25 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
ぼくの茶番に少しだけお付き合いを
しおりを挟む
まぁまぁな『愛くるしい』のオルビー先生と、向かい合って食事。
実践さえなければ、どれだけ楽しいひと時だったろうか。
年上ではあるが、これ程の『愛くるしい』を目の前にして、ぼくは緊張と羞恥の中にいる。
自分の事とは言え、顔面タイプが『格好良い』な事が、こんなにも面倒だったとは。
せめてタイプが違うか、エイベル兄さんと同じ高ランクぐらいなら、ぼくがもう少し普通な態度でも許されたんだろうに。
一生懸命に『格好良い』に相応しい態度を振る舞う、ぼくの気分はさながら舞台役者。
役柄は、キザな二枚目気取り……かな。
神殿で里村……いや、リウイへの態度も今と似たようなもんじゃないか、と。
そう言われそうな気もするが。
その時と、今とでは、相手も状況も違う。
お互いに前世の記憶があると判明する前でも、リウイと話していた時は二人きり。
ぼくは子爵家の息子で、彼は一介の神官で、しかも年齢も近そうだった。
前世の記憶持ち同士だと分かった後は、それぞれの前世である世野悟と里村竜二は友人だ。
そうした色々な要因が合って、ぼくは気安い態度を取れたんだ。
そうだから、『格好良い』が期待されるような振る舞いをする余裕もあった。
まさか『格好良い』な振る舞いが、本来はずっとずっと目上の人に対してまで、こんなに明確に求められるとは思っていなかったがね。
「アドル様。もし、召し上がった料理にあまり美味しくないと感じる物があった場合、どのように振る舞うべきだと思いますか?」
オルビー先生からの鋭く冷徹な視線を浴び、ぼくは心が震えるような思いだ。
実践の真っ最中なのに、こんな風に甘い罠を散りばめて来るんだから、オルビー先生、狡いよ。
――― うわぁ……。失敗したら殺されるぞ……。
……ハッ。一瞬だが、馬鹿馬鹿しい事を考えてしまった。これは世野悟の所為だ。
「そうだな……。ぅ~ん。特に詳しくは触れない、かな。」
「それでは貴方のお気に召さなかったと判断されてしまいますよ。奇跡ランクをもてなすのに失敗した、と……ホストの評判は下がるでしょう。」
どうやら当たり障りの無い態度では、失格のようだ。
只でさえ引き篭もりだったぼくに『格好良い』はなかなか難しい。
ズルをするようだが、ここは先生に良い解答を教えて貰おう。
「そうか……。オルビー先生が『格好良い』だったら、どうするんだ?」
「私は『格好良い』ではありませんよ?」
「それは分かっているよ。それでも、オルビーに教えて欲しい。……ね? 見せて?」
ぼくは、薄っすらと笑いながら、オルビー先生にお強請りする。
堂々とカンニングをするようなぼくだが、その所作だけはちゃんと『格好良い』と判断して貰ったようだ。
解答そのものでは無いが、するべき態度を教えてくれる事になった。
「そうですね。では仮に、この……『鹿肉のソテー、オレンジソース添え』が苦手だとしましょう。」
オルビー先生は、言いながら鹿肉にナイフを走らせる。
――― 今の。完全に、殺し屋だ。
……ハァッ。また馬鹿な事を考えてしまった。ぼく、集中しろ。
「まずは、ソテーを美味しかったと、さらりと伝えます。その流れで自然に、鹿肉が周辺の地域でどのようなものかを尋ねましょう。鹿肉がその地域でポピュラーな食材なのか、ホストが張り切って手配した希少なものかを確認するのです。」
頑張って微笑を保ちながら、ぼくは頷く。
「もしもポピュラーな食材であれば、次回にはまた違った料理も楽しみだ、と。希少な食材であれば、次回にはこの辺りでよく食べられている物にも興味があると。……次回を匂わせながら、誘導してしまうのです。いずれにせよ……。」
なるほど、リクエストか。
確かにそれが早そうだが……上手く出来るかな。
オルビー先生は指先を交互に組んだ手の上に、そっと顎を乗せてぼくを見上げる。
眼差し同士が一瞬絡んで、生まれた緊張感にぼくは咽喉を鳴らした。
「いずれにせよ。アドル様を不愉快にさせぬよう、ホストは細心の注意を払うはずです。例え、貴方が不愉快に感じなくとも、そのように見えたとしたら……。」
オルビー先生の瞳が細くなる。
「ホストの評判が下がる、で済めば……まだ良い。下手をすると、六大神の主神への冒涜だと……。そう、評されかねない……。」
……えぇ、そこまで言う?
