スキルの低いぼくだから。
今からする事は殆ど考えの無い、脊髄反射のような行動。
一歩、足を踏み出して。
悪役俳優がするような芝居掛かった仕草で、ゆっくりと大きく拍手を打つ。
パンっ! パンっ! ……パンっ!
三回目を打ち終わった頃には、喋っている人も、他所を見ていた人も、普通に食事やお茶を楽しんでいた人も。属性を問わず、学年も問わず。
この場に存在する全員から注目させる事に成功した。
言っておくが、学校に通い始めてから今まで。ぼくが自ら人々の注目を集めようとしたのは、学級で自己紹介した時だけだよ。
何事かと固唾を呑んでいる周囲を、ぼくは万遍なく見回した。
ぼくの表情筋はすっかり無表情に固定されているから、さぞや薄気味悪い事だろう。
「ぼくの聞き違いでなければ。今、アルフォンソの悪口が聞こえたんだが、……どうかな?」
質問に答える声は無い。
当たり前だ。ぼくはこんなにも不機嫌さを表しているんだ。
ぼくと親しい間柄でも無ければ、今のぼくに話なんて出来ないだろう。
「辺境伯の子息で、エイベル兄さんの友人でもあるアルフォンソは、ぼくの大事な人だ。その彼が、目の前で軽んじられるなんて……それは絶対に。ぼくは許さない。」
言葉を発しない人々を順番に眺めて行きながら、自分が一番言いたい台詞の部分で、目的の連中へと視線を合わせた。
揃いも揃ってニヤニヤしていた顔が蒼白になっている。
「もちろん、兄さんも許さないだろうがね。……で? 誰か、心当たりは?」
ぼくが目的グループの所へ行かず、こうして声を張り上げているのは。アルフォンソの近くに居たかったから、だけじゃない。
たまたま耳に入ったのが彼等の会話だっただけで、アルフォンソの悪口を言うのは他にもいるんだろう。
この場の状況が噂になって広まればいいんだ。
静まり返った学食内で、声に出さずに心の中で秒数をカウントする。
ぼくが、ぼくの気持ちを落ち着かせる為に。
こんな威圧をいつまでも続けてはいられないからな。……意外と消耗するんだ。
これだけは言おうと思っている事。それを忘れる前に終わらせなくちゃ。
「気の所為、だったか……。時間を取らせてしまって御免ね?」
ぼくの言葉で、場の空気が僅かに緩む。
だがまだ『凍っている』に等しい状況だ。
「ただ、これだけは知っておいて欲しい。アルフォンソに限らず。アドル・カーネフォードは、一緒にいる人への暴言を我慢出来ないんだ。……よろしく頼むよ。」
そこでようやく、ぼくは『格好良い』の微笑を作った。
話はこれで終わり。という意思表示として。
状況が終了して、どっと疲労感が押し寄せる。
ぼくは若干の不安を纏いながらアルフォンソの様子を窺った。
「え……? ど、どうして?」
驚きの余り、ぼくは思わず声に出していた。
アルフォンソが声も出さずに泣いているからだ。
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