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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくはアリーとの距離を縮めようとしてみる
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パーティ会場の一階から続くテラスは幾つかあるが、ぼくが避難先として選んだのは、その中でも一番地味で狭いものだった。そこからの眺めも別にどうと言う事のない場所。
他のテラスからは、花壇等の綺麗な景色が見られたり、又は出入口に近い等の利便性があったりするので、もしかすると他にも利用者がいるかも知れないと考えたからだ。
やはりぼくが思った通り、そのテラスには殆ど人が居なかった。一人を除いて。
「こんな所にいたんだね……アリー。」
「あ……。アドル、さん……。」
こんな場所に設置されるにしては上等そうな、背凭れの低いカウチに一人で寝そべっていたのは、アリアノール王子……アリーだった。
アリーは、片方だけが少し高くなっている大きめの肘掛けに手を添えて、その上から頭を預けて寝そべっていた。
寛いでいるからか、靴も脱いで裸足だった。
後ろで括ってある赤茶色の長い髪が背中で散らばり、艶やかに光を反射している。
ある程度まで近付いた所でぼくの方は、そこにアリーらしき人物がいるという事に気が付いたが、アリーの方はぼくに声を掛けられてようやく気が付いたようだ。
唇からはぼくの名前が零れたが、まさかパーティの主役であるぼくがテラスへと抜け出して来るなんて思わなかったんだろう。
「すっ、済みません、こんな格好で……っ!」
やっと理解したアリーが慌てて上半身を起こす。
姿勢を正す為に、揃えた両足をカウチから下ろそうとするのを、ぼくは若干にやけ気味に微笑みながら止めた。
身体を横たえるアリーの様子が実に、実に見事な色気を出していたからだ。
高くてスッとした鼻筋で小さな唇のアリーは、実はそんなに色気のある方じゃあない。寧ろ、性的とは逆を行く知的美少年が、十九歳の知的美青少年になったような見た目をしている。
顔立ちだけで言うと……年上相手にこんな言い方は申し訳ないんだが……意外に、賢くて生意気そうにも見えるタイプだ。
そのアリーが、頼るように肘掛けへと凭れ掛かる姿は、その肘掛けになりたいと思うぐらいに良いものだった。
何が良いって……目くるめく官能的な行為の事後、みたいな所がいい。
成程ねぇ……。ソファで横たわる母さんを、「そのままで良い」と言って押し留める人の気持ちが分かったよ。
これは確かに、止めたくなるよね。
「隣、いいかな?」
「えっ、あ、はい……もちろん、です。」
さっきまで寝ていたアリーの頭部があった位置に、ぼくが腰掛ける。
アリーは起き上がりはしたものの、カウチから足を下ろす事はぼくに止められてしまったから。膝を抱えるような姿勢で小さくなってしまった。
こんなに大きなカウチなんだから、そんな遠慮する事なんか無いのに。
「起き上がらなくていいよ、アリー。……ほら、ここ。」
ぼくは自分の太腿を手で軽く叩き、意味有り気にアリーを見る。
アリーはきょとんとした表情で、ぼくの顔と太腿とを交互に見た。
見つめ合い、しばしの間の後。
「えっ、え……? ええぇぇっ?」
「何を驚いているんだ? 寝そべっていて良いと、ぼくは言ったよね?」
ぼくは至極普通の話をしているように続ける。
要するに、ぼくが膝枕になると言っているんだ。
そしてその意図は、的確にアリーに伝わったようで何より。
「そんな……で、でも……っ。」
「ほら、アリー。おいで?」
頬を染めたアリーの瞳が潤んで来る。
「ぼくの膝枕が嫌なの?」
「そっ、そんな事はありませんっ。」
耳まで真っ赤に染めながら、アリーは必死な様子で否定した。
意地悪をしたいんじゃないのに、アリーのこういう表情も良いね。
もっと見たいと思ってしまうが我慢、我慢だ。
「あんまり待たせるなら、アリーには、ぼくの事を呼び捨てにして貰うぞ? それと、そうだな……敬語も禁止にしようかな?」
「そんなぁ……。」
「じゃあ、おいでよ。ほら。」
どさくさ紛れに、名前の呼び方や会話の口調を変えてやろうかとも企んだんだが。どうやらアリーには、そちらの方が難しかったようだ。
残念だが、もっと親し気に話すという狙いは、また今度にしよう。
招くように手を広げると、アリーは観念した。
おずおずとカウチに手を付いて、身体を横たえ、遠慮がちにぼくの腿の上へと頭を乗せる。
仰向けに寝るアリーの前髪を整えるように撫でてやると、驚いたアリーは両掌で口元を覆い隠した。
震える睫毛が長くて、ぼくを見上げる瞳も揺れている。
