美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

迎えに来て貰ったはずのぼくが空気

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部屋にやって来たのはウェラン司祭とリウイだった。


今日は大事な儀式があるからか、二人とも前に見た時よりもだいぶ立派な衣装を身に纏っている。国王陛下への報告の際には、この上から更に祭服の上着を羽織るだろう。
手首の方に向かって大きく袖が広がるタイプのワンピースを着ているのは二人とも同じだが、ウェラン司祭が白地に金糸で刺繍を施された豪奢な物であるのに対し、リウイは薄い桃色の布地に赤と白の糸で枠付のような模様が刺繍されていた。

司祭が白をベースに金色を差し色にしているのは、これから行われるぼくの顔面偏差値測定……一応、形式上のものだが……を、正式な祭事として認定しているという証拠だ。
だが、リウイが桃色をベースにした祭服を着ている事が、ぼくは少々不思議に感じる。
桃色というのは、祭服においては喜びを表すものだから。

確かに奇跡ランクの認定というものは喜ばしい事だろうと思う。
特にぼくの顔面タイプが主神サトゥルーの『格好良い』だから、それがこの国に存在するという事は慶事に違いないが。

司祭が白を着用しているのに、一神官が着用する色として別な物を選ぶだろうか。
位による差を出すと言うのであれば、同じ色でも布の上等さや刺繍等の飾り、被り物や手に持つ物等で自ずから差が出るのだから。色で差を付ける必要は無いはずだ。
そもそも同じ祭事に出席するんだしね。


……まぁいいや。ぼくが勉強で知る事が出来ないような何らかの事情が、神殿内にもあるんだろう。
そんな事よりリウイだ。久々のリウイ。



「久し振りだね。リウイ……だよね?」

ぼくは浮き浮きする気持ちをどうにか落ち着けて、出来るだけさり気なく話し掛けた。
なのにリウイはぼくに向かって、恭しいお辞儀をしただけだった。

司祭が一緒だからか。それとも、リウイは既に仕事中だから……だろうか。


「申し訳無いのですが、既に儀式が始まっておりますので。友好を深めるのはまた後程、という事に。」

何も声を出さないリウイ……のはずだ……に代わるように、ぼくに声を掛けてくれたのはウェラン司祭。

そう言えばこの人……。
奇跡ランクなぼくに対して、元からそれなりに丁寧に接してはいたが、ぼくの顔面偏差値が明らかになってからも対応に殆ど変化が無いな。ぼくの顔面タイプが『格好良い』だからなのか?
他の司祭達や、神殿長でさえ、測定結果にざわついて、その後のぼくへの対応は緊張感が満載だったというのに。


「あぁ、カーネフォード子爵夫人、本日も大変に『麗しい』ですな。今日という素晴らしい一日を、ご一緒出来るなんて光栄ですよ。」

ぼくの前で、母に下心が丸出しの丁寧な態度を見せる辺りも、ウェラン司祭は変わらなかった。
幾ら年齢が若いとは言え、『格好良い』の奇跡ランクなぼくが見事にスルーされているのも変わらない。

ところがウェラン司祭は。
てっきり『麗しい』のタイプが好きなだけなのかと思ったら。
その後のエイベル兄さんへの挨拶に、特に下心を感じるような無駄な親しさは見えなかった。
兄とぼくに対する温度はほぼ同じぐらい。それなりに丁寧、だ。


どうしたんだ、ウェラン司祭。
兄は母よりも凄い、高ランクな『麗しい』なんだよ? いいのかい?
……いや、目の前であからさまに兄を口説かれるのも困るから、何も無ければそれで良いんだが。



「じゃあ、リウイ。……後でね?」
「アドル……ゴメンな?」

ウェラン司祭が母にかまけている隙に、ぼくはリウイに一言だけ声を掛けた。
ぼくと同じように、こっそりとリウイが返してくれる。

ほんの少しだが、リウイの声が聞けた。
ぼくはそれだけで上機嫌になっていた。




「来て早々ですが、そろそろ参りましょうか。神殿長達が既に支度を済ませています。」

神殿側が公式認定する為の部屋に、ウェラン司祭、リウイ、ぼく達家族三人連れ立って移動する。
先導するウェラン司祭を、ぼくはそっと覗き見た。


これまで然程気にしてはいなかったんだが、一旦気になってしまうと、かなり気になる人だ。

近隣にある神聖国家の王兄であり、公爵である、まぁまぁ『愛くるしい』なオルビー先生と引き合わせてくれたウェラン司祭。
『格好良い』の奇跡ランクであるぼくにも、好きなタイプだろうと思っていた『麗しい』の高ランクである兄にも動じないウェラン司祭。
もしかすると慣れているのかと考えて……ふと思い付いた。
今まで何故それが気にならなかったのかと、逆に自分で不思議に思うぐらいだ。

ウェラン司祭は恐らく、リウイの素顔を知っているんだろうね。
それならば、奇跡ランクにも慣れているというもんだ。


だが……だとしたら……。ウェラン司祭と、リウイの、関係は……?



ベッドに沢山のクッションを並べ、それに背中を預けたウェラン司祭が、リウイを跨らせている。

瞬時にそんな妄想をしてしまい、ぼくの心は祭事どころじゃなくなった。
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