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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくの寝室に逃げてどうするの
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「ねぇ、アレック? キミは……。自分の方が可哀想だと、そんな風に言いたいのか?」
まさか自分がそんな風に言われるなんて、思ってもいなかったんだろう。
立て板に水で流れていたアレックの言葉が完全に止まった。
そして屈辱を感じたのか、見る見るうちに顔が赤らんで行く。
「だっ……! 誰が、そんな事を…」
「自分で言ったようなもんじゃないか。自分よりも辛い目に遭っていないんだから我慢出来るはずだ、と。少なくとも、ぼくにはそう聞こえたよ。」
「違うっ! お前は……ただ、タチに厳しいだけだっ。アンドリューがネコだから、肩を持ってるだけだっ!」
「はぁ……。アレック? タチとかネコとか、今は関係…」
「あるっ!」
さっきまでも無駄な言い争いだと思っていたが、今はそれ以上だよ。
ぼくの言葉の所為だが、アレックは完全に頭に血が上ってしまっている。
ぼくは部屋からアレックを追い出そうと画策していたが、こんな遣り取りを望んではいない。
「ぼくはアレックと話すのは嫌いじゃないが……。お互い、もっと普通に会話出来る状態の方がいいな。少し頭を冷やそうよ。」
「……俺は間違った事は言ってない。」
まるで不貞腐れているように見える。
さっきまでのぼくと、ちょうど逆になっているね。
「正しければ良いんじゃない。言い方とか、状況とか、あるだろう? アレックは将来、国を継ぐかも知れ…」
「……どうせ国王になんか成れない。」
視線を床に落とすアレックは、ぼそりと小さく呟いた。
いつの間にか握られていた拳が震えている。
「アレック…」
「もういい!」
呼び掛けるぼくの声を遮って、幼い子が癇癪を起こしたようにアレックが立ち上がる。
「もう……いい!」
アレックはぼくのそばを横切り、アンドリュー王子を無視して。
絶対に『エロエロしい』には相応しくない乱暴な足取りで。
ぼくの背後にある扉の奥へと消えた。扉を閉める時に、凄い音をさせて。
「……え? アレック?」
ぼくはすっかり驚いてしまった。
彼がとても感情的になったから。だけじゃない。
アレックの勢いに怯えて立ち上がってしまったアンドリュー王子と、顔を見合わせる。
だって、アレックが逃げて行った扉の向こうも。
そこもまだ、ぼく用の部屋なんだよ?
コンコン、コンコン。
「ねぇアレック~? そこ、ぼくが使う予定の寝室なんだが~? 行く先を間違えていないかな~?」
ノックして声を掛けても返事が無い。出て来る気配も無い。
鍵が掛かるタイプの扉じゃなさそうだから、ぼくも寝室に入る事は出来る。が。
……強引に引き摺り出すのは、流石にむごいだろう。
機嫌を直すか、恥ずかしくなって出て行くかするまで、放っておくしか無さそうだな。
ぼくは肩を落とし……掛けたが、止めた。
仮にも『格好良い』なぼくが、そんな仕草をしている所を、アンドリュー王子に見られたくない。
「えぇと……御免ね? 何だか変な事を、ぼくとアレックが言い争って。」
「あ、いえ……。」
文字通りに取り繕う笑みを浮かべる嘘くさいぼくに、アンドリュー王子は小さく首を振って見せた。
焦げ茶色の巻き毛がふわりと揺れ、一つ年下なのに仄かな色気を醸し出す。
よし、今さっきまでの、アレックとの事は忘れよう。ぼくは今から、色っぽいネコちゃんを眺めて楽しむんだ。
「あ、アンドリュー王子。座って?」
「はい。」
素直に椅子に腰を下ろしてくれるアンドリュー王子。うん、可愛い。
「あの、アドルさん。僕の事も、兄上やアレクセイ王子のように、あの……愛称で呼んで欲しいです。アンディ、と……。」
恥じらいながらの上目遣い。しかもお強請り。うん、可愛い。
アレック~? 聞いたかい?
キミが「言いたい事も言わない」と評したアンディは、ちゃんと、して欲しい事をぼくに伝えたよ?
