47 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
機嫌の悪いぼくと機嫌の良いアレックのお茶会
しおりを挟む
紅茶の入ったカップが、温かそうな湯気を立ち昇らせている。
茶菓子として提供されたレモンの砂糖漬けも、華奢な白い皿の上で、綺麗な輪切りで並べられている。
「………。」
だが、ぼくはそれらに一切、手を付けない。
用意されたお茶も茶菓子も、無言でじっと見詰めるだけだ。
「お前、まだ拗ねてるのか?」
はしたなくレモンを素手で摘まんで咥内に放り込んだアレックが、そのまま指先をぺろりと舐める。
半開きになった唇から赤い舌が覗き見え、甘さと酸っぱさに細めた瞳を淫靡に垂れさせた。
只でさえ『エロエロしい』の癖に、要所要所で色っぽい仕草の披露を忘れない辺り、流石は高ランクという事か。
これでアレックがネコなら、実に素晴らしいサービス精神だと褒め称えたい所だよ。
「そうやってクチを尖らせてるトコとか……。ネコだと思うんだけどなぁ?」
非常に残念そうに、そしてぼくの耳にしっかりと聞こえるように。
わざとらしく呟かれたアレックの言葉を、もちろんぼくもわざと無視する。
……アレックこそ。ネコの皮を被ったタチめ。許すまじ。
ぼくはすっかり機嫌を悪くしていた。
何故なら。
アレックと一緒に出掛けるという名目で部屋を出ようとしたのに、それが叶わなかったからだ。
例え王城内でも、もうこれ以上、ぼくの素顔を人々に見せるのは駄目だと、母に反対されたんだ。
マスクとヴェールで顔を隠すからと言っても、母は首を縦に振ってはくれなかった。
庭で男二人を追い払った際に、装着していたマスクをぼくが地面に叩き付けた事を、アレックが告げ口していたからな。ぼくはこの事でもアレックを恨んでいるよ。
流石にあの時は非常事態だったからで……普通なら、ぼくだってあんな事はしない。
これから国王陛下との食事会も控えているような状況で、もう軽率な事は……恐らく、しないよ。
だが、残念ながらぼくは信用して貰えなかった。
だから仕方なくぼくは、用意されたぼく用の部屋で、全ての元凶であるアレックとお茶なんかしているんだ。
ちなみに、精神的に疲れ切っている母と、肉体的に疲労困憊なエイベル兄さんは、食事会までそれぞれの部屋で文字通りの休憩を取っているよ。
「ところで……なぁ? エイベルには、婚約者とか恋人とかは居るのか?」
よっぽど兄が気に入ったんだろう。
口元に作り物じゃない笑みを浮かべて、アレックがぼくを覗き込んだ。
彼の瞳に『格好良い』だが機嫌の悪そうなぼくが映っている。
こんなに不機嫌そうなのに、よくアレックは話し掛ける気になれるもんだね。
「はぁ~あ。……さぁねぇ? 婚約者の話は聞かないな。兄さんがどれだけ『麗しい』の高ランクでも、うちは所詮、子爵だからね。まぁ、あれ程の『麗しい』なら……これから探したとしても、結婚相手に困る事は無いだろうがな。」
ぼくは大仰に溜息を零して見せてから、一応は返事をしてやった。
こんなに『エロエロしい』でも、アレックは王子様だからね。
「まさか、兄さんと結婚するとか言い出したり……しないよな?」
「流石にそんな事は言わないけど……そうか。それなら、俺と友達になっても良さそうだな。」
念の為にと釘を刺したぼくに、何故かアレックはうんうんと頷く。
「どうせ、アリアノールやアンドリューとは友達どころか、知り合いでも無いんだろ? エイベルもアドルも……今日のお茶会が初対面なんじゃないのか?」
側妃様にも言われたな、それ。確かにその通りだが。
「ぼくは友達だと思っているよ。」
「はぁ? ………。ぷ、っクク……。」
何故かアレックは噴き出した。
「いや、お前とあの二人は友達じゃないだろ。今日で知り合い……には、なったかも知れないけど。」
「そんな事をアレックに決められる謂われは無いと思う。それはぼく達の間の話だろう?」
「………。はぁ~あ。……アドル、お前って。」
アレックはすぐぼくの真似をする。
今も、さっきのぼくの溜息を真似して、大仰に息を吐いて見せた。
付き合っていられない。
ぼくはアレックを無視して、ティーカップに手を伸ばした。
「ほんっと、何にも知らないんだな。若い王族とか貴族とかで『友達』と言えば、セックスする仲、だぞ?」
「はあぁぁっっ?」
え? そうなのか?
つまり王族や貴族にとって、フレンドはイコール、セックスフレンドなのかっ?
