美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくがアレックに抱かれる予定は無いが

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ぼくは自分の意識以上に、恨みの籠もった視線をアレックに送っていたようだ。


「ん……? どうしたんだ、アドル?」

気付いたアレックが、エイベル兄さんに注いでいた眼差しをぼくへと向ける。


「俺の顔に……何か付いてる?」

恐らくぼくの心境が良く分かっているんだろう。
挑発的に勝ち誇った笑みを浮かべている。

本当に憎たらしいのに、アレックは……こんな時にでも何故こうも『エロエロしい』が満開なんだ。
機嫌が良い所為だろうが、薄く開いた唇も細めた目元も、とろんと垂れた印象がぐっと強まって……実にけしからん。
一番けしからんのは、これで……こんなにも『エロエロしい』なのに、ネコじゃないという所だがな。


「そう、だな……。凄く『エロエロしい』な顔パーツが、付いているよ。」

ここで不機嫌そうな表情をしては、ぼくの負けな気がする。
初めてエッチな事を経験したのがあんな思い出になってしまった悔しさからか、ぼくは何となく対抗心を燃やしていた。

ぼくは頑張って、機嫌が良さそうな笑顔を作り出す。
だが残念ながらぼくの表情は、作り物感が強いんだろうという事は予想に難くない。


これも、ぼくとアレックとの経験値の差か……と、密かに悔しい思いを重ねていると。



「…ん。むぅ……。」

何故かアレックは口を尖らせる。
アレックはやや拗ねた風にも見える表情で、ぼくが腰掛けるソファへと近付くと、背もたれに重心を預けるように上半身を傾けた。


「ぁ、のさ……アドル……?」

耳元に『エロエロしい』な顔を寄せられ、掛けられるアレックの小さな声と吐息に、ぼくは不覚にも喜んでしまいそうになった。
まぁその後すぐに、我に返るような事を言われるんだが。

「もっかい、俺と……どうだ? やっぱり勿体ない。」
「そうだね……アレック次第、かな?」

親しい者達がこっそりと内緒話をするように囁かれたアレックの言葉に、ぼくも表面上は穏やかに言い返した。

どうせ母にも兄にも聞こえているだろうと思うから。
文句を浴びせるのは止めておいた、そんなぼくの優しさだ。


要するにこの男は、ぼくに、ネコをやれと申し出て来ているんだ。
こんなに『エロエロしい』な外見と声で。
その言葉、そっくりそのままアレックにお返ししてあげたい。
彼がタチだなんて、本当に勿体ないよ。


「ふぅ~ん? アドルのケチ。」
「アレック、お互い様だよね?」

誘うような視線を投げ掛けて来るアレックと、顔面に貼り付けたアルカイックスマイルで応戦するぼく。
もし何も知らない者が今のぼく達を見掛けたならば、拝みたくなるぐらいに外見の優れた二人が見つめ合っているという、実に有難くも美しい光景だと思っただろう。



ぼくは別に、自分が完全なタチだと思っているわけじゃない。
相手によってはネコとして求められるのも、やぶさかでない。
だがアレック。キミは駄目だ。

もしもこの身体が、既にタチもネコも両方経験済みであったなら、もしかしたら違った反応だったかも知れないがね。
両方が未経験のぼくはどうやら何かと拗らせてしまっているらしく、タチとしてでも、ネコとしてでも、最初の相手はこういう人というイメージを付けてしまっている。
ネコとしての初めての相手は、少なくとも『エロエロしい』のタイプじゃないんだよ。


しかもアレック?
キミは有耶無耶になったと思っているかも知れないが、ぼくは……アレックだけ説教から逃げた事を結構まだ、根に持っているからね?

あぁでも、せっかくの良いチャンスかも知れない。



ぼくはアレックを利用して、部屋を抜け出す事に決めた。
……アレックの都合は知らない。


「それはそうと、アレック? 側妃様から、もう少しアレックと話してみてはどうかと、打診を頂いたんだが。……今、少し時間があるかな?」
「時間、なあ……。アドル次第、かな?」
「……真似しなくて良いから。」

ネコなら可愛いと思える言動も、やっている相手がタチだと思えばまた別だ。

なのに、悪くないと思えてしまうアレックの『エロエロしい』が、やっぱり小憎らしいとぼくは思った。
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