美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、外の世界に出て色々衝撃を受けたりしながら遊ぶ

ぼく一人で身支度ぐらい出来るもん

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チチッ、チッ、チュン、チチチチ……。


窓の向こうから鳥の鳴く声が聞こえて、カーテンの隙間から朝日が差し込んで来る。
ぼくはその少し前から目覚めていたんだが、『正に朝』という音と光を確認したこのタイミングで、いよいよ本格的に起き上がる事にした。

今ぼくがいる部屋は、ぼくの部屋でも屋敷でもない。
王都にある高級宿の特別室。
街の外寄りにある学校へ通う為、ぼくとエイベル兄さんは昨日の夕方からここに泊っているんだ。

兄の部屋も当然、特別室。いつも使っている部屋だ。ぼくの部屋とは、扉と廊下を挟んで向かい合っている。
たかだか子爵家の子である兄が、しかも時々使う為だけに、三部屋程の豪華な部屋、浴室、それに侍従の部屋まで。同じフロアに常時用意して貰えているんだ。
顔面偏差値がいかに重要視されているかが分かるというものだね。


ベッドから降りて窓際へ行き、カーテンをもう少しだけ開いて外の景色を眺める。
人々が道を行き交うにはまだ僅かに早い時間だが、それでも職業等によって早起きな人物はいるし、窓から覗くぼくの顔を見られて早朝から騒がしくなるのは避けたい。

……この辺りの加減をどうしようか、難しい所なんだよなぁ。

これから学校に通うに当たり、ぼくの常駐宿があるこの辺りや通学路は、ぼくが何度も行き来する事になる。
面倒を避けたいのであれば、外にいる間中はずっと、仮面とヴェールでぼくの顔面を隠しておくのが一番だろう。
だがしかし、ヴェールは風やちょっとした身体の動きで捲れてしまうし、仮面はちょっと……その、蒸れるから嫌なんだよね。
顔が暑いんだよ。のぼせちゃうんだよ。
出来れば顔面に何も着けずに歩きたいから、慣れて貰えれば有難いんだが。その為には、ぼくの顔をちょくちょく見て貰わねばならないし。

……本当、加減が難しいね。


もう少ししたら朝食の時間だ。
一人だけ連れて来ている侍従……ベニーがぼくを呼びに来るまでの間に、着替えぐらいは済ませておく。顔も洗っておこうかな。
その程度は出来ておかないと、今後の『行く行くは一人暮らしの学生生活』実行が叶わなくなるからね。

そうだ。せっかくだから。
着替えをしながら、『学校』について少し話しておこう。



まず、この世界での学校という制度。ざっくり言うと、こんな感じだ。

 基礎学校:十歳~十二歳の三年間。無料で通えるので平民の子が多い。
      変わり者の貴族や、子供の多い貴族が、子供を通わせる事もある。
      簡単な読み書き、計算、簡単な歴史や社会の事を教わる。
 中等学校:十三~十五歳の三年間。高額ではないが授業料が掛かるようになる。
      人付き合いの練習として貴族も子供を通わせる。平民と貴族が混在。
      基礎学校より程度の高い授業。礼儀作法も教わる。
 高等学校:十六~十八歳の三年間。学ぶ場よりも交流の場。毎日通う必要も無い。
      一般的な平民の子は働き出す為、裕福な平民と貴族の子ばかりが通う。
      授業の難易度はちょっと難しい~馬鹿みたいに難しい、まで。
 専門学院:年齢関係無く、特定の分野を専門的に学ぶ学校。
      才能と努力があれば、中等学校・高等学校をバスして入学するも可能。
      魔法、魔法技術、武術といったジャンルが人気。



ぼくと兄が通うのは高等学校。
裕福な家の息子達や、貴族の令息達が、交流目的で通学している所だ。

もちろん、学ぶ事を目的にしている生徒達もいるだろう。
授業内容としては、難解な計算や、そこまで知らなくてもというぐらい踏み込んだ歴史や地理の知識など、難しいものを敢えて望んで受講する事も出来るらしいから。
だが、学びを第一目的にしている生徒だって、他の生徒との交流を一切排除してやろう。……とまでは思ってはいないはずだ。そういう事にしておこう。

少なくとも、ぼくは他の生徒との交流を楽しみにしている。
出来れば一緒に街へと出掛けて、買い物をしたり、買い食いをしたり、じゃれ合ってみたり、友達っぽい付き合いとかをしたいと思っている。
あと、抱き合うぐらいはいいかな。それと、キスぐらいは、いいよね? 友達でも、仲良くなればそれぐらいは、するよね?




コン、コンッ。

「アドル様? 起きてらっしゃいますか?」


ノックと声で、ぼくは現実に戻って来た。
入室の許可を告げて、侍従のベニーを出迎えるぼく。

「本当に……お一人で支度をされたのですね。」

着替えた姿を見て、ベニーは感慨深げに呟いた。
恐らく二十代半ばぐらいだろうベニーは、『愛くるしい』のそこそこ中ランク。引き篭もり時代のアドルが怯えずに受け答え出来る、数少ない使用人だ。


「とりあえず着替えただけだよ。」

謙遜して言ってはみたものの。
細かい所を直されたり、髪型を整えて貰ったりと。

結局、ベニーの手を借りて身支度を完了させるぼくだった。
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