美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

左側

文字の大きさ
上 下
51 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくの寝室に逃げてどうするの

しおりを挟む
「ねぇ、アレック? キミは……。自分の方が可哀想だと、そんな風に言いたいのか?」


まさか自分がそんな風に言われるなんて、思ってもいなかったんだろう。
立て板に水で流れていたアレックの言葉が完全に止まった。

そして屈辱を感じたのか、見る見るうちに顔が赤らんで行く。


「だっ……! 誰が、そんな事を…」
「自分で言ったようなもんじゃないか。自分よりも辛い目に遭っていないんだから我慢出来るはずだ、と。少なくとも、ぼくにはそう聞こえたよ。」
「違うっ! お前は……ただ、タチに厳しいだけだっ。アンドリューがネコだから、肩を持ってるだけだっ!」
「はぁ……。アレック? タチとかネコとか、今は関係…」
「あるっ!」

さっきまでも無駄な言い争いだと思っていたが、今はそれ以上だよ。
ぼくの言葉の所為だが、アレックは完全に頭に血が上ってしまっている。



ぼくは部屋からアレックを追い出そうと画策していたが、こんな遣り取りを望んではいない。

「ぼくはアレックと話すのは嫌いじゃないが……。お互い、もっと普通に会話出来る状態の方がいいな。少し頭を冷やそうよ。」
「……俺は間違った事は言ってない。」

まるで不貞腐れているように見える。
さっきまでのぼくと、ちょうど逆になっているね。


「正しければ良いんじゃない。言い方とか、状況とか、あるだろう? アレックは将来、国を継ぐかも知れ…」
「……どうせ国王になんか成れない。」

視線を床に落とすアレックは、ぼそりと小さく呟いた。
いつの間にか握られていた拳が震えている。

「アレック…」
「もういい!」

呼び掛けるぼくの声を遮って、幼い子が癇癪を起こしたようにアレックが立ち上がる。


「もう……いい!」

アレックはぼくのそばを横切り、アンドリュー王子を無視して。
絶対に『エロエロしい』には相応しくない乱暴な足取りで。



ぼくの背後にある扉の奥へと消えた。扉を閉める時に、凄い音をさせて。





「……え? アレック?」


ぼくはすっかり驚いてしまった。
彼がとても感情的になったから。だけじゃない。

アレックの勢いに怯えて立ち上がってしまったアンドリュー王子と、顔を見合わせる。


だって、アレックが逃げて行った扉の向こうも。


そこもまだ、ぼく用の部屋なんだよ?





コンコン、コンコン。


「ねぇアレック~? そこ、ぼくが使う予定の寝室なんだが~? 行く先を間違えていないかな~?」

ノックして声を掛けても返事が無い。出て来る気配も無い。
鍵が掛かるタイプの扉じゃなさそうだから、ぼくも寝室に入る事は出来る。が。


……強引に引き摺り出すのは、流石にむごいだろう。
機嫌を直すか、恥ずかしくなって出て行くかするまで、放っておくしか無さそうだな。


ぼくは肩を落とし……掛けたが、止めた。
仮にも『格好良い』なぼくが、そんな仕草をしている所を、アンドリュー王子に見られたくない。



「えぇと……御免ね? 何だか変な事を、ぼくとアレックが言い争って。」
「あ、いえ……。」

文字通りに取り繕う笑みを浮かべる嘘くさいぼくに、アンドリュー王子は小さく首を振って見せた。
焦げ茶色の巻き毛がふわりと揺れ、一つ年下なのに仄かな色気を醸し出す。

よし、今さっきまでの、アレックとの事は忘れよう。ぼくは今から、色っぽいネコちゃんを眺めて楽しむんだ。


「あ、アンドリュー王子。座って?」
「はい。」

素直に椅子に腰を下ろしてくれるアンドリュー王子。うん、可愛い。

「あの、アドルさん。僕の事も、兄上やアレクセイ王子のように、あの……愛称で呼んで欲しいです。アンディ、と……。」

恥じらいながらの上目遣い。しかもお強請り。うん、可愛い。



アレック~? 聞いたかい?
キミが「言いたい事も言わない」と評したアンディは、ちゃんと、して欲しい事をぼくに伝えたよ?
黙っている人にも色々と種類があるんだよ。
アンディは、時間は掛かるかも知れないが……追い詰めたりしなければ、言える子だったんだ。



アレックの言い振りは……彼がアンディに対して害意しか無い、というわけじゃないように思うが。


ある意味、正論をぶちかましたキミが、ぼくの寝室に逃げ込んでどうするんだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...