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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくはたまたま見掛けてしまった
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ぼく達が歩いている庭は、ガーデンハウスがあったプライベートエリアのような場所とは別だ。
王城の使用人以外にも、兵士、文官、その他にも城に出入りする人々が歩いている。
フリーパスという程ではないが、庭への門を潜る時に見張り兵にチェックされるだけで、特段に怪しい者でも無ければ、庭が解放されている日中時間は比較的自由に利用出来るんだ。
ぼくは顔の上半分を覆う程度の……現代で言う所のコロンビーナと呼ばれる、仮面舞踏会なんかで使われるマスクを着用している。
一方、アリーはヴェールを付けていない。王城の敷地内にいる王子が、その顔を隠すわけにも行かないんだろう。
「ねぇ、アリー。……人の少ない方に行ってみようか。」
「あっ……は、はい。」
アリーの顔が赤くなっているし、ぼくもマスクで隠されていない口元がにやけてしまいそうだったから、人のいない場所で一息吐きたかった。
時たま近場を行き交う人々が、王子であるアリーに礼をしながらも表情を強張らせているのも気に入らない。
すぐ近くにその人達がいるわけじゃないが、少しぐらい離れていても、そういうのだけはやけにはっきりと見えるもんだから。
薄っぺらい言葉で気遣ったぼくに「平気です」と答えるアリーの微笑はとても良いものだったが、これ以上、その姿をそこら辺の阿呆共に見せてやる気は、ぼくには無かった。
あぁそれと、ついでにだが、アレック王子を探すという一応の目的があるからな。
話が大きくなってぼくの手に余るから、王城内で攫われたという路線を外して考えよう。
とすると、アレック王子は自分の意思で側妃様のそばを離れたんだろう。
これはぼくの憶測でしかないが、もしかするとアレック王子は、側妃様が王妃様の茶会に乱入する目的を知っていて、あの場から逃げ出したんじゃなかろうか。
そうであれば……彼が自室に戻ってしまったのでなければ、アレック王子は余り人目に付かない場所にいる可能性が高そうだ。
アリーとぐっと親し気に慣れたのは僥倖として置いておいて、ぼくはアレック王子の顔も見たい。
ぼくはアリーに案内されて、日当たりの悪い建物の陰、それも出入口とは遠い方へと進んだ。
その辺りは植えられている花の見どころ時期も終わったのか、胸元の高さまで育っている植物は緑色の葉っぱだらけだった。
人々は皆、此処まで来ずに大曲がりして戻って行く。
人通りも急に減って行き、他の人の邪魔にならないよう隅の方で休憩している人の姿が、やや遠くに見えているだけになった。
「……! ぃ、…や…………っ!」
不意に声が聞こえて、ぼくは立ち止まる。
アリーにも聞こえたんだろう、ほぼ同時に足を止めた。
これは……この、種類の声は……。
誰かが襲われている声だと、サトル的な知識で思い当たり。
引き篭もりで世間知らずなアドル的な感覚が、得体の知れない恐怖に震えた。
世野悟ならば面倒だ、なんて思ったかも知れない。
だがぼくの基本はアドル……だと思っている……だから、助けなければと感じた。
自分一人では助けられないでも、状況を確認して、必要な助けを求めるぐらいは出来るだろう。
震えそうになる足を動かして、声がした方に向かった。
ぼくの中にあるのがアドルの感覚だけじゃなくて良かった。
もしそうだったら、この状況で動くなんて、とても出来なかっただろう。
そこは、建物と茂みとの間に隠れるような場所。
「……さぁ、遠慮なさらずに。」
「まだ、気持ち良くならないのですか?」
「ぃ、ヤだ……っ。要らないっ!」
高価な衣服に身を包んだ鮮やかな赤毛の若い男性が、草むらの上で身体を開かれ、割と裕福そうな身なりの男二人に襲われていた。
襲っている一人は若い男性の頭の方の位置で、彼の片手を拘束しながらシャツの中へと手を差し込み。
もう一人は、若い男性の足元に這い蹲った姿勢で、彼のズボンを脱がしてペニスを握り込んでいる。
若い男性は唯一動かせる片手で懸命に、自分を嬲る腕を引き剥がそうと力を込めているものの、二対一では到底敵うわけがない。
「おぉ、おぉ、恥じらう姿の、なんと『エロエロしい』な事か。」
「流石は『エロエロしい』だ。天性のスキモノ、ですね。満足させてあげましょう。」
「っち……がう……っ!」
若い男性が必死に嫌がって首を振り、ぼくにも彼の顔が見えた。
もう、こんな場面だから詳細は省かせてもらうが……顔も、声も、間違えようの無い『エロエロしい』が高ランクだった。
もしぼくがアドルの感覚しか持たなければ、彼の表情や声の『エロエロしい』に、……彼はもしかしたら誘っているのではないかと感じたかも知れない。
だが、『エロエロしい』に惑わされないサトルの感覚では、間違いなく彼は嫌がっており、その声には怒りや恐怖や屈辱が溢れていると判断した。
襲っている方には、何の罪悪感も無いどころか、見られて焦る気持ちも無いらしい。
ぼくは赤毛の彼を助ける事に決めた。
「……あぁ。アレクセイ王子ですね。」
冷静な声に、ぼくは驚いて横を振り返った。
呟いたアリーの顔には何の感情も浮かんでいない。
そして、何もしようとしない。
