美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくの会話能力が低過ぎる

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アンドリュー王子の事を、ぼくがアンディと呼ぶ代わりに。
ぼくは、アリーがなかなか出来ないでいる事を、アンディにさせてみる事にした。

それは。


ぼくと親しげに話す事。


笑わないで欲しい。千里の道も一歩より……いやいや、小さな事からコツコツと、だ。



「じゃあ、アンディ? 二人だけでいる時や、公の場でない時、友人として接する時には……ぼくを、アドルと呼んで欲しいな。さん付けは禁止。ね?」
「そんな……。む、難しいです……。」

嬉しいのに困っている。そんな声音のアンディ。
それを正面から見つめるぼくは、つい楽しくなってしまう。


「アンディ。頑張って? そうだ、練習しようか?」
「えぇっ?」
「ほら……呼んで? アドル、だよ?」
「ぁ……。あ、ド……る…ぅ?」

精一杯頑張ってぼくの名前を呟くアンディ。
これで良いのかと尋ねるように、そっと小首を傾げた。


「そう。その調子だよ、アンディ。」

変な所で区切ってしまったり、終わりが舌っ足らずな感じでやや伸びてしまったりだが。
それらが上手い塩梅に交ざって、色っぽくも可愛いから合格にしよう。



それから程なくして。
アンディの為の暖かい飲み物が、ようやくテーブルに置かれた。

ティーカップを口元に運ぶアンディは、ヴェールを外してくれている。
だが、さっきのアレックの所為だと思うんだが、マスクで額から鼻の下までは隠れたまま。

それは少々残念。だが、どうすれば良いか……。


「はぁ……。温かくて、ホッとします。」
「……うん。香も良いね。」

アンディの動きにつられるように、ぼくも自分の紅茶の香を嗅いだ。
そうやって時間を稼ぎながら密かに困っている。


前にも言った事を繰り返して申し訳ないんだが、ぼくは話題に乏しい。
会話下手というこの特性は、アドル的なもので間違いないが、実はサトル的なものでもある。

前世の世野悟も、自分から色々な話を振るようなタイプじゃなかった。
都合の良い相手として誘われている時は、誘って来る人の方がお喋りだったり、そもそも会話なんかを楽しむような必要が無い場合が多かったから。
友人達といる時でも、友人の方から先に話してくれていた。世野悟はそれに答えたり、対応しているだけで充分に楽しく過ごせた。

ぼくが話せそうな事は、お茶会の時に話しちゃっている。
だからと言って……「アンディ、マスク取ってよ」は余りにも唐突過ぎる。だろうな。



表情の殆ど窺えないアンディが、ずっと黙っているのが……ぼくが会話を切り出すのを待っているように感じる。
あぁいや、恐らくこれはぼくの思い込みだろうがね。

だがやはり、ここは『格好良い』の奇跡ランクであるぼくが、この部屋の中ではホスト側になるであろうぼくが、取り仕切るべきだろうな。

「夕方の食事会なんだが……。」

……何と言う、詰まらない話題だ。他に無かったのか、ぼく。

「アンディも一緒なんだろう?」
「はい。兄上も一緒です。」

正月に集まった親戚の家で、甥っ子と話しているんじゃないんだから。
心なしかアンディから、少しがっかりしたような雰囲気を感じるんだが。


俄かに焦りを感じ始めるぼく。
しかしここで焦りを表に出しては『格好良い』が廃ると言うもの。一旦、落ち着こうじゃないか。

そうだ。アリーの話を聞こうか。

……いや待てよ。アリーとは、ぼくが追い払うようにして別れてしまった。
この部屋をアンディが訪れているのに、アリーが一緒に来ていないという事は。ひょっとしたらアリーは気を悪くしているのかも知れない。
その可能性を考えると、別な事を話した方が良いかも知れないね。




「あの。……一つ、聞いても良いですか?」
「いいよ? 何か気になるような事でも?」

ぼくが必死に考えていると、アンディから声を掛けられた。

ほら。ほらほら、アレック? アンディは話し掛ける事も出来るんだよ?

楽が出来るから質問は大歓迎だよ。アンディから聞かれた事に、ぼくは答えれば良いだけだから。
欲を言えば、名前を呼んでくれればもっと良かったのに。



「アレクセイ王子とセックスしたんですか?」

アンディからの質問は、ぼくが思っていたのとは全然違っていた。



……まさか、王族はこんな話ばっかりなの?
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