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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくはアルフォンソに甘える
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「冷たい布をずっと押し当てていたから、すっかり冷たくなっちゃった。……アルフォンソ、温めて?」
まだ二人とも着席していないのを良い事に、ぼくは何気なくアルフォンソの手を取って、強請ってみた。
ぴくりと肩を震わせたものの、アルフォンソは特に抵抗を見せない。導かれるままにぼくの頬に触れ、そっと包んでくれる。
じっと手を動かさない所を見ると、彼は律儀にぼくの頬が冷たくなくなるまで温めてくれる気なんだろう。
ぼくがエイベル兄さんの弟だという前提があるからなのか、アルフォンソはぼくに対して友好的だ。
そりゃあ『格好良い』の奇跡ランクに対して無礼を働く人は少ないだろうし、出来ればお近付きになりたいと思う人の方が多いだろうが、そういう意味でなくて。
彼はぼくから逃げない。ぼくがフレンドリーな交流を望めばそれを叶えてくれる。
ぼくが体感した一般的な、普通の態度は。ぼくに好意を持ってくれたとしても、やはりどうしても一歩引いた、失礼のない丁寧なものだ。呼び捨てにして欲しい、という願いが叶う事もあまり無い。
アレックは……まぁ。あれは『エロエロしい』の高ランクだし、タチだし、今のぼくにとっては対象外。例外中の例外とするとして、だ。
アリーもアンディも、まだぼくを呼び捨てには出来ない。寛いだ口調で話す事も出来ない。王子である彼等は、そもそもがそんな風に教育されていないから、それも仕方ないんだろうがね。
……それでも、ぼくはそれを残念に思うのと同時に、距離を置こうとされているようで淋しく感じていたんだ。たぶん、きっと、自分でも知らない内に。
アリーにもアンディにも、そんなつもりは無いんだろうが。
傲慢な考えかも知れないが。
ぼくが望んだにも関わらず『格好良い』の奇跡ランクに接する態度を変えて貰えないのは、ぼくへの、非常に穏やかな拒絶じゃないかと感じてしまう。
アルフォンソはぼくを拒絶しない。ぼくに触れてくれる。
「せっかく冷やしていたのに……温かくなってしまったな。」
あぁ残念。治ってしまったようだね。
ほんの少し考え事をしていただけの時間で、ぼくの皮膚はぼくを裏切ったよ。
頬から掌を外したアルフォンソが、確認するようにぼくをじっと見る。
安心したように微笑んだから、恐らく頬の調子は戻ったんだろう。
「……だいぶ良くなった。あんなに赤くなっているのを見た時は、本当にどうしようかと思った……。」
「心配掛けてごめんね? 温めてくれて有難う。」
ホッと息を吐くアルフォンソ。
ぼくは『格好良い』な台詞を意識する前に、自然と口から言葉が出ていた。……うんまぁ、お礼を言うのは普通だろうがね。
「……そう言えば。ねぇ、アルフォンソ? ウェラン司祭から何か言われて来たんだよね?」
部屋に入って来た時の彼の言葉を思い出して、ぼくは念の為に確認する。
もし彼が何かの要件を伝えに来たとかだったら。ぼくが愚図愚図しているばっかりに用を足せないというのは、流石に申し訳ないし、彼の評価にも関わってしまうかも。
聞かれたアルフォンソは、ぼくを見ていた視線を少し逸らして決まり悪い表情になる。
「ぅん? あ、あー、いや……。」
「何か言い難いような事?」
「いや。あー……。ウェラン司祭が、な。」
「……うん?」
本当に、言い難そうなアルフォンソ。
じわじわと頬が赤くなっていく様子をぼくは大人しく見守った。
褒めて欲しい。大人しく見守ったんだ。
まるで王子様のように綺麗で凛々しい端正な顔立ちが、言い淀みながら頬を染めていく姿を、至近距離で目の当たりにしながらだよ。
王子様と言っても、ガサツで破天荒な乱暴者だの、子供っぽく下の者や婚約者に怒鳴り散らす精神破綻者だのとは違う、正統派の文武両道イケメンな王子様だからねっ。
ぼくと入れ替わるように、すっかり赤くなったアルフォンソが咳払いを一つ。
「アドルがこの部屋で休んでいて退屈しているだろうから付き合ってやれ、と。」
「……それだけ?」
それだけの事で彼が赤面するはずがない。
ぼくはそう決め込んで追求した。
その決め付けは当たっていたようだ。
アルフォンソは続けて口を開く。
「あー、その……。落ち込んでいたら慰めてやるのも良いだろう、と。ウェラン司祭と神子リウイ様は、パーティ会場からそのまま、部屋に戻られるそうだ。」
慰める、ねぇ……。
ぼくがリウイに引っ叩かれる所も、その後の様子も、ウェラン司祭に全部見られているからな。
まさかウェラン司祭。
お茶や茶菓子だけでなく、そういうお膳立てまでしてくれた、のか……?
