美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

左側

文字の大きさ
上 下
65 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはアリーとの距離を縮めようとしてみる

しおりを挟む
パーティ会場の一階から続くテラスは幾つかあるが、ぼくが避難先として選んだのは、その中でも一番地味で狭いものだった。そこからの眺めも別にどうと言う事のない場所。
他のテラスからは、花壇等の綺麗な景色が見られたり、又は出入口に近い等の利便性があったりするので、もしかすると他にも利用者がいるかも知れないと考えたからだ。


やはりぼくが思った通り、そのテラスには殆ど人が居なかった。一人を除いて。



「こんな所にいたんだね……アリー。」
「あ……。アドル、さん……。」

こんな場所に設置されるにしては上等そうな、背凭れの低いカウチに一人で寝そべっていたのは、アリアノール王子……アリーだった。

アリーは、片方だけが少し高くなっている大きめの肘掛けに手を添えて、その上から頭を預けて寝そべっていた。
寛いでいるからか、靴も脱いで裸足だった。
後ろで括ってある赤茶色の長い髪が背中で散らばり、艶やかに光を反射している。

ある程度まで近付いた所でぼくの方は、そこにアリーらしき人物がいるという事に気が付いたが、アリーの方はぼくに声を掛けられてようやく気が付いたようだ。
唇からはぼくの名前が零れたが、まさかパーティの主役であるぼくがテラスへと抜け出して来るなんて思わなかったんだろう。


「すっ、済みません、こんな格好で……っ!」

やっと理解したアリーが慌てて上半身を起こす。
姿勢を正す為に、揃えた両足をカウチから下ろそうとするのを、ぼくは若干にやけ気味に微笑みながら止めた。
身体を横たえるアリーの様子が実に、実に見事な色気を出していたからだ。

高くてスッとした鼻筋で小さな唇のアリーは、実はそんなに色気のある方じゃあない。寧ろ、性的とは逆を行く知的美少年が、十九歳の知的美青少年になったような見た目をしている。
顔立ちだけで言うと……年上相手にこんな言い方は申し訳ないんだが……意外に、賢くて生意気そうにも見えるタイプだ。

そのアリーが、頼るように肘掛けへと凭れ掛かる姿は、その肘掛けになりたいと思うぐらいに良いものだった。
何が良いって……目くるめく官能的な行為の事後、みたいな所がいい。


成程ねぇ……。ソファで横たわる母さんを、「そのままで良い」と言って押し留める人の気持ちが分かったよ。
これは確かに、止めたくなるよね。



「隣、いいかな?」
「えっ、あ、はい……もちろん、です。」

さっきまで寝ていたアリーの頭部があった位置に、ぼくが腰掛ける。
アリーは起き上がりはしたものの、カウチから足を下ろす事はぼくに止められてしまったから。膝を抱えるような姿勢で小さくなってしまった。


こんなに大きなカウチなんだから、そんな遠慮する事なんか無いのに。


「起き上がらなくていいよ、アリー。……ほら、ここ。」

ぼくは自分の太腿を手で軽く叩き、意味有り気にアリーを見る。
アリーはきょとんとした表情で、ぼくの顔と太腿とを交互に見た。
見つめ合い、しばしの間の後。


「えっ、え……? ええぇぇっ?」
「何を驚いているんだ? 寝そべっていて良いと、ぼくは言ったよね?」

ぼくは至極普通の話をしているように続ける。

要するに、ぼくが膝枕になると言っているんだ。
そしてその意図は、的確にアリーに伝わったようで何より。


「そんな……で、でも……っ。」
「ほら、アリー。おいで?」

頬を染めたアリーの瞳が潤んで来る。


「ぼくの膝枕が嫌なの?」
「そっ、そんな事はありませんっ。」

耳まで真っ赤に染めながら、アリーは必死な様子で否定した。


意地悪をしたいんじゃないのに、アリーのこういう表情も良いね。
もっと見たいと思ってしまうが我慢、我慢だ。



「あんまり待たせるなら、アリーには、ぼくの事を呼び捨てにして貰うぞ? それと、そうだな……敬語も禁止にしようかな?」
「そんなぁ……。」
「じゃあ、おいでよ。ほら。」

どさくさ紛れに、名前の呼び方や会話の口調を変えてやろうかとも企んだんだが。どうやらアリーには、そちらの方が難しかったようだ。
残念だが、もっと親し気に話すという狙いは、また今度にしよう。


招くように手を広げると、アリーは観念した。
おずおずとカウチに手を付いて、身体を横たえ、遠慮がちにぼくの腿の上へと頭を乗せる。

仰向けに寝るアリーの前髪を整えるように撫でてやると、驚いたアリーは両掌で口元を覆い隠した。
震える睫毛が長くて、ぼくを見上げる瞳も揺れている。


涼しい顔で視線を受け止めながら、ぼくは、これからの対応について考えていた。



ぼくは昨日アリーに対して、ある意味では失敗しているからね。アレックの所為だがな。
だから今この場で、その分を取り返さなくちゃいけないんだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...