美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

左側

文字の大きさ
上 下
17 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは明日以降から頑張るつもり

しおりを挟む
「そ、そういうお前は、どうなんだよ?」
「……え? ぼく?」

頬をぺちぺちと軽くたたかれて、ぼくは意識を現実に引き戻す。
間近にある『麗しい』が、ぼくを正面から見ていた。

彼の中では、ぼくは世野悟(ヨノサトル)なのかな。


「あぁ、ぼくは両方、かな。」
「え、そういうのアリかよ。」

これ、『奇跡』の集合を見た時に聞いたフレーズだな。
そんな風に思い出しちゃったもんだから。
あの時の、最高に『麗しい』な里村の表情が、今、目の前にある少し驚いた顔に重なって見える。

軽く曲げた指の背で『麗しい』の頬から顎へと、ゆっくり輪郭をなぞってやると、彼はくすぐったそうに目を更に細めた。


「有りかどうかは知らないが……ぼくの目には、里村の顔はとっても、魅力的だよ?」

……里村にとって、ぼくの顔が魅力的に見えなくても、ね。


「おっ……おい、世野っ。」
「この上なく、『麗しい』に見えるよ。……里村の顔は、ぼくだって見慣れているはずなのに、おかしいね。」
「か……っ、揶揄うなよ……。」

揶揄ったりなんかしない。
この世界できみが『麗しい』なのは事実だから。
自分の姿が『麗しい』という事を知らないはずは無いと思うんだが。

顔に触れているぼくの手を、彼は今度こそ、そっと掴んで引き離した。
本当にぼくが冗談で言っていると思ったのか、唇も尖らせて。
世野悟が、浮付いた軟派な台詞を気軽に言ったのが、少々お気に召さないのかも知れない。


里村の知っている世野悟は、こんな事を言う男ではないんだな。
……少なくとも、里村には。


だが、気を悪くしていると言うには、彼の表情は。

「でも、里村……? なんだか少し、嬉しそうに見えるよ?」
「そっ……それは…。褒め、られれば……そりゃあ。……お前だってそ~だろ。」

お互いの顔に触れあうぐらい、距離は近いのだが。

ぼくが彼を里村と呼ぶように。
彼は今ぼくではなく、世野悟が話す言葉を聞いている。


褒められて嬉しいのは、ぼくが世野悟だからかな。
もしかして里村は……。


それならば。

同じ顔のぼくに、チャンスは……ある?



「あ、あのさ、里村……っ。」
「あのさ。それ、なんだけどよ……!」

強引に自分の気持ちを浮上させ、つっかえ気味に言い掛けたぼくを彼の声が遮った。
たぶん、名前を教えて貰って、二人で話し出してからだと一番大きな声だも知れない。

ぐっと詰め寄るように近付いていたぼくの身体を、意外と強い力で肩を押して遠ざけながら。


「俺のこと、里村って呼ぶの、やめない? 俺も、世野って言うのやめるから。」
「え……?」
「今、他にヒトいないから大丈夫だけどさ。知らない人が見たら、サトムラとか、ヨノとか……誰だそりゃ、って感じだろ。」
「あぁ……まぁ、そうだろうね。」

確かに彼の言う通りなのは分かっていた。
日本と同様にこちらの世界でも、生まれ変わりだの前世の記憶だのは、常識で言えば「胡散臭い詐欺紛い」に違い無いから。

だが二人だけの時ならいいじゃないか。

ぼくのその気持ちは、声に出して言う前に態度で表れていたようだ。
彼はぼくの顔を覗き込んで、視線で否定する。


「俺さ、里村の記憶とか色々あるけど。あくまでも俺自身は、この世界で生まれた、リウイなんだって。……なんか、期待させちゃったみたいで、悪いんだけど。」

何だかとても申し訳ない事を懺悔するような表情で、それでもきっぱりとした口調だった。
見ようによっては、言いたくて言い出せなかった事を、ようやく言えてすっきりしたようにも見える。

あ~……。そう、だったんだ。
ぼくと同じ、なんだね。
前世の感覚と記憶があるだけで、自分の中身は……ベースは、この世界に生まれた方のまま。
時折、気持ちの盛り上がり等の影響で、前世の方が強まる場合もあるものの。


「だから……里村って、ずっと言われるのって。なんか、変な感じする。」

ぼくが今の自分を世野悟だと思わなかったように。
彼も、今の自分を里村だと思ってはいなかったんだ。


「ちゃんと、お前の友達の里村じゃなくて、ゴメンな?」

何も知らずにぼくが「里村」って呼び続けている間、さぞや微妙な気分だったろうね。
自分から前世の事を言い出した手前、訂正するタイミングが掴めなかったのかな。



「いいよ、謝らなくて。」

きみが里村じゃないと知って、ぼくは、勝手にがっかりしただけだから。
そしてぼくも、たぶん、きみをがっかりさせる。

「ぼくも同じだから。ぼくも、世野悟の記憶があるだけで。」

出来るだけさり気なく、ぼくはソファから立ち上がる。
見下ろしたリウイの顔は相変わらず『麗しい』だが、今は表情がよく読めなかった。

「ぼくも、中身はこの世界に生まれたアドルだよ。」
「……そ、そっか。」
「ぼくも、がっかりさせたなら御免ね。」
「そんなこと、無いって。」

何処か気が抜けた様子のリウイ。
ぼくはそれこそ、身体から力が抜けそうだが。


リウイの前に、わざとらしい仕草で片手を差し出すぼく。

「ではリウイ……。改めてよろしく。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...