美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

機嫌の悪いぼくと機嫌の良いアレックのお茶会

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紅茶の入ったカップが、温かそうな湯気を立ち昇らせている。
茶菓子として提供されたレモンの砂糖漬けも、華奢な白い皿の上で、綺麗な輪切りで並べられている。


「………。」

だが、ぼくはそれらに一切、手を付けない。
用意されたお茶も茶菓子も、無言でじっと見詰めるだけだ。


「お前、まだ拗ねてるのか?」

はしたなくレモンを素手で摘まんで咥内に放り込んだアレックが、そのまま指先をぺろりと舐める。
半開きになった唇から赤い舌が覗き見え、甘さと酸っぱさに細めた瞳を淫靡に垂れさせた。

只でさえ『エロエロしい』の癖に、要所要所で色っぽい仕草の披露を忘れない辺り、流石は高ランクという事か。
これでアレックがネコなら、実に素晴らしいサービス精神だと褒め称えたい所だよ。


「そうやってクチを尖らせてるトコとか……。ネコだと思うんだけどなぁ?」

非常に残念そうに、そしてぼくの耳にしっかりと聞こえるように。
わざとらしく呟かれたアレックの言葉を、もちろんぼくもわざと無視する。

……アレックこそ。ネコの皮を被ったタチめ。許すまじ。




ぼくはすっかり機嫌を悪くしていた。
何故なら。
アレックと一緒に出掛けるという名目で部屋を出ようとしたのに、それが叶わなかったからだ。

例え王城内でも、もうこれ以上、ぼくの素顔を人々に見せるのは駄目だと、母に反対されたんだ。
マスクとヴェールで顔を隠すからと言っても、母は首を縦に振ってはくれなかった。
庭で男二人を追い払った際に、装着していたマスクをぼくが地面に叩き付けた事を、アレックが告げ口していたからな。ぼくはこの事でもアレックを恨んでいるよ。

流石にあの時は非常事態だったからで……普通なら、ぼくだってあんな事はしない。
これから国王陛下との食事会も控えているような状況で、もう軽率な事は……恐らく、しないよ。

だが、残念ながらぼくは信用して貰えなかった。



だから仕方なくぼくは、用意されたぼく用の部屋で、全ての元凶であるアレックとお茶なんかしているんだ。

ちなみに、精神的に疲れ切っている母と、肉体的に疲労困憊なエイベル兄さんは、食事会までそれぞれの部屋で文字通りの休憩を取っているよ。



「ところで……なぁ? エイベルには、婚約者とか恋人とかは居るのか?」

よっぽど兄が気に入ったんだろう。
口元に作り物じゃない笑みを浮かべて、アレックがぼくを覗き込んだ。
彼の瞳に『格好良い』だが機嫌の悪そうなぼくが映っている。

こんなに不機嫌そうなのに、よくアレックは話し掛ける気になれるもんだね。


「はぁ~あ。……さぁねぇ? 婚約者の話は聞かないな。兄さんがどれだけ『麗しい』の高ランクでも、うちは所詮、子爵だからね。まぁ、あれ程の『麗しい』なら……これから探したとしても、結婚相手に困る事は無いだろうがな。」

ぼくは大仰に溜息を零して見せてから、一応は返事をしてやった。
こんなに『エロエロしい』でも、アレックは王子様だからね。

「まさか、兄さんと結婚するとか言い出したり……しないよな?」
「流石にそんな事は言わないけど……そうか。それなら、俺と友達になっても良さそうだな。」

念の為にと釘を刺したぼくに、何故かアレックはうんうんと頷く。

「どうせ、アリアノールやアンドリューとは友達どころか、知り合いでも無いんだろ? エイベルもアドルも……今日のお茶会が初対面なんじゃないのか?」

側妃様にも言われたな、それ。確かにその通りだが。

「ぼくは友達だと思っているよ。」
「はぁ? ………。ぷ、っクク……。」

何故かアレックは噴き出した。


「いや、お前とあの二人は友達じゃないだろ。今日で知り合い……には、なったかも知れないけど。」
「そんな事をアレックに決められる謂われは無いと思う。それはぼく達の間の話だろう?」
「………。はぁ~あ。……アドル、お前って。」

アレックはすぐぼくの真似をする。
今も、さっきのぼくの溜息を真似して、大仰に息を吐いて見せた。



付き合っていられない。
ぼくはアレックを無視して、ティーカップに手を伸ばした。

「ほんっと、何にも知らないんだな。若い王族とか貴族とかで『友達』と言えば、セックスする仲、だぞ?」
「はあぁぁっっ?」


え? そうなのか?
つまり王族や貴族にとって、フレンドはイコール、セックスフレンドなのかっ?

そ、そりゃあ確かに……ぼくや兄が、二人の王子の友達じゃないと、ばれてしまうわけだ……。
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