涼しい顔で視線を受け止めながら、ぼくは、これからの対応について考えていた。
ぼくは昨日アリーに対して、ある意味では失敗しているからね。アレックの所為だがな。
だから今この場で、その分を取り返さなくちゃいけないんだよ。
他のテラスからは、花壇等の綺麗な景色が見られたり、又は出入口に近い等の利便性があったりするので、もしかすると他にも利用者がいるかも知れないと考えたからだ。
やはりぼくが思った通り、そのテラスには殆ど人が居なかった。一人を除いて。
「こんな所にいたんだね……アリー。」
「あ……。アドル、さん……。」
こんな場所に設置されるにしては上等そうな、背凭れの低いカウチに一人で寝そべっていたのは、アリアノール王子……アリーだった。
アリーは、片方だけが少し高くなっている大きめの肘掛けに手を添えて、その上から頭を預けて寝そべっていた。
寛いでいるからか、靴も脱いで裸足だった。
後ろで括ってある赤茶色の長い髪が背中で散らばり、艶やかに光を反射している。
ある程度まで近付いた所でぼくの方は、そこにアリーらしき人物がいるという事に気が付いたが、アリーの方はぼくに声を掛けられてようやく気が付いたようだ。
唇からはぼくの名前が零れたが、まさかパーティの主役であるぼくがテラスへと抜け出して来るなんて思わなかったんだろう。
「すっ、済みません、こんな格好で……っ!」
やっと理解したアリーが慌てて上半身を起こす。
姿勢を正す為に、揃えた両足をカウチから下ろそうとするのを、ぼくは若干にやけ気味に微笑みながら止めた。
身体を横たえるアリーの様子が実に、実に見事な色気を出していたからだ。
高くてスッとした鼻筋で小さな唇のアリーは、実はそんなに色気のある方じゃあない。寧ろ、性的とは逆を行く知的美少年が、十九歳の知的美青少年になったような見た目をしている。
顔立ちだけで言うと……年上相手にこんな言い方は申し訳ないんだが……意外に、賢くて生意気そうにも見えるタイプだ。
そのアリーが、頼るように肘掛けへと凭れ掛かる姿は、その肘掛けになりたいと思うぐらいに良いものだった。
何が良いって……目くるめく官能的な行為の事後、みたいな所がいい。
成程ねぇ……。ソファで横たわる母さんを、「そのままで良い」と言って押し留める人の気持ちが分かったよ。
これは確かに、止めたくなるよね。
「隣、いいかな?」
「えっ、あ、はい……もちろん、です。」
さっきまで寝ていたアリーの頭部があった位置に、ぼくが腰掛ける。
アリーは起き上がりはしたものの、カウチから足を下ろす事はぼくに止められてしまったから。膝を抱えるような姿勢で小さくなってしまった。
こんなに大きなカウチなんだから、そんな遠慮する事なんか無いのに。
「起き上がらなくていいよ、アリー。……ほら、ここ。」
ぼくは自分の太腿を手で軽く叩き、意味有り気にアリーを見る。
アリーはきょとんとした表情で、ぼくの顔と太腿とを交互に見た。
見つめ合い、しばしの間の後。
「えっ、え……? ええぇぇっ?」
「何を驚いているんだ? 寝そべっていて良いと、ぼくは言ったよね?」
ぼくは至極普通の話をしているように続ける。
要するに、ぼくが膝枕になると言っているんだ。
そしてその意図は、的確にアリーに伝わったようで何より。
「そんな……で、でも……っ。」
「ほら、アリー。おいで?」
頬を染めたアリーの瞳が潤んで来る。
「ぼくの膝枕が嫌なの?」
「そっ、そんな事はありませんっ。」
耳まで真っ赤に染めながら、アリーは必死な様子で否定した。
意地悪をしたいんじゃないのに、アリーのこういう表情も良いね。
もっと見たいと思ってしまうが我慢、我慢だ。
「あんまり待たせるなら、アリーには、ぼくの事を呼び捨てにして貰うぞ? それと、そうだな……敬語も禁止にしようかな?」
「そんなぁ……。」
「じゃあ、おいでよ。ほら。」
どさくさ紛れに、名前の呼び方や会話の口調を変えてやろうかとも企んだんだが。どうやらアリーには、そちらの方が難しかったようだ。
残念だが、もっと親し気に話すという狙いは、また今度にしよう。
招くように手を広げると、アリーは観念した。
おずおずとカウチに手を付いて、身体を横たえ、遠慮がちにぼくの腿の上へと頭を乗せる。
仰向けに寝るアリーの前髪を整えるように撫でてやると、驚いたアリーは両掌で口元を覆い隠した。
震える睫毛が長くて、ぼくを見上げる瞳も揺れている。
涼しい顔で視線を受け止めながら、ぼくは、これからの対応について考えていた。
ぼくは昨日アリーに対して、ある意味では失敗しているからね。アレックの所為だがな。
だから今この場で、その分を取り返さなくちゃいけないんだよ。
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