そ、そりゃあ確かに……ぼくや兄が、二人の王子の友達じゃないと、ばれてしまうわけだ……。
茶菓子として提供されたレモンの砂糖漬けも、華奢な白い皿の上で、綺麗な輪切りで並べられている。
「………。」
だが、ぼくはそれらに一切、手を付けない。
用意されたお茶も茶菓子も、無言でじっと見詰めるだけだ。
「お前、まだ拗ねてるのか?」
はしたなくレモンを素手で摘まんで咥内に放り込んだアレックが、そのまま指先をぺろりと舐める。
半開きになった唇から赤い舌が覗き見え、甘さと酸っぱさに細めた瞳を淫靡に垂れさせた。
只でさえ『エロエロしい』の癖に、要所要所で色っぽい仕草の披露を忘れない辺り、流石は高ランクという事か。
これでアレックがネコなら、実に素晴らしいサービス精神だと褒め称えたい所だよ。
「そうやってクチを尖らせてるトコとか……。ネコだと思うんだけどなぁ?」
非常に残念そうに、そしてぼくの耳にしっかりと聞こえるように。
わざとらしく呟かれたアレックの言葉を、もちろんぼくもわざと無視する。
……アレックこそ。ネコの皮を被ったタチめ。許すまじ。
ぼくはすっかり機嫌を悪くしていた。
何故なら。
アレックと一緒に出掛けるという名目で部屋を出ようとしたのに、それが叶わなかったからだ。
例え王城内でも、もうこれ以上、ぼくの素顔を人々に見せるのは駄目だと、母に反対されたんだ。
マスクとヴェールで顔を隠すからと言っても、母は首を縦に振ってはくれなかった。
庭で男二人を追い払った際に、装着していたマスクをぼくが地面に叩き付けた事を、アレックが告げ口していたからな。ぼくはこの事でもアレックを恨んでいるよ。
流石にあの時は非常事態だったからで……普通なら、ぼくだってあんな事はしない。
これから国王陛下との食事会も控えているような状況で、もう軽率な事は……恐らく、しないよ。
だが、残念ながらぼくは信用して貰えなかった。
だから仕方なくぼくは、用意されたぼく用の部屋で、全ての元凶であるアレックとお茶なんかしているんだ。
ちなみに、精神的に疲れ切っている母と、肉体的に疲労困憊なエイベル兄さんは、食事会までそれぞれの部屋で文字通りの休憩を取っているよ。
「ところで……なぁ? エイベルには、婚約者とか恋人とかは居るのか?」
よっぽど兄が気に入ったんだろう。
口元に作り物じゃない笑みを浮かべて、アレックがぼくを覗き込んだ。
彼の瞳に『格好良い』だが機嫌の悪そうなぼくが映っている。
こんなに不機嫌そうなのに、よくアレックは話し掛ける気になれるもんだね。
「はぁ~あ。……さぁねぇ? 婚約者の話は聞かないな。兄さんがどれだけ『麗しい』の高ランクでも、うちは所詮、子爵だからね。まぁ、あれ程の『麗しい』なら……これから探したとしても、結婚相手に困る事は無いだろうがな。」
ぼくは大仰に溜息を零して見せてから、一応は返事をしてやった。
こんなに『エロエロしい』でも、アレックは王子様だからね。
「まさか、兄さんと結婚するとか言い出したり……しないよな?」
「流石にそんな事は言わないけど……そうか。それなら、俺と友達になっても良さそうだな。」
念の為にと釘を刺したぼくに、何故かアレックはうんうんと頷く。
「どうせ、アリアノールやアンドリューとは友達どころか、知り合いでも無いんだろ? エイベルもアドルも……今日のお茶会が初対面なんじゃないのか?」
側妃様にも言われたな、それ。確かにその通りだが。
「ぼくは友達だと思っているよ。」
「はぁ? ………。ぷ、っクク……。」
何故かアレックは噴き出した。
「いや、お前とあの二人は友達じゃないだろ。今日で知り合い……には、なったかも知れないけど。」
「そんな事をアレックに決められる謂われは無いと思う。それはぼく達の間の話だろう?」
「………。はぁ~あ。……アドル、お前って。」
アレックはすぐぼくの真似をする。
今も、さっきのぼくの溜息を真似して、大仰に息を吐いて見せた。
付き合っていられない。
ぼくはアレックを無視して、ティーカップに手を伸ばした。
「ほんっと、何にも知らないんだな。若い王族とか貴族とかで『友達』と言えば、セックスする仲、だぞ?」
「はあぁぁっっ?」
え? そうなのか?
つまり王族や貴族にとって、フレンドはイコール、セックスフレンドなのかっ?
そ、そりゃあ確かに……ぼくや兄が、二人の王子の友達じゃないと、ばれてしまうわけだ……。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。


転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる