美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、外の世界に出て色々衝撃を受けたりしながら遊ぶ

ぼくの兄はたぶん放っておいても大丈夫だ

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極め付けの『麗しい』を昂らせたエイベル兄さんが逃げ出した後も、高級レストラン学食にはざわざわとした落ち着かない雰囲気が流れていた。
あんなに超・高ランクに育ちあがった『麗しい』の残滓が、未だそこら中に漂っているんだろう。
自分でも何を言っているのか分からないが、そうとしか思えない程に周囲の雰囲気が浮足立っている。

未だ兄の残像を見て悦んでいる人々に混じり。
気が大きくなったのか、何人かはぼく達の方をニヤニヤしながら見ているようだ。
そんな視線に対してぼくは、今日は……というか、今は、特に何かを思うような事は無かった。

もうね。両頬を押さえて恥じらう兄の姿が印象的過ぎて。興奮し過ぎて。
注目されている事を嫌がるような感覚も、これ幸いと視線の主達を物色するような欲望も。どちらも仮眠を取ってしまっているらしい。


ぼくとアルフォンソは再び席に着いた状態だ。
昼食の途中だったからね。

思わぬご褒美的なアクシデントがあったとは言え、貴重なお昼休みは出来る限りリラックスして過ごしたい。
その時間で、学校でしか交流出来なさそうな人と親しくなれれば御の字だ。
今日はエイベル兄さんが途中退場した為に、ぼく達の席にもう一人か二人、参加させても充分余裕がある。だがしかし、今から同級生の中でも良さ気な者を見繕って呼び付けるには、少々時間の余裕が足りない。

このざわめきの中にアルフォンソを居させる事には若干の引っ掛かりを思えるものの、ぼくは昼休みの残り時間を彼と二人で過ごす気でいた。



「エイベルは、無事だろうか……?」

食後の紅茶を頂いている時。心配そうにアルフォンソが呟いた。
ぼくは口元に運んでいたティーカップをソーサーに乗せ、テーブルへと戻す。


「只でさえ、高ランクに『麗しい』だというのに。……あんな状態で。」
「アルフォンソ。兄さんを心配してくれて、有難う。でも大丈夫だよ?」

兄が走り去ってからずっと、アルフォンソは憂い顔だった。
ぼくはテーブルを挟んだ正面で、彼の表情が陰っている様子をつぶさに観察していたから、何かを気にしているだろうという事は分かっていた。黙り込んでしまっている事にも気が付いていた。
だがぼくは敢えて自分からはアルフォンソに声を掛けなかった。

分かっている癖に酷い、と思う? そうだね、酷いかも知れないね。

ぼくはアルフォンソと……険悪な雰囲気でもない限り、沈黙の時間を過ごす事は不快じゃない。彼の顔を見ているだけでも、ぼくは充分に楽しめるからだ。
アルフォンソを悩ませている事柄が、ぼくの自慢の兄についてであれば、ぼくは別に構わない。それは不快には感じない。


だが。いよいよアルフォンソが心配事を口に出したとなれば、話は別だ。
ぼくは全力で彼の憂いを晴らさなくてはならない。

「兄さんも言っていたが、侍従が付いている。」
「それは分かっている。だが侍従一人では……。」
「大丈夫だよ、アルフォンソ。あぁまで『麗しい』の奔流が激しい兄さんには、ちょっとやそっとの顔面偏差値では手出しが出来ないだろうからね。……大丈夫、だよ?」

安心させるように、ゆっくりと。
ちなみに根拠は無い。ぼくの、全くの勘だ。
だが合っているだろう。そんな気がしている。
ぼくは奇跡ランクの『格好良い』で、それに……何だったかな。あぁそうだ。神の顕現的な存在だからな。
恐らくは大丈夫だろう。


「……そう、だな。エイベル程の…、偏差値なら……。」

少しの安心を見せた後。そっと視線を落とすアルフォンソ。


「私は……エイベルに、付いて来るなと言われた時。それでも、と食い下がる事が出来なかった。」

……しまった。顔面偏差値なんて言うんじゃなかった。
完全にしょんぼりさせてしまったじゃないか。


「友人である事に顔面偏差値は関係無いと、エイベルが言ってくれたのに……。エイベルのそばに、……寄れなかった。」
「アルフォンソ……っ。さ、さっきはあれで良かったんだよ。」

俯いてしまった彼を前に、ぼくは自分の失態を……言葉の選択を後悔する。
思わず立ち上がったぼくは、椅子に腰掛けているアルフォンソの隣に立った。
複雑な心境で自分を責めているだろう彼の肩に手を置くと、僅かにだが緊張したように見える。

「兄さんは恥ずかし過ぎて、誰にも付いて来て欲しくなかったんだと思う。だから兄さんの気持ちを考えれば、あれで良かったんだ。……アルフォンソは何も悪くない。悪いのは、ぼくだ。」

兄が恥ずかしがる原因となった発言をしたのはぼくだからね。
はいはい、ご免なさいね。
多少は反省しないでもないが、あれ程までに恥ずかしがらなくても良いのにね。


「……っ、アドルは悪くない。」

ぼくの言葉に、弾かれたようにアルフォンソが顔を上げた。
気持ちが昂った所為か、瞳がかなり潤っている様子。
立っているぼくを見上げる表情は、少々頼りなさげで庇護欲と同時に嗜虐心も擽られる。


あぁ確かに……悪くないね。
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