美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

左側

文字の大きさ
上 下
43 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

打ちひしがれたぼくを誰か慰めて

しおりを挟む
現実に戻って来たぼくとアレックは、お互いに今日の事は水に流そうと決め、何事も無かったようにガーデンハウスに戻ろうとした。……所を、エイベル兄さんとアリーに捕まった。
どうやらアリーは、アレックを見付けた事自体はちゃんと側妃様達に知らせてくれたようだ。
兄とアリーの二人で、庭から移動したぼく達の目撃証言を辿って、わざわざ迎えに来てくれたんだ。

アレックが男二人に弄られている所を見掛けた時には助けようとしなかったが、アリー自体は別に意地悪でも冷血でも無いらしい。
あの場面でアリーが、普通なら若干冷たいと思えるような態度だったのは、王城近辺に蔓延る『エロエロしい』への偏見の所為だ。だからアリーも、悪いわけじゃない。

……むしろ。ぼくの方が、アリーに対してやや冷たかったと言われかねないな。
だがぼくはその点については、少し反省はしても後悔はしていないが。


もしもアリーがこの国の王子じゃなく、貴族でも無い……それこそ、一般市民だったなら。
アリーが何に対してどんな偏見を抱いてようが、ぼくは何も言うつもりは無い。
偏見に満ちた言動の所為で、自分の立場をどれだけ悪くしようが、普通の一般人なら周囲への影響も大した事は無いんだから。
せいぜいが、店を潰すとか……その程度だろう。

だがアリーは王子だ。王位を継ぐかどうかはともかく、間違いなく王族なんだ。
それであれば、彼の態度一つが……場合によっては国際問題となったり、王族や国の根本を揺らがせる事にもなりかねない。という認識が、頭の片隅にでも必要じゃないかと思う。

今回のアレックの事で言えば。
アレックへのあんな対応を、他の人にもやるようだと拙い、という話だ。

『エロエロしい』に対するあんなレベルの偏見は、この国全体でごく一般的、とは言えないものだ。
少なくとも、ぼくに顔面偏差値のあれこれを教えてくれたオルビー先生の神聖国家では、その偏見は眉を顰められるようなものだ。
それに加えて、ウェラン司祭の態度からすれば、この国の神殿としても実に恥ずかしいと……個人個人の聖職者が内心で何処まで思っているかはともかく……されるような事でもある。


これでアリーがね、一般人なら「仕方ないよ、あんなに『エロエロしい』んだもん」と言って慰めてや…




「……アドルっ! 聞いているのかっ!」
「はい、もちろんです、母さん。」

……何を、って? まぁまぁ『麗しい』な母からの説教を、だよ。
正確に言えば聞いている振りをしながら、約九百文字ぐらい、現実逃避代わりに他の事を考えていたがね。


ぼくが説教されている内容のメインは、やはりと言うべきだが……王様への正式報告も、ぼくの顔面偏差値に対する認定も無い状態で、ぼくが自分の顔面偏差値を盾に男二人を威圧した事だ。
そしてもう一つは、アレックを捕獲したぼくが、そのまま大人達の所へ戻らず、二人で浴室付きのベッドルームに直行した事だ。

ぼくに追い払われた男達は、驚きと苛立ちと、ぼくの顔面を間近で見た興奮とで、かなり大勢の人々に大声でぼくの事を話したらしい。
そして、ぼくとアレックが手を繋いで……そう。すっかり色欲に目が眩んでいたぼく達は手を繋いでいた……個室に入って行く道中を見掛けた人も、興奮しながら出会う人出会う人、話しまくったそうだ。


顔面タイプが『格好良い』の、それも恐らく高ランク以上の人物が、アレクセイ王子と『 特 別 親 密 』に付き合っていらっしゃる。……みたいな噂。


つまり、ぼくが思っていたよりもずっと早い時間で、沢山の人に、ぼくの話が広がっている。らしい。
ぼくとしては若干、説教されるには不本意な事柄も含まれているんだが。

それなりに少しは楽しい思いもしたが、最後まではしていないと言うのに。



えぇと、何の話だったかな……そうだ、アリーの話だったね。
あれ? アリーの話はもう終わったっけ?

「アドル……?」
「聞いています、母さん。」

ぼくが現実逃避をしようとすると、敏感に母が反応する。
敏感なのは身体だけにして欲しいもんだ。


ちなみに、こうしてぼくが説教されている間、もう一人の元凶はどうしているかと言えば。
アレックは、ぼくを大人達の生贄に差し出して。
恐らくは今頃、エイベル兄さんと、しっぽり親密にしているだろう。

アレックも兄と同じ高ランクだから、顔面偏差値に格差は無い。
間近で見た兄の『麗しい』を気に入った彼は、王子としての権力をいっそ清々しいぐらいにフル活用して、兄を何処ぞの部屋へと連れ込んだんだ。


アレックはもう、傷付いた心を癒しているというのに。
は~ぁあ、誰もぼくの心を慰めてはくれない……。



「はあぁ……。これでは、流石に国王陛下をないがしろに…」
「まぁまぁ。説教はもう、そのぐらいにしておいてあげて?」

困ったように呟く母を、のんびりとした口調で止めてくれるのは、何となく機嫌の良い側妃様だ。
王妃様は……彼もまた、少々困ったような表情になっている。


母。側妃様。王妃様。

ぼくの周りには今、かなり年上の美人しかいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...