美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

左側

文字の大きさ
上 下
31 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはなんとか合格したようだ

しおりを挟む
「顔面偏差値が、気にならないなんて……そんな事が……。」

あるわけがない。
……とまでは口には出さなかったが。
アリアノール王子の表情が、そう語っていた。


恐らくぼく達よりも年上な分だけ、辛い事も多く経験しているんだろう。
ぼくを見るアリアノール王子の睫毛は頼りなく震えている。

その仕草。明らかに、美男子。

「あ、貴方程の人が……。」
「だからかも知れません。」

信じられない様子で呟かれた言葉に、ぼくは敢えて堂々と声を重ねた。
はっとしたように唇を閉じたアリアノール王子と視線を合わせて、ぼくはゆっくりと、だがしっかりと伝える。

「ぼくは、自分がこうだから……。他の人達の偏差値は、中ランクも低ランクも、大して気にならなくなったんですよ。同じだとは言わないが、ぼくにとってはさほど、問題にならない……という感じですね。」

いかん、いかん。
ついうっかり、『格好良い』で馴れ馴れしい口調になってしまう所だった。
確か、リウイにはこう話したはずだよな……。と、思い出しながら喋っていたから、尚更に気が散ってしまったのかも知れないな。


これで何とか納得してくれたら良いんだが。
と願いながら、三人の様子を窺う。
アリアノール王子は、今のぼくの言葉や表情なんかを検討しているようだ。
アルフォンソさんも黙っているが、考え込んでいるのが分かる。

アンドリュー王子が、「うん」と、納得したように頷いて。
労わるように、兄の手に、自分の手を重ねて言った。

「兄上。僕は……嘘じゃないと、思う。だって……。」

一旦、言葉を区切って。
顔を半分だけぼくに向けながら、視線を流して来るアンドリュー王子。
先に顔を動かしてから後追いで視線を投げるだなんて、年下なのに色気のある仕草だ。

「ここに来てから、ずっと……。アドルさんは一度も、嫌そうな顔をしたり、視線を逸らしたりしてないよ。」

逸らすわけないだろう。
寧ろ、ぼくが逸らされる側だったよ。
それはそれで寂しかったが……でもちゃんと分かってくれて良かったよ。




「なるほど。これは本当に……『奇跡』ランクのようですね。」

王妃様の声が、静かなガーデンハウス内に広がった。

「恐れ入ります、妃殿下。」

言葉で表した程には恐縮していない、ぼくのまぁまぁ『麗しい』な母の声。
そちらの方に顔を向けると、王妃様は感心したように、母は何処か誇らしげな様子に見える。


「アドル。王妃殿下は、お前の様子を確認されていたんだ。」
「……と、言うと?」

今の言葉でおおよその予想は付くが、聞けるものならば明確に聞いておきたい。
ぼくの問い掛けに母と、それから王妃様まで、簡単に説明してくれた。

予想した通り、ガーデンハウスでのぼくの言動は、周囲に待機しているメイドからも含めて、全て観察されていたようだ。
ぼくの顔面偏差値が、形式上の『奇跡』なのか、本質的に『奇跡』なのかを判断する材料とする為に。


……くっ、それならばもっと『格好良い』的な態度にすれば良かったか。
と一瞬思ったが、どうやら『格好良い』というタイプ的な態度じゃなく、『奇跡』というランク的な態度の方らしい。
というか、形式上とか本質的とかの意味が分からないのだが。
まぁ、必要な事であれば説明があるだろうし、そうでなければ、どうしても気になった時に聞けば良いか。


「アドル殿……。試すような事をして申し訳ありません。」
「王妃様、ぼくの事は、どうか呼び捨てにしてください。」

ぼくは少し慌てた。
ぼくの奇跡ランクの報告も、それに対する承認もまだなんだから。

「……分かりました。……アドル、貴方は私や、私の息子達を見ても平気なようですね。我慢をしている様子さえ、窺わせない。」
「我慢をしていませんから。」

正直に言えば眼福ですよ。視界のご馳走です。

「貴方はもしかすると、形式的に、サトゥルー神のご尊顔に合致するだけでなく……その精神までも合致しているのかも知れませんね。」

はい、その通りですよ、奥さん。
アドルの感覚があるので完全には一致しないが、ぼくは世野悟の転生体だからね。


当然の事だと、内心で頷いていたぼくは。
続く、王妃様の言葉で大いに首を傾げる事になる。


「サトゥルー神は、相手の容姿に関わらず全ての、求める者に愛を分け与えると言います。」

……え。……そう、かなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾
BL
異世界召喚 麗しの騎士×捻くれ平凡次男坊 お祭りの帰り道、兄弟は異世界へと飛ばされた。 容姿端麗で何でも優秀な兄と何でも平均的な弟。 異世界でもその評価は変わらず、自分の役目を受け入れ人の役に立つ兄と反発しまくる弟。 味方がいないと感じる弟が異世界で幸せになる話。 捻くれ者大好きです。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

処理中です...