美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

何故か言い争うぼくとアレック

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ぼくが密かに画策していると。



「何をしに来た。……アドルに抱かれて来いと、王妃にでも言われたか?」

アレックの蔑んだような声に、アンドリュー王子がぴくりと肩を震わせた。

「良かったな、アドル。初めての経験をさせて貰えるぞ?」

突然、しかもそんな風に声を掛けたアレックに、驚き慌てたのはぼくの方だ。


「そっ……! アレック、そんな言い方はないだろう。アンドリュー王子は、ぼくを、訪ねて来てくれたんだ。それについて、アレックがどうこう言う立場じゃないはずだよ。」
「それはそうなんだけどな。だからって、いつまでも黙って座らせて置く気か?」
「だったらもう少し、優しくは言えないかな。仮にも弟だろう?」
「弟、ねぇ……。」

わざとらしい嘆息と同時に、アレックは隣を振り返る。


「気持ちの悪い弟は願い下げ、なんだけどなぁ。」
「アレック! そんな言い方は、無いだろ……。」

偏差値に格差のある相手に対して、正直な気持ちと呼ぶには随分と鋭い言葉を吐き捨てた。
思わず彼の名を強めに呼んだぼくだが。次の瞬間には弱くなってしまった。

今更になって、ぼくも自分の弟に怯えていた事、気持ち悪いと思っていた事を思い出したからだ。


もう詳しい内容は忘れてしまったが、ぼくがもっと子供の頃に弟から強烈な恐怖を感じて、そのままずっとまともに顔を合わせずに生きて来た。
オルビー先生の授業を受ける時に、二度会ったのに。自分が忙しかったのと、相手からも話し掛けて来ないからという理由で、殆ど会話をしていない。
……向こうからは話し掛け難いというのにね。

弟が余り気にしないでいてくれれば良いんだが……。



とは言えまぁ、今それを思い出した所で仕方ないな。
よし、切り替えて行こう。




ぼくは気分を切り替えた。




「只でさえ顔面偏差値が低いのに。言いたい事も言わずに黙って見てるなんて、気持ちが悪いと思わないか?」

……切り替えたのに。アレックめ。


「アレック。誰もが自分の意思を、はっきりと表せるもんじゃないよ。」
「アドル、俺はな……。俺は、面と向かってハッキリ嫌だと言っても、本気にされないんだ。だけど、アンドリューは……ちゃんと言えば、言葉通りに捉えて貰えるのに。」

言いながらアンドリュー王子を睨み付けるアレックの顔に、苛立ちと……少しの嫉妬が浮かんでいる。
その事に自分で気が付いているか、いないかは知らないが。


自分と違って、言葉や仕草を常に一定方向に曲解される事の無いだろうアンドリュー王子や、もしかしたらアリーの事も、アレックは羨ましいのかな。
だが、この二人は……見ていないから推測でしか無いが……顔面偏差値の低さから、人々に蔑んだ態度を取られる事が多くて、それで比較的黙りがちになってしまうんだろうから。
それがアレックを苛立たせているのかも知れない。


「ねぇ、アレック? 悪意のある言葉を投げ掛けられる中で、それでも自分の意思を伝えるのは。……ぼくの想像でしか無いが、とてもエネルギーの必要な行為だと思うんだ。口さがない連中を相手に、そこまでしてやる価値があるのかな。」
「その下らない連中なんかに、醜いと言われた程度で俯くのが、気持ち悪いと言ってるんだ。」
「悪口を言われて、何も感じるなという事か?」
「あぁそうだ。仮にも王族なら、容姿への悪口如きで下を向くな。見過ごせないような侮辱なら毅然と対応しろ、って事だ。」

恐らくアレックの中では、容姿に対する……あるいは他の事に対するものでも……侮辱の言葉を浴びるぐらいで委縮するなんて有り得ない事なんだろうな。
あぁ正論だよ、アレック。それは理想的な対応だとも言える。


だが冷静になりなよ、アレック。……そして、ぼくも。
どうして今、ぼくとアレックが、アンドリュー王子の事でこんなにも熱く言い争わないといけないんだ。



「耳に聞こえるような陰口でさえ怯えるなら……。」

一瞬アレックが、性的に挑発するような、なのに嫌な感じの笑みを浮かべたように見えた。

「お前の顔はこうだから、中身もこうだって……。俺にするような対応をされたら、部屋から出られなくなるんじゃないか?」


顔面を嘲笑われるよりも、自分のように……『エロエロしい』は性的快楽に我慢が利かないと……精神を嘲笑われる方が、よっぽど酷い悪意を浴びているんだと。

そう、言いたいのかな、アレック?

それも正論だよ。そういう見方もあるよね。
でも、それじゃあ……。まるで……。


「ねぇ、アレック? キミは……。自分の方が可哀想だと、そんな風に言いたいのか?」
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