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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくに見られても平気なんだね

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アリーがアレック王子に目線を向けていたのは僅かな時間。
すぐにアリーは顔を背けた。
背けたが……その頬がじわじわと赤らみを現し始めたのは、憤りといった激しい感情からじゃなくて、卑猥な場面を目にした羞恥心だろう。
表情には、はにかみすら滲ませている。

その姿は単体で見ればとても可愛いものだが。
少なくとも、他人のレイプ直前現場を前にするようなものじゃない。


「ああぁ、誰かと思えば……アリアノール王子殿下ですなぁ。」
「……本当だ。どこの無礼な輩が邪魔をしに来たかと思えば。あ、これは失礼。」

……敢えて、どのタイプとは言わない。
ぎりぎりで中ランク程度の男二人が、アリーを見て顔を歪める。

頭に蛆虫でも沸いているのか?

それぞれシャツの内側やペニスを弄っていた手は離しているものの、アレック王子のシャツは捲れ上がり、股間も剥き出しのままの状態だ。
当然のように、アレック王子の身体を押さえ付けるのも、そのまま続けている。

アレック王子はその二人を睨みながら、必死に藻掻き続けていた。
結構な力が入っているだろう事は、王子の腕の震えや、押さえ付けている二人の腕の筋肉の盛り上がり等から見て分かる。

「アレクセイ王子の邪魔はいけませんなぁ~。」
「そうですとも。ここは我々に任せて、どうぞお引き取り願えますか。」

あからさまに、アリーとぼくを追い払おうとする言葉。
俯き加減のアリーが、そっとぼくの袖を引く。



促されていると分かったが、ぼくは動かない。
このままこの場を離れる気が無いからだ。

男二人はじっとこちらの様子を見ている。
恐らくぼく達が背を向けた瞬間、またあの行為を再開する気だろう。


「あの……行きましょう?」
「アリー。本気で言っているのか?」

二人きりの状況でもないのに、ぼくはわざと、アリーと愛称を呼び捨てにした。
後でやる事の為に。
中ランク二人に、ぼくの強者っぷりを感じさせるように。

だが自分でも意外なぐらい、硬い声が出ていた。
言葉の意図が分からないのか、アリーが戸惑った表情を浮かべる。

「アリーには本当に、彼が遊んでいるように見えているのか? 本当に、このまま立ち去る気か?」
「だ、だって……。」

まさか、こんな事をぼくから、こんな風に言われるとは思っていなかったんだろう。
アリーは怯えながら言葉を探しているように見えた。

「自分の意思で、あの場を離れたんですから……そのつもりだった。……としか。」
「彼がこの場に来た経緯について聞いているんじゃない。アリーが今の彼を見て、彼が楽しそうに見えるのか。それに対する答えをくれないか?」
「楽しいか、どうかは……。あの、僕には経験が無くて…」
「……分からないんだね?」
「えぇ、でも、アレクセイ王子は見ての通り『エロエロしい』ですから……。そう、ですよね?」


淡々と問い掛けながら、ぼくはアリーに、無意識の悪意を見た。
男を誘っている現場を見たわけでも無く、身体を触られている姿が楽しんでいるように見えたわけでも無いのに、何も思わず傍観する。


「楽しんでいないから彼は、嫌だと、言っているんじゃないかな。」
「言葉だけ嫌がる素振りをするのは『エロエロしい』の特徴、と言います。」

アリーは、意地悪をするつもりじゃないだろうに、そう言い切った。

「……嫌がっていない、なんて。第三者のぼく達が決める事じゃない。せめてちゃんと確認しようとは、思わないのか? ……やるにしても、だ。」
「だって、仕方ないですよ。『エロエロしい』の高ランクなんですから。」

そうか、これが……。

オルビー先生の言っていた、偏見、か。






オルビー先生が授業の時に、零していた話が思い出される。

娼夫には顔面タイプが『エロエロしい』な人が多く、娼館に来る客からのニーズもこのタイプが高い。
実際このタイプは、性に対して奔放だったり、相手からの求めに寛容な人が比較的多めだ。

しかし、一部の人々あるいは一部の界隈では、その辺りに誤解や偏見を抱いている人や、そう思いたがっている人も少なくないと言う。

……『エロエロしい』は快楽に弱く、常に快楽を求める性質だ、と。
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