美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくを買い被らないで

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「サトゥルー神は、相手の容姿に関わらず全ての、求める者に愛を分け与えると言います。」

王妃様のそんな言葉に、アンドリュー王子は力強く頷き、アルフォンソさんも控えめにだが首を縦に小さく揺らして。
アリアノール王子は……そっと眉を寄せて、頼りないような視線をぼくに投げ掛けた。


「そっ、そのような立派な人柄ではありませんよ……。」

肝心のぼくはと言えば。
かろうじて王妃様に謙遜して見せたものの。
非常に申し訳ないんだが、苦笑いを堪えるのが精一杯だ。
すっかり仮面状態の微笑も強張っているかも知れない。

だって、サトゥルー神というのはとどのつまり、世野悟の事なわけで。
王妃様の言葉をそのまま素直に受け止めると、世野悟がとても人格的に優れた、博愛に溢れた……まさに神と呼ぶに相応しい人物という事になるんだ。
それが大いなる誤解だという事を、世野悟の感覚を持つぼくは知っている。


はっきり言おう。

平凡な容姿だった世野悟は、格好良いとは言われなかったものの不細工でもなかった為、都合の良い男として誘われる事が割と多かった。
小学校から続けている剣道以外には、特に嵌まり込むような趣味も無くて、それなりに時間が空いていたというのも誘いやすいポイントだったかも知れないが……。
理由として大きいのは、やはり性格だろう。
世野悟は基本的に、誰からでも誘われれば断らない男だった。

誰でも、どちら側でも。
断るのが面倒臭いのと、そこそこ楽しめればそれで良しとするような性格。
決して褒められたものじゃないのは、お分かりいただけるだろう。
ぼくが夢の中で里村を見て興奮している最中、頭の片隅に流れた「手ぇ出しときゃ良かったなぁ」という気持ちはたぶん、サトル的な感覚だからな。


そんな男にこんな評価とは、大した持てはやされぶりじゃないか。

これもある意味、神への信仰心によるフィルターが掛かった状態なんだろうな。
それともこの世界では、神という存在は素晴らしい御方しかいないのかも。
その辺りの感覚的な所はよく分からないな。
引き篭もりのアドルはさほど信仰心は高くなかったし、それは世野悟も同じ。
特に、世野悟の知識によると、現代日本という世界では神という名のロクデナシが大勢いたらしいから。



「いえっ、立派ですっ。……アドルさんは、優しい方です。」

結構信頼というか、心を開いてくれたらしいアンドリュー王子。

嬉しいんだが、ぼくは別に優しい人物ではないし、後々にやり難くなるのも宜しくないから、信頼するのは程々にしておいて欲しいものだ。
この辺りの加減は難しいな。


「母上、打ち合わせはもう少し掛かりますか? もしそうだったら、ちょっと失礼して……アドルさんを、あの……。花園を、案内したいんだけど……。」

もじもじと王妃様に伺ったアンドリュー王子が、ちらりとぼくへ視線を向ける。
ぼくは快諾を示す為に、一度頷いた。
ぼく達の食事の進み具合から言っても、ちょうど良いタイミングだ。

はにかむような小さな笑顔は、ぼくが見たかった表情。
小首を傾げてぼくを見上げるのは可愛らしい仕草なのに、やや悪戯っぽく口元に浮かんだ笑みがやっぱり色っぽく見える。

今からこんなに色気を振り撒いているんじゃあ、成人したらどうなってしまうのか。
非常に楽しみ、かつ、心配だよ。


「そうだな。せっかくだから、アリーも一緒に……二人でご案内するといい。」

ぼくが了承した様子を確認した王妃が、王子二人に微笑みを向ける。

顔面偏差値の低い息子を邪険にするでも、嘆くでもない。
自分もかなり低いからとは言え、王妃様の方こそ立派な人格じゃないか。


「では、俺は遠慮しよう。あまり人数が多いのも、せっかくの花が見え難くなってしまう。」

アルフォンソさんが、まさかの待機宣言。
それを受けて、『麗しい』が高ランクな兄も、席に残ると言う。

大人のいない所で心から遠慮なく美形を眺め回そうと思っていたのに、これは凄く惜しい。
凄く惜しいんだが……見方によっては、助かったのかも知れない。
せっかく美形と散歩に繰り出しても、美形が沢山いると誰を見たら良いか、こんがらがってしまうからね。




では三人で外に出ましょうかと、その状況で。


「お話し中に申し訳ありませんっ。あの……っ。」
「どうした?」

やや慌てた様子のメイドに、眉を顰める王妃様。

普通ならメイドがこんな風に邪魔をする事はない。
だから何か、普通じゃない事があったとしか思えないからだ。

「あちらに……側妃様、が。」
「……呼んでいない。」

唇を噛む王妃様の表情に、側妃様と呼ばれる人物との関係が浮かぶようだ。


ガーデンハウスの入り口の方が、何だか騒がしくなって来た。



面倒臭い人物がやって来る。

ぼくは、そんな予感がした。
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