上 下
57 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくとアレックとの約束はノーカンだから

しおりを挟む
「それじゃ、アドルさん。」

ぼくとアレックの不毛な言い争いが、また始まりそうな所で、アンディが空気を変えるように声を掛けて来る。


うん。アンディは、ちゃんと話せる子。
アレックが余計な威圧をしなければ、そして慣れてくれれば、こうやって自分から声を掛ける事も出来るんだよ。


「アドルさんは何処かで、ある程度の経験を済ませて来て貰えますか?」
「あ、……あぁ~。そう、だね……。」
「それで、あの……ぼくの初めてを、貰って…ください。」
「うん、喜んで。」

そっと可愛らしくお強請りするような仕草。
更に、ちょっと悪戯っぽさも感じる、色気のある瞳で見上げられて。

ぼくは、壱も弐も無く了承した。する以外に無いだろう。当たり前じゃないか。
アレックが詰まらなそうに見ていたが、そんな事は気にしないんだ、ぼくは。


「……ネコには甘いんだな。」

そうは言うが、アレック。
キミはタチなんだから、ネコに甘くなってしまう気持ちが分かると思うんだが?
ぼくは自分の事をバリタチとは言わないし、まだ経験も無いが、ネコを可愛がりたいという本能は理解出来るよ?






そんな事をしている内に、時間が経ってしまったらしい。
そろそろ部屋に戻って支度をしなければいけない時間だと、二人の従者がそれぞれに告げる。

ぼくとの『約束』を取り付けたアンディは、嬉しそうに退室して行った。


愚図愚図して部屋に残ったアレックだが、ぼくを見る目線に不満が表れている。

「ぼくがネコじゃないのが、そんなに不満かな?」
「そうだな。こんなに好みな顔だからな。」
「それを言うならぼくもだよ?」
「へぇ? 俺の顔は好みなのか? そりゃ嬉しいなぁ。……まぁいーや。」

全然、まぁいーや、という表情じゃないんだが。

アレックは何かを言いたそうに見えるが、ぼくはそれに構ってやる気は無い。
幾つもの馬鹿馬鹿しい常識のオンパレードで、ぼくはとても疲れたんだ。

食事会までの短時間でもいい。休ませてくれ。



ようやく……寝室ではなく、部屋の外へと繋がる扉の方に足を進めるアレック。
仮にも相手は王子だし、タチだという点にさえ目を瞑れば、容姿はとても素晴らしい。だからぼくも一応、アレックを見送る為にそちらへと近寄った。

扉の前で、アレックがぼくを振り返る。
ぼくが見送りの挨拶を言い出す前に、アレックが口を開いた。

「そう言えば、アドルはまだデビュー前だったか。……十五歳、か。」
「そうなるね。……それが何か?」
「だったら仕方ないのかな、って思っただけ。どうやら箱入りらしいしなぁ。」
「放っておいてよ。……そういうアレックは何歳なの?」


ぼくがそう聞き返すのは自然な流れだと思うんだが。
何故かアレックは目を細めて、一本だけ立てた人差し指を自分の唇に寄せた。

「ヒ・ミ・ツっ。……なーんてな。」
「ぐっ……。」

なーんてな。……じゃないよ、アレック。何を可愛い子ぶっているんだ。
年上なのは分かっているんだから。しかも調べればすぐに分かる事じゃないか。

さっきから……狡いぞ。

アレックはちょいちょい『エロエロしい』を有効活用した表情や仕草で、ぼくを攻撃して来るというのに。
ぼくはと言うと、表情が乏しいどころか微笑オンリー。しかも常識とやらに振り回されて、全然余裕が無くて、こっちからは何の攻撃も出来てないよ。



「引き篭もりの十五歳じゃあ……色々やってみたい気持ちがあるのも、まぁ分かる。」
「あぁ……そう。」

だから? という気持ちを込めて、ジト目でアレックを見つめるぼく。


「だから待っててやるよ。」
「何を……?」
「何回か何十回か、何人か何十人か……抱いてみたら。飽きるっていうか、ある程度はスッキリするだろ。」
「ねぇ……何の話?」

今はぼくと二人きりだと言うのに。
アレックはまた、ぼくの分からない話をするのか。


少々面白くなくて、ぼくは無意識で不貞腐れた。
仏頂面手前なぼくの顔に、アレックが顔を寄せて囁いた。

「アドルが、一頻り『抱く方』で満足したら。……『抱かれる方』の初めては、俺が貰うから。」
「っは……。……っ!」



はあああぁぁぁっっっ? アレックっ、……馬鹿じゃないのかっ?




もしこの時のぼくが喋れていたら、そう言い放っていたはずだ。
だがぼくは言えなかった。



驚きで大声を出しそうになったぼくの口は、アレックの口で塞がれてしまったからだ。




「……約束、な?」

やっと離れたアレックの頬が少し染まっている。


ほら。そんな風に。『エロエロしい』な上に可愛いんだから。
アレックの方が、やっぱりネコじゃないか。そうだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...