美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくの顔面偏差値は面倒臭そうだ

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神殿に向かう時はわくわくしながら乗っていた馬車で、今ぼくは何とも居心地の良くない思いをしていた。
ちらりと正面に腰掛ける母を窺うと、母のまぁまぁ『麗しい』な眉間に皺が寄りっぱなしになっている。


特に急ぐ必要も無いので、馬車の速度は比較的緩やかだ。
賑わった街の中心部に近い位置に神殿があった為、通行人が多いし他の馬車も走っているからだ。
窓から中が覗けないように閉じられているカーテンの、ほんの少しだけ開いた隙間から外の景色でも眺めたい所だが、それは恐らく母が許してくれないだろう。

それでなくても少々ご機嫌が悪いのだ、まぁまぁ『麗しい』な母は。

時間的にはお昼をとうに過ぎている。
ぼくが大人達の打ち合わせを待たされていた間に、神殿で軽食というか、おやつを食べただけ。
何をどう控えめに言っても、ぼくは現状、空腹以外の何物でもない。
せっかく街に出て来たのだから、何処かで美味しい食事をしたいと……出掛ける事が決まった時にぼくは、母にそう強請っていたんだ。
だから馬車は一応、母が予約してくれたであろう、貴族が足を運んでも問題無く対応の出来るレストランに向かっている。


雰囲気が若干重苦しいが、食事をしている間ぐらい、母も流石に眉間を緩めてくれるだろう。

ぼくはぼくで、美味しいお昼を食べて……。
失恋の傷みというか、無茶な初恋をした自分の心を慰めたいよ……。


「まさか、お前が『奇跡』ランクとは、な……。」

独り言のように呟いた母の視線は、間違いなくぼくに向けられていた。
母として嬉しい気持ちと、それ以上に困っているのがよく分かる表情だった。

「タイプが『格好良い』だろうという事は予想出来ていたが……。ランクまでは、流石に想定外だった。」
「母さん、ぼくが『奇跡』ランクなのは、あまり良くない事なのか?」

母の機嫌を考えれば、母が言い出す前に尋ねるべきではないんだろうが。
ぼく自身も不思議に思っている事だったから、つい聞いてしまった。


本で読んだり、顔面偏差値がそこそこの先生から教わった事だったり、兄に聞いた事だったりと、ぼくの知識には偏りがあるかも知れないが。
ぼくが知る限りじゃ、この国でも近隣諸国でも顔面偏差値は、貴族の爵位と同等に重要なはずだ。
それならば、カーネフォード子爵家にとって、高ランクの兄や奇跡ランクのぼくの存在は、悪い事にはならないだろうと思うんだが。


ぼくの疑問に母は、ほぅ……っと溜息を吐く。
それから気を取り直すように、口元を微笑みの形に緩やかに曲げて、母は優しくぼくの頭を撫でた。
指も長く、大きな手で髪を梳かれるのが心地良くて、ぼくは両眼を細めた。

本来はまぁまぁ『麗しい』な母なのに、凄く頼もしく感じるんだ。
これは、サトル的な感覚では……これが『凛々しい』ようだ。


「お前が『格好良い』の奇跡ランクなのは、もちろん、悪い事じゃない。ただ……その、タイプもランクも、余りにも稀過ぎるんだ。」
「……少し、面倒になりそうな感じ?」

少しだけ不安になる。
顔面が奇跡ランクだという理由で、例えば何処かに行かなきゃならなかったり、家族と離れ離れになったり、何か厄介な役割に担ぎ上げられたり……名誉な事なのに面倒事が起きそうな気配に、ぼくは警戒した。

「どう…だろうな……。だが、少なくとも。奇跡ランクのお前には、きちんと教わらなきゃならない事が、あるらしい。……詳しい話は、後にしよう。そろそろ着きそうだ。」



どうやらお目当ての場所に着いたらしい。
馬車が一段とゆったりとした速度になった。

窓の外を確認しようとして、ぼくは又、母に止められる。

「アドル。ヴェールを被る前に、今はマスクも着けておくんだ。」

言われた通り、ぼくはヴェールの下になるよう、マスクを装着する。
ここでは食事をするからな、ヴェールを外しても顔を見られないよう、鼻から上を隠すマスクの着用は必須だ。


「ぼく、外で食事するのは初めてだ。楽しみだなぁ。」
「そうだな。俺も、アドルと一緒に外食するのを……楽しみにしていたんだがなぁ。」
「まぁ、まぁ……そんなにがっかりしないで。」

ぼくは楽しそうに言ったが、母は明らかに嘆息した。
まだ馬車の中にいるから、その態度を他の人に見られる事は無いが。

よっぽど『凛々しい』タイプは、あんまり……なんだろうね。


「ほら、母さん。……ほら。ウェラン司祭が待っているよ?」
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