実践さえなければ、どれだけ楽しいひと時だったろうか。
年上ではあるが、これ程の『愛くるしい』を目の前にして、ぼくは緊張と羞恥の中にいる。
自分の事とは言え、顔面タイプが『格好良い』な事が、こんなにも面倒だったとは。
せめてタイプが違うか、エイベル兄さんと同じ高ランクぐらいなら、ぼくがもう少し普通な態度でも許されたんだろうに。
一生懸命に『格好良い』に相応しい態度を振る舞う、ぼくの気分はさながら舞台役者。
役柄は、キザな二枚目気取り……かな。
神殿で里村……いや、リウイへの態度も今と似たようなもんじゃないか、と。
そう言われそうな気もするが。
その時と、今とでは、相手も状況も違う。
お互いに前世の記憶があると判明する前でも、リウイと話していた時は二人きり。
ぼくは子爵家の息子で、彼は一介の神官で、しかも年齢も近そうだった。
前世の記憶持ち同士だと分かった後は、それぞれの前世である世野悟と里村竜二は友人だ。
そうした色々な要因が合って、ぼくは気安い態度を取れたんだ。
そうだから、『格好良い』が期待されるような振る舞いをする余裕もあった。
まさか『格好良い』な振る舞いが、本来はずっとずっと目上の人に対してまで、こんなに明確に求められるとは思っていなかったがね。
「アドル様。もし、召し上がった料理にあまり美味しくないと感じる物があった場合、どのように振る舞うべきだと思いますか?」
オルビー先生からの鋭く冷徹な視線を浴び、ぼくは心が震えるような思いだ。
実践の真っ最中なのに、こんな風に甘い罠を散りばめて来るんだから、オルビー先生、狡いよ。
――― うわぁ……。失敗したら殺されるぞ……。
……ハッ。一瞬だが、馬鹿馬鹿しい事を考えてしまった。これは世野悟の所為だ。
「そうだな……。ぅ~ん。特に詳しくは触れない、かな。」
「それでは貴方のお気に召さなかったと判断されてしまいますよ。奇跡ランクをもてなすのに失敗した、と……ホストの評判は下がるでしょう。」
どうやら当たり障りの無い態度では、失格のようだ。
只でさえ引き篭もりだったぼくに『格好良い』はなかなか難しい。
ズルをするようだが、ここは先生に良い解答を教えて貰おう。
「そうか……。オルビー先生が『格好良い』だったら、どうするんだ?」
「私は『格好良い』ではありませんよ?」
「それは分かっているよ。それでも、オルビーに教えて欲しい。……ね? 見せて?」
ぼくは、薄っすらと笑いながら、オルビー先生にお強請りする。
堂々とカンニングをするようなぼくだが、その所作だけはちゃんと『格好良い』と判断して貰ったようだ。
解答そのものでは無いが、するべき態度を教えてくれる事になった。
「そうですね。では仮に、この……『鹿肉のソテー、オレンジソース添え』が苦手だとしましょう。」
オルビー先生は、言いながら鹿肉にナイフを走らせる。
――― 今の。完全に、殺し屋だ。
……ハァッ。また馬鹿な事を考えてしまった。ぼく、集中しろ。
「まずは、ソテーを美味しかったと、さらりと伝えます。その流れで自然に、鹿肉が周辺の地域でどのようなものかを尋ねましょう。鹿肉がその地域でポピュラーな食材なのか、ホストが張り切って手配した希少なものかを確認するのです。」
頑張って微笑を保ちながら、ぼくは頷く。
「もしもポピュラーな食材であれば、次回にはまた違った料理も楽しみだ、と。希少な食材であれば、次回にはこの辺りでよく食べられている物にも興味があると。……次回を匂わせながら、誘導してしまうのです。いずれにせよ……。」
なるほど、リクエストか。
確かにそれが早そうだが……上手く出来るかな。
オルビー先生は指先を交互に組んだ手の上に、そっと顎を乗せてぼくを見上げる。
眼差し同士が一瞬絡んで、生まれた緊張感にぼくは咽喉を鳴らした。
「いずれにせよ。アドル様を不愉快にさせぬよう、ホストは細心の注意を払うはずです。例え、貴方が不愉快に感じなくとも、そのように見えたとしたら……。」
オルビー先生の瞳が細くなる。
「ホストの評判が下がる、で済めば……まだ良い。下手をすると、六大神の主神への冒涜だと……。そう、評されかねない……。」
……えぇ、そこまで言う?
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。


転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる