美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはアレックを恨んだ事は何度かあるが改めて恨む

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――― 待て、一旦待て。よし、深呼吸をして……。

落ち着こう、ぼく……。落ち着くんだ……そう。お、ち……


落ち着いていられるかああぁ~~~っ!

大激怒だよっ! これもう、大激怒ですよっ、当たり前だよねっ?
今、いい雰囲気だったのに! 絶対、いい雰囲気だったのに!


「こんな所で……誰と会ってるかと思えば。まさかのアリアノール王子とは、な……。」


そうだ、アリーが……。アリーが見ているじゃないか。
こんな所でアレック相手に、声を荒げて、拳を振り回して、抗議なんかしていられない。それはぼくの『格好良い』が奇跡ランクに相応しくない。タチとしても小物っぽいじゃないか。
ここは、そうだ、あくまで『格好良い』を前面に押し出して、冷静に、上から目線で説教してやろう。
その為には、何は無くとも落ち着くんだ、ぼくっ。



無理をして深呼吸するぼく。
無理をして素数を数えるぼく。


ぼくが鋼の精神力で心を落ち着けようとしていると、アレックがカウチの横までやって来る。
そのままアレックは無遠慮に、ぼくの下半身を覗き込むと、わざとらしく肩を竦めた。

「なぁ~んだ。……フェラでもさせてるのかと思ったら膝枕か。つまンねっ。」
「あっ、アレックうぅ~っ!」

直前に心の中で決めた事をぶん投げて、ぼくは声を荒げた。
そんなぼくを、アレックが平然とした顔で見下ろしている。


なん……っ。何て事を言うんだよ、アレック!
唇へのキスもまだなのに、いきなり下半身にキスとかさせないからっ。アリーとアレックとは違うからっ。
……いや、そもそもアレックとも……そっちはしていないだろうが。


悲しい事に。
ぼくがアレックを睨んでいる間に、起き上がったアリーは顔を両手で隠して俯いてしまった。
しかも普通に起き上がるよりも、僅かにだが離れた位置に座ったように感じる。

……許すまじ、アレック。
ぼくに人を呪う術があったならば……今すぐ急に、アレックのアナルが疼く呪いを掛けてやりたい。




「アレックの方こそ、何故こんな場所に? 神子様のリウイと話していたのに。」
「あぁそうだ、そう言えば。……アドルに、伝言。」

気持ちだけでも呪いながら、ぼくはアレックが此処に来た理由を問い掛けた。
ちゃんとした理由なんて無いだろうと思っていたが、意外な事に理由があったらしい。


「だったら早く、メッセンジャーの役割を果たして、アレックは会場に戻ったら?」
「……。さぁ~て、どうしようかなぁ~?」

焦らしている気なのか、『エロエロしい』の唇を僅かに吊り上げて微笑を形作る。
でもアレックの瞳は笑っていない。彼は彼で、何かしら機嫌が宜しくないんだろう。

リウイとの話の途中で誰かに邪魔された……かな。


「……ア、レッ、クぅ?」
「はいはい、冗談だって。……神子様、休憩するってさ。」

詰まらなそうにアレックが伝える。
アレックがリウイの事を神子様と呼んでいる事にやや違和感を覚えたが、まぁ今は気にする事じゃないから置いておくとして。


「そう。じゃあ、ぼくも休憩しようか…」
「神子様が、休憩室でアドルと話したいって言ってたぞ。」
「……それを一番最初に言ってくれないかな、アレック。」

リウイが。リウイがぼくと話したい、だと?
そんな大事な事をアレックよ、何故にさっさと伝えないのかアレックよ。


リウイがこの伝言をアレックに託したのはいつなんだろう。もうだいぶ時間が経っちゃったかな。休憩時間、どれぐらいなんだろうね。そもそも休憩室が何処なのか知らないんだが……あぁ、それは誰かに聞くとしよう。恐らくもうかなり待たせちゃっているよね。リウイは待っていてくれるかな。
……とにかく、こうしちゃいられない!

ぼくはカウチから立ち上がった。



「御免ね、アリー。残念だが……どうやら呼ばれているようだから、ぼくは行って来るよ。」
「あ、はい。……行ってらっしゃい。」
「うん。……チュ。………またね?」

ぼくを見送るアリーが、なんだか健気な台詞を言うので。ぼくは。
条件反射みたいにアリーに引き寄せられて、彼の前髪に唇を触れさせた。


「あっれ? 俺には?」
「キミは、また今度。」

自分の唇に指を当てながら挑発して来るアレックをスルー。

だってぼくは、まだ……いや、今。改めてアレックを恨んでいるんだから。
そんな、仲良くチューなんかするはずが無いだろう。



惜しい事をした、と。
きっと後から思うんだろうな、きっと。
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