美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはアレックに邪魔されたのでテラスへと逃げる

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ぼくとリウイのお祝いパーティという名目があるにも関わらず、人々への対応をリウイ一人に押し付けてしまっているのは大変申し訳ないんだが。
その上で、自分の好きなように休憩を取っておいて文句を言うのもなんだが。

ぼくは一人で過ごすのにも飽きていた。

かと言って、自分から誰かに話し掛けるのも。
その特定の誰かがぼくから特別に目を掛けられた、という誤解を生じかねない。

そういう点ではやっぱり、同じ奇跡ランクであるリウイと話すのが一番……ぼく個人の希望から言っても丁度良いんだが。
生憎とリウイはまだ人だかりの中心にいる。


もうお茶は充分にいただいたよ。
まだギリギリ、酒が飲める年齢ではないから。せっかく豊富に取り揃えられているのに、ぼくはそれを楽しむ事も出来ないでいる。
だが、貴族達の子供に混じって加糖果実水……つまりはフルーツジュースだ……を喜んで飲むのも癪だ。


いい加減にリウイが空かないかと様子を見ているんだが、その気配は微塵も感じない。
パーティの主役なのだから仕方ないのか。
でももう片方の主役であるぼくは、こうして休憩を取れているんだから、その辺りはリウイ個人の性格による所が大きいんだろうね。

リウイは断り切れない性格、か……。少々心配になって来るよ。


やはり完全にリウイが人々から解放される事は無さそうだ。
であれば、多少は減って来たタイミングでぼくから話し掛けるしか無いのかな。
会話している人達を掻き分けなきゃならないのか……憂鬱だよ。リウイから来てくれないかなぁ。


その場面を想像して少々うんざりしていると。
こちらを見ているリウイと目が合った。

周囲の人々に一言二言、短めに何かを伝えたリウイが、ぼくの方を見て微笑む。
ゆっくりと足を踏み出す彼の姿が余りにも『麗しい』に過ぎて、しかも神々しくて、周りの人々は追いすがる事が出来なかった。
実はぼくも密かに震えた程だ。


リウイが……。
もしかして、ぼくと話したいと……そう思ってくれているのか?


ぼくはそわそわして豪奢なソファから腰を浮かせた。
リウイがぼくの正面へとやって来る。



ところがそこに。ぼくとリウイの間に入るような猛者が現れた。


「神子・リウイ様。と……アドル、様? 私は第一王子のアレクセイと言います。」


分かっているよ、寧ろ分かりきっていたよ。こんな時に堂々と入って来られるような男だよ、アレックは。
リウイに対する様付けと、ぼくへの呼び掛けに差が付いているように感じるのは、気の所為じゃないよね?

パーティに相応しく、華やかな衣装を身に纏ったアレックが、丁度ぼくとリウイと等間隔な位置に立っている。
少し酒が入っているんだろう、薄っすらと上気させた頬は、とろりと垂れた目元をより一層引き立たせて『エロエロしい』の魅力が零れ出しそうだ。


「良ければアレックと、呼び捨ててください。」

……これはリウイに言っているんだろうね。

アレックとリウイとが初対面だからだろうが。
ねっとりした感じの声音が、昨日、ぼくと話していた時よりも数段、磨きが掛かっているから。


「……少しお話をしませんか? あちらで。」

そう言って示すのは、向かい合わせに設置されている曲線型の長ソファ。
あれに座って会話をする事で、ぐっと距離を近くしようというんだろうが……アレックの視線は、舐めるようにリウイへと絡み付いていた。
気に留めていないように微笑んで対応するリウイだが、若干、困っているようにも見える。

リウイの美醜感覚は前世のままだと言っていたから。
残念だがアレック。キミの『エロエロしい』は通用しないと思うよ。



そんな二人の様子を視界に入れながら、ぼくは軽く息を吐いた。
アドル的なぼくにもサトル的なボクにも、目の保養になっているのに、何故か気分が上がらない。


「申し訳ない。少々、人の多さに酔ってしまって……。」

……ぼくはお邪魔のようだね。
いや、ぼくから見れば邪魔をしたのはアレックの方なんだが。
それでも、ここでリウイを取り合って揉めるという醜態を見せるぐらいなら、ぼくは退く。

声を掛けられる前に背中を向けて、その場から逃げ出した。



ぼくは疲れているんだろう。そうに違いない。
引き篭もりだった癖に、沢山の人を相手に外面良く上手くやろうなんて、欲を掻いた所為だ。
大きなソファで身体を休めようとした所で、誰からも見られるような場所じゃあ、最初から気が休まるわけが無かったんだよ。



しばらく休んでから、ぼくはパーティ会場に復帰するつもりでいる。

一時的な避難として、人がいないであろうテラスへとやって来たぼくは、そこに先客がいるのを発見する。
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