アリーは更に続ける。
「こんな所で遊んでいるなんて、やっぱり高ランクの『エロエロしい』は、違いますね……。」
ぼくは理解した。
アリーには、彼を助けたいという気持ちが無い。
王城の使用人以外にも、兵士、文官、その他にも城に出入りする人々が歩いている。
フリーパスという程ではないが、庭への門を潜る時に見張り兵にチェックされるだけで、特段に怪しい者でも無ければ、庭が解放されている日中時間は比較的自由に利用出来るんだ。
ぼくは顔の上半分を覆う程度の……現代で言う所のコロンビーナと呼ばれる、仮面舞踏会なんかで使われるマスクを着用している。
一方、アリーはヴェールを付けていない。王城の敷地内にいる王子が、その顔を隠すわけにも行かないんだろう。
「ねぇ、アリー。……人の少ない方に行ってみようか。」
「あっ……は、はい。」
アリーの顔が赤くなっているし、ぼくもマスクで隠されていない口元がにやけてしまいそうだったから、人のいない場所で一息吐きたかった。
時たま近場を行き交う人々が、王子であるアリーに礼をしながらも表情を強張らせているのも気に入らない。
すぐ近くにその人達がいるわけじゃないが、少しぐらい離れていても、そういうのだけはやけにはっきりと見えるもんだから。
薄っぺらい言葉で気遣ったぼくに「平気です」と答えるアリーの微笑はとても良いものだったが、これ以上、その姿をそこら辺の阿呆共に見せてやる気は、ぼくには無かった。
あぁそれと、ついでにだが、アレック王子を探すという一応の目的があるからな。
話が大きくなってぼくの手に余るから、王城内で攫われたという路線を外して考えよう。
とすると、アレック王子は自分の意思で側妃様のそばを離れたんだろう。
これはぼくの憶測でしかないが、もしかするとアレック王子は、側妃様が王妃様の茶会に乱入する目的を知っていて、あの場から逃げ出したんじゃなかろうか。
そうであれば……彼が自室に戻ってしまったのでなければ、アレック王子は余り人目に付かない場所にいる可能性が高そうだ。
アリーとぐっと親し気に慣れたのは僥倖として置いておいて、ぼくはアレック王子の顔も見たい。
ぼくはアリーに案内されて、日当たりの悪い建物の陰、それも出入口とは遠い方へと進んだ。
その辺りは植えられている花の見どころ時期も終わったのか、胸元の高さまで育っている植物は緑色の葉っぱだらけだった。
人々は皆、此処まで来ずに大曲がりして戻って行く。
人通りも急に減って行き、他の人の邪魔にならないよう隅の方で休憩している人の姿が、やや遠くに見えているだけになった。
「……! ぃ、…や…………っ!」
不意に声が聞こえて、ぼくは立ち止まる。
アリーにも聞こえたんだろう、ほぼ同時に足を止めた。
これは……この、種類の声は……。
誰かが襲われている声だと、サトル的な知識で思い当たり。
引き篭もりで世間知らずなアドル的な感覚が、得体の知れない恐怖に震えた。
世野悟ならば面倒だ、なんて思ったかも知れない。
だがぼくの基本はアドル……だと思っている……だから、助けなければと感じた。
自分一人では助けられないでも、状況を確認して、必要な助けを求めるぐらいは出来るだろう。
震えそうになる足を動かして、声がした方に向かった。
ぼくの中にあるのがアドルの感覚だけじゃなくて良かった。
もしそうだったら、この状況で動くなんて、とても出来なかっただろう。
そこは、建物と茂みとの間に隠れるような場所。
「……さぁ、遠慮なさらずに。」
「まだ、気持ち良くならないのですか?」
「ぃ、ヤだ……っ。要らないっ!」
高価な衣服に身を包んだ鮮やかな赤毛の若い男性が、草むらの上で身体を開かれ、割と裕福そうな身なりの男二人に襲われていた。
襲っている一人は若い男性の頭の方の位置で、彼の片手を拘束しながらシャツの中へと手を差し込み。
もう一人は、若い男性の足元に這い蹲った姿勢で、彼のズボンを脱がしてペニスを握り込んでいる。
若い男性は唯一動かせる片手で懸命に、自分を嬲る腕を引き剥がそうと力を込めているものの、二対一では到底敵うわけがない。
「おぉ、おぉ、恥じらう姿の、なんと『エロエロしい』な事か。」
「流石は『エロエロしい』だ。天性のスキモノ、ですね。満足させてあげましょう。」
「っち……がう……っ!」
若い男性が必死に嫌がって首を振り、ぼくにも彼の顔が見えた。
もう、こんな場面だから詳細は省かせてもらうが……顔も、声も、間違えようの無い『エロエロしい』が高ランクだった。
もしぼくがアドルの感覚しか持たなければ、彼の表情や声の『エロエロしい』に、……彼はもしかしたら誘っているのではないかと感じたかも知れない。
だが、『エロエロしい』に惑わされないサトルの感覚では、間違いなく彼は嫌がっており、その声には怒りや恐怖や屈辱が溢れていると判断した。
襲っている方には、何の罪悪感も無いどころか、見られて焦る気持ちも無いらしい。
ぼくは赤毛の彼を助ける事に決めた。
「……あぁ。アレクセイ王子ですね。」
冷静な声に、ぼくは驚いて横を振り返った。
呟いたアリーの顔には何の感情も浮かんでいない。
そして、何もしようとしない。
アリーは更に続ける。
「こんな所で遊んでいるなんて、やっぱり高ランクの『エロエロしい』は、違いますね……。」
ぼくは理解した。
アリーには、彼を助けたいという気持ちが無い。
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