美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくがドキドキさせた所為

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「じゃあ尚更、どうして一人でいたんだ。」

ぼくは単純に、アレックの行動に疑問を感じた。


アレックが一人でいると、それを見た相手が誤解していやらしい奉仕をしようとする事が多い。
その行為に痛みや怪我等の、性的じゃない暴力が伴っていなければ犯罪ではない上に、彼のような『エロエロしい』のタイプは常に相手を問わず性的な交渉を求めていると認識されている。
だから性的に襲われている現場を見られても、誰も助けてはくれない。

それを分かっているなら、どうしてアレックは側妃様の元を離れたりしたんだろう。
しかも一人きりで。


「それは……。」

言い淀むアレック。
一旦ぼくから視線を逸らし、また、ちらりと窺い見て来る彼に、ぼくは微笑みで返答を促した。

確かに、行為が同じでも相手が違えば、受け取り側がそれをどう感じるかも違って来るだろう。
拒否するのも受け入れるのも、相手によって対応を変えるなんてよくある事だ。
偶然でも好みな相手なら、そのまま続ければ良い。とは言え……自分が良いと思えない相手から無理矢理される可能性が高いだろう。
現にアレックは、良いと思えない相手に弄られて嫌がっていたじゃないか。


「今回はたまたま、ぼくが見掛けたから良かったが……。」

さり気なく……いや、これは少々あからさまかな……助けたという事を持ち出すぼく。


ぼくは性犯罪を撲滅させる実力も、そこまでしようという正義感も持ち合わせていない。
今回は……。ぼくが発見した事も偶然だが、『エロエロしい』に対する偏見を目の当たりにしたのが初めてだったり、相手の男二人の態度が気に入らなかったりと……そうした事が重なった為、アレックを助けようという気持ちになっただけだ。
単純にアレックの顔が気に入ったというのもある。

今回は、ぼくの顔面偏差値による威圧だけで相手が退いたから、結果的に無傷で彼を助ける事が出来たんだ。
もちろん、ぼくには勝算があったが、開き直った相手が暴力で対抗して来る可能性もあったから。


「いつも通りなら誰も、止めてはくれないんだろう?」
「……ひ、一人に。なり、たかった……から……。」

アレックは言いながら、自分の膝を抱えている腕に力を入れた。
ぼくを見詰める目が揺れて、潤んで来ている。


「アドルの……所為、だ。」

予想外の言葉を聞いて、ぼくは目を瞬かせた。


「アレックとはこの場で会うのが初めてだと思うんだが、ぼくが何かしただろうか。」
「……ガーデンハウスにいた時、ヴェールを着けてなかった。」

呟いたアレックは自分の膝に顔を寄せ、小さくなる。


「遠かったけど……。アドルの、顔を見たら……。何だか凄く、ドキドキして…」

まさか……。まさか、この流れは。


「身体が、熱くなって。……一人になりたかったんだ。」



そうまで言われたら、流石にぼくも理解した。
アレックに起こった一連の出来事を。


遠目に見たぼくの顔面にドキドキして、身体が火照ってしまい、その所為でその場から逃げ出して、一人でいる所を襲われた。……なるほど。



そんな事を聞いちゃ、ぼくとしても興奮するね。


ぼくは心からにやけながら、膝を抱えているアレックの手に自分の手を添えた。
少しだけ身体を寄せてみるが、彼も離れようとはしない。


「同じ事でも相手が違えば……。さっきぼくが言った事だ。覚えているかな?」
「……あぁ。覚えてる。」

アレックの手を、ぼくは優しく握った。


「アレック……。今、ぼくに手伝える事……ある?」

ぼくの意図が伝わっているだろうか。


「……ある。アドルになら、手伝って……欲しい。」

アレックは……ぼくの手を握り返した。



「ぼくとしては、出来れば場所を変えたいな。アレックの身体が土や草むらで汚れるのは嫌だよ?」
「俺も……。アドルの肌を他の者に見られるのは嫌だな。」

どちらからともなく立ち上がったぼく達は、手を繋いで歩き出す。



世野悟を思い出してから、初めてのそういう雰囲気だ。
アドル的なぼくもサトル的なボクも、気分はかなり高揚していた。






その気分が、あんな形で打ち砕かれるなんて……この時のぼくは予想もしていなかった。
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