まだ二人とも着席していないのを良い事に、ぼくは何気なくアルフォンソの手を取って、強請ってみた。
ぴくりと肩を震わせたものの、アルフォンソは特に抵抗を見せない。導かれるままにぼくの頬に触れ、そっと包んでくれる。
じっと手を動かさない所を見ると、彼は律儀にぼくの頬が冷たくなくなるまで温めてくれる気なんだろう。
ぼくがエイベル兄さんの弟だという前提があるからなのか、アルフォンソはぼくに対して友好的だ。
そりゃあ『格好良い』の奇跡ランクに対して無礼を働く人は少ないだろうし、出来ればお近付きになりたいと思う人の方が多いだろうが、そういう意味でなくて。
彼はぼくから逃げない。ぼくがフレンドリーな交流を望めばそれを叶えてくれる。
ぼくが体感した一般的な、普通の態度は。ぼくに好意を持ってくれたとしても、やはりどうしても一歩引いた、失礼のない丁寧なものだ。呼び捨てにして欲しい、という願いが叶う事もあまり無い。
アレックは……まぁ。あれは『エロエロしい』の高ランクだし、タチだし、今のぼくにとっては対象外。例外中の例外とするとして、だ。
アリーもアンディも、まだぼくを呼び捨てには出来ない。寛いだ口調で話す事も出来ない。王子である彼等は、そもそもがそんな風に教育されていないから、それも仕方ないんだろうがね。
……それでも、ぼくはそれを残念に思うのと同時に、距離を置こうとされているようで淋しく感じていたんだ。たぶん、きっと、自分でも知らない内に。
アリーにもアンディにも、そんなつもりは無いんだろうが。
傲慢な考えかも知れないが。
ぼくが望んだにも関わらず『格好良い』の奇跡ランクに接する態度を変えて貰えないのは、ぼくへの、非常に穏やかな拒絶じゃないかと感じてしまう。
アルフォンソはぼくを拒絶しない。ぼくに触れてくれる。
「せっかく冷やしていたのに……温かくなってしまったな。」
あぁ残念。治ってしまったようだね。
ほんの少し考え事をしていただけの時間で、ぼくの皮膚はぼくを裏切ったよ。
頬から掌を外したアルフォンソが、確認するようにぼくをじっと見る。
安心したように微笑んだから、恐らく頬の調子は戻ったんだろう。
「……だいぶ良くなった。あんなに赤くなっているのを見た時は、本当にどうしようかと思った……。」
「心配掛けてごめんね? 温めてくれて有難う。」
ホッと息を吐くアルフォンソ。
ぼくは『格好良い』な台詞を意識する前に、自然と口から言葉が出ていた。……うんまぁ、お礼を言うのは普通だろうがね。
「……そう言えば。ねぇ、アルフォンソ? ウェラン司祭から何か言われて来たんだよね?」
部屋に入って来た時の彼の言葉を思い出して、ぼくは念の為に確認する。
もし彼が何かの要件を伝えに来たとかだったら。ぼくが愚図愚図しているばっかりに用を足せないというのは、流石に申し訳ないし、彼の評価にも関わってしまうかも。
聞かれたアルフォンソは、ぼくを見ていた視線を少し逸らして決まり悪い表情になる。
「ぅん? あ、あー、いや……。」
「何か言い難いような事?」
「いや。あー……。ウェラン司祭が、な。」
「……うん?」
本当に、言い難そうなアルフォンソ。
じわじわと頬が赤くなっていく様子をぼくは大人しく見守った。
褒めて欲しい。大人しく見守ったんだ。
まるで王子様のように綺麗で凛々しい端正な顔立ちが、言い淀みながら頬を染めていく姿を、至近距離で目の当たりにしながらだよ。
王子様と言っても、ガサツで破天荒な乱暴者だの、子供っぽく下の者や婚約者に怒鳴り散らす精神破綻者だのとは違う、正統派の文武両道イケメンな王子様だからねっ。
ぼくと入れ替わるように、すっかり赤くなったアルフォンソが咳払いを一つ。
「アドルがこの部屋で休んでいて退屈しているだろうから付き合ってやれ、と。」
「……それだけ?」
それだけの事で彼が赤面するはずがない。
ぼくはそう決め込んで追求した。
その決め付けは当たっていたようだ。
アルフォンソは続けて口を開く。
「あー、その……。落ち込んでいたら慰めてやるのも良いだろう、と。ウェラン司祭と神子リウイ様は、パーティ会場からそのまま、部屋に戻られるそうだ。」
慰める、ねぇ……。
ぼくがリウイに引っ叩かれる所も、その後の様子も、ウェラン司祭に全部見られているからな。
まさかウェラン司祭。
お茶や茶菓子だけでなく、そういうお膳立てまでしてくれた、のか……?
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