美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくじゃあ駄目かな

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「ねぇ、アレックって呼んでいい?」


ぼくの問い掛けに、アレック王子は一瞬、何を言われたのか分からないという表情をした。
それでもぼくがじっと見詰めて返答を待っていると、ぎこちなくだが確かに頷いた。

こんな状況でぼくの最初の発言が、まるでお茶会にでも参加しているような暢気なものだったから、気を殺がれたのかも知れない。
さっきまで自分を嬲っている男達を睨んでいたし、アリーと一緒に居たぼくに対しても助けを求めず、警戒しているようだったから、これはこれで良かった。

ぼくはアレックに一歩近付く。
慌てて少し離れようとしたアレックだが、かろうじて乱れを直した衣服の裾を自分で踏んでしまっており、殆ど居場所を動かせなかった。
それに、緩い下衣だから良かったものの、布の上からでも彼自身はまだ反応を示しているようだ。
これでは元気良く歩き出す事は難しいに違いない。


「……つらい?」

何が、とは示さずに聞いた。

「……少し、だけ。」

視線を落としてアレックは答えた。
ぼくは座っているアレックの横に膝を付いて、彼を見下ろす。
近い位置にいるが触れはしない。


「ぼくに何か、手伝える事はある?」
「……! お、お前……っ!」

カッとなったアレックが声を荒げた。悔しそうにぼくを睨む。

「お前も結局、さっきの者達と同じじゃないか! いや! 助ける振りをした分、余計に悪い!」
「同じだなんて酷いなぁ。ぼくはちゃんと、アレックの意思を確認しているじゃあないか。」


さっき男二人がアレックを弄っているのを見た時は、ぼくは確かに怒りを感じていたようだ。
奴等が二人掛かりでレイプしようとしていたからじゃない。
他人の身体を弄って興奮して楽しんでいる癖に、助けてやっていると恩を着せる事すら通り越して、『エロエロしい』というタイプそのものを格下に見ているのが気に入らなかったんだ。

今こうして考えてみると、ぼくらしくもない激しい感情だったかも。
あれはたぶん、世野悟な考え方だろう。


アレックはぼくに助けられたと、思ってくれていたらしい。
だが、ぼくが助けたからと言って、アレックの『エロエロしい』を見てぼくが何とも思わないかと言えば、それとこれとは話が別なわけだよ。
機会があれば是非、とは……ぼくも考えはするよ。考えるぐらいは。

「そんな風に言って……どうせ俺が断った所で、目が誘ってるとか、恥ずかしがってるとか言うんだろ! 口先だけで聞く振りをしてるくせに……。」
「そんな事は無いよ。聞く振りをするぐらいなら、そもそも聞かない。……ぼくは、ね。」
「じゃあ、お断りだ!」
「そうか……残念だ。」

肩を竦めて、ぼくはアレックの隣に腰を下ろした。
地面に直座りするなんで、恐らくアドルの記憶には無い所業だった。

案外、固いだけでどうという事の無い感触だな。だが長時間は辛そうだ。


彼に触る事も無く、横に座ったぼくを、アレックは注意深く窺うように視線を向けていた。
もちろん無言のままでだ。

本当はすぐにでも側妃様の所に連れて行ってやるのが良いんだろうが、つい今さっきまで身体を弄られていたんだから、移動を急かすのも酷だろう。
先に戻ったアリーから、アレックが見付かった話が伝わっているかも知れない。
向こうが急いでアレックを保護したいんなら、誰か迎えを寄越すはずだ。

ぼくとしては別に、何時までと時間を決められたわけでも無いんだから、しばらく様子を見てもいい。
無言のままというのは面白味に欠けるが、ただ眺めているだけでもアレックは『エロエロしい』の高ランクだから、こうしている時間も全くの無駄じゃあない。


見られる事に慣れているのか、顔面に自信があるからか、アレックは、自分を眺め回しているぼくから視線を逸らす事は無かった。

「お前……何故さっき、あんな事を言った?」

やがて呟いたアレックの声からは、怒りは抜けており、はっきり言えば呆れているようだ。
何故だか唇をやや尖らせて、アレックは膝を抱えている。

「そうやって何もする気が無いのに……あ、あんな風に言ったら、俺が怒るに決まってるだろう。」
「簡単な理由だよ。アレックが魅力的だからだ。でも断られたから何もしない。」
「……俺は、本当に嫌だから。あの男達にも抵抗してたんだぞ。」
「それは知っている。……だが。相手が違えば、同じ事でも反応が違う……という事も、よくある話だ。」

ぼくは言いながら、思わずにやけてしまった。
呆れたように話しながらも、アレックの頬が徐々に赤らんでいたからだ。

「彼等とぼくは違う。低ランクに奉仕されるのはお断りだが、高ランク以上なら構わないと……そう感じる事もあるだろうと思ったんだが。」
「それは、まぁ……確かに。」

思い当たる節があるんだろう。
アレックの目が何かを思い出すように、少しだけ泳いだ。


「アレックにそんな気がないんなら、ぼくは無理強いはしない。……身体が落ち着くまで、少しお喋りでもしていようか?」


身体が、という部分で。
アレックははっきりと赤面した。
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