黙っている人にも色々と種類があるんだよ。
アンディは、時間は掛かるかも知れないが……追い詰めたりしなければ、言える子だったんだ。
アレックの言い振りは……彼がアンディに対して害意しか無い、というわけじゃないように思うが。
ある意味、正論をぶちかましたキミが、ぼくの寝室に逃げ込んでどうするんだよ。
まさか自分がそんな風に言われるなんて、思ってもいなかったんだろう。
立て板に水で流れていたアレックの言葉が完全に止まった。
そして屈辱を感じたのか、見る見るうちに顔が赤らんで行く。
「だっ……! 誰が、そんな事を…」
「自分で言ったようなもんじゃないか。自分よりも辛い目に遭っていないんだから我慢出来るはずだ、と。少なくとも、ぼくにはそう聞こえたよ。」
「違うっ! お前は……ただ、タチに厳しいだけだっ。アンドリューがネコだから、肩を持ってるだけだっ!」
「はぁ……。アレック? タチとかネコとか、今は関係…」
「あるっ!」
さっきまでも無駄な言い争いだと思っていたが、今はそれ以上だよ。
ぼくの言葉の所為だが、アレックは完全に頭に血が上ってしまっている。
ぼくは部屋からアレックを追い出そうと画策していたが、こんな遣り取りを望んではいない。
「ぼくはアレックと話すのは嫌いじゃないが……。お互い、もっと普通に会話出来る状態の方がいいな。少し頭を冷やそうよ。」
「……俺は間違った事は言ってない。」
まるで不貞腐れているように見える。
さっきまでのぼくと、ちょうど逆になっているね。
「正しければ良いんじゃない。言い方とか、状況とか、あるだろう? アレックは将来、国を継ぐかも知れ…」
「……どうせ国王になんか成れない。」
視線を床に落とすアレックは、ぼそりと小さく呟いた。
いつの間にか握られていた拳が震えている。
「アレック…」
「もういい!」
呼び掛けるぼくの声を遮って、幼い子が癇癪を起こしたようにアレックが立ち上がる。
「もう……いい!」
アレックはぼくのそばを横切り、アンドリュー王子を無視して。
絶対に『エロエロしい』には相応しくない乱暴な足取りで。
ぼくの背後にある扉の奥へと消えた。扉を閉める時に、凄い音をさせて。
「……え? アレック?」
ぼくはすっかり驚いてしまった。
彼がとても感情的になったから。だけじゃない。
アレックの勢いに怯えて立ち上がってしまったアンドリュー王子と、顔を見合わせる。
だって、アレックが逃げて行った扉の向こうも。
そこもまだ、ぼく用の部屋なんだよ?
コンコン、コンコン。
「ねぇアレック~? そこ、ぼくが使う予定の寝室なんだが~? 行く先を間違えていないかな~?」
ノックして声を掛けても返事が無い。出て来る気配も無い。
鍵が掛かるタイプの扉じゃなさそうだから、ぼくも寝室に入る事は出来る。が。
……強引に引き摺り出すのは、流石にむごいだろう。
機嫌を直すか、恥ずかしくなって出て行くかするまで、放っておくしか無さそうだな。
ぼくは肩を落とし……掛けたが、止めた。
仮にも『格好良い』なぼくが、そんな仕草をしている所を、アンドリュー王子に見られたくない。
「えぇと……御免ね? 何だか変な事を、ぼくとアレックが言い争って。」
「あ、いえ……。」
文字通りに取り繕う笑みを浮かべる嘘くさいぼくに、アンドリュー王子は小さく首を振って見せた。
焦げ茶色の巻き毛がふわりと揺れ、一つ年下なのに仄かな色気を醸し出す。
よし、今さっきまでの、アレックとの事は忘れよう。ぼくは今から、色っぽいネコちゃんを眺めて楽しむんだ。
「あ、アンドリュー王子。座って?」
「はい。」
素直に椅子に腰を下ろしてくれるアンドリュー王子。うん、可愛い。
「あの、アドルさん。僕の事も、兄上やアレクセイ王子のように、あの……愛称で呼んで欲しいです。アンディ、と……。」
恥じらいながらの上目遣い。しかもお強請り。うん、可愛い。
アレック~? 聞いたかい?
キミが「言いたい事も言わない」と評したアンディは、ちゃんと、して欲しい事をぼくに伝えたよ?
黙っている人にも色々と種類があるんだよ。
アンディは、時間は掛かるかも知れないが……追い詰めたりしなければ、言える子だったんだ。
アレックの言い振りは……彼がアンディに対して害意しか無い、というわけじゃないように思うが。
ある意味、正論をぶちかましたキミが、ぼくの寝室に逃げ込んでどうするんだよ。
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