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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは成就不可能な初恋をしていた
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「俺は……そのぉ……。結構、思い出すのは早かった、かな……。」
「そうなんだ。里村……それ、何歳ぐらいの話?」
「え? ……えっと、すごい…子供の頃、だったから……。」
彼の身体をソファの隅、手すりの所まで追い詰めた姿勢のまま、ぼくは会話を続ける。
話をしている彼の様子が少しだけぎこちないのは、ぼくがまだ彼の顔に触れているからだ。
恐らくぼくの意図が分からず、戸惑っているんだろう。
つい今さっきまでぼくの服を掴んでいた手が、やり場無くソファに落ちている。
彼の目が、ちらりとぼくの手を見るように動いた。
里村……嫌なら引き離していいんだよ?
「ぅん~、な……七歳くらい、だったかなぁ?」
「へぇ、そんな昔から、なんだ。」
「ん……あぁ、まぁな……。」
もう少し身体を傾げるだけど、触れ合いそうな近さ。
前世の記憶がある者同士とは言え、距離感がおかしいという事には、彼も気付いているはずなのに。
訝し気な表情を浮かべるものの、彼は逃げようとしていない。
それどころか、ぼくが見る限り、薄っすらと頬に赤みが差しているような。
恥ずかしがっている、のか……?
まさか里村が、ぼくに僅かでも、どきどきしてくれているのか?
そんな、話が都合良く進むわけがないと……ぼくは考え直した。
「年齢は? 何歳? あ、ぼくは十五歳なんだが……里村も同じ、かな?」
「あ、俺も……同じだ。」
「じゃあ、転生のタイミングは一緒なんだね。嬉しいな。」
……同じ年なんだ。ひょっとしたら二、三歳ぐらい年上かと思ったよ。
里村は少し大人っぽく見えるんだね。
ぼくは無意識の内に少し笑ったのかも知れない。
それを見た彼も、なんだか嬉しそうな笑みを零した……ように見えた。
だが、本当はぼくは笑っている場合じゃないんだ。
彼に前世の記憶が蘇ったのが、そんなに年少の頃だという事は。
美醜感覚について、彼は日本人時代と同じである……という可能性があるからだ。
もしそうであるなら、何の特徴も無い日本人顔のぼくは、『格好良い』と思えないだろう。
そう気付いてしまったら、ぼくは確かめずにいられなかった。
「七歳ぐらいから、という事はさ。……里村、感覚はどうなの?」
「か、感覚……って?」
「この世界の、『麗しい』とか『凛々しい』とか。里村には、どう見える?」
例として挙げる中に『格好良い』を入れなかったのは、ぼくの不安からだ。
もし『格好良い』という言葉を聞いた彼が、「少なくともお前じゃないな」と食い気味に言ったとしたら、ぼくは自分がどれだけ落ち込むか分からない。
「どう、って……。」
言い淀む姿に、聞かなくても答えが分かってしまった。
ただ単に、すんなりと言葉が返って来ないからという理由だけではない。
彼はぼくの顔を覗き込んだと思うと、そっと視線を外したからだ。
申し訳なさそうな様子を見ると、恐らく、ぼくの意図が分かったんだろう。
「気を遣わないで、言って欲しいな。里村の美醜感覚は、前世のままなのか?」
「……あ、あぁ。そうだな……どっちかって言ったら、そっちだな。」
ぼくに気を遣って微妙な言い回しになったが、やはり前世の感覚らしい。
「あっ、でも……お前の顔は、見慣れてるから。……全然っ、大丈夫。」
「そう。それは良かった。」
「そもそも、ホラ……里村と、世野は。……友達、じゃん?」
「そうだね。」
慰めてくれる言葉に、ぼくはいつもの貼り付けた微笑を浮かべた。
彼がぼくに指を伸ばす光景も、ぼんやりした感じで目に映しているだけ。
頭の一部が痛いんだ。……アドルの部分かな。
聞かなければ良かった。
いや、どうせすぐに分かる事なんだから、早い内に確かめられて良かったんだ。
そう考えようとしたが、出来なかった。
彼の感覚は、この世界のものではなかった……。
つまり里村にとって、ぼくの顔面は何の魅力も無いんだ。
そしてぼくが世野悟(ヨノサトル)と同じ容姿である限り、里村は前世に引き続き、ぼくを友人として見るだろう。
自分で出した結論で、ぼくの気持ちは勝手に沈んでいた。
もし、彼の中身が、精神が里村で。
この世界にいる里村にとって、ぼくが魅力的に見えるのなら。
それが確認出来たその時、ぼくは……里村が望むなら。
アドルを辞めて世野悟になってもいいと思っていた。
友人として再スタートしても、いずれ、ぼくを好きになって貰えると思っていた。
だが、ぼくは里村にとっての『格好良い』じゃないんだ。
里村が、ぼくに、惹かれる事は無いんだ。
ぼくは……。
たった一度、見ただけの里村が……。初恋だったんだ……。
実に、引き篭もりらしくて……笑っちゃうね。
「そうなんだ。里村……それ、何歳ぐらいの話?」
「え? ……えっと、すごい…子供の頃、だったから……。」
彼の身体をソファの隅、手すりの所まで追い詰めた姿勢のまま、ぼくは会話を続ける。
話をしている彼の様子が少しだけぎこちないのは、ぼくがまだ彼の顔に触れているからだ。
恐らくぼくの意図が分からず、戸惑っているんだろう。
つい今さっきまでぼくの服を掴んでいた手が、やり場無くソファに落ちている。
彼の目が、ちらりとぼくの手を見るように動いた。
里村……嫌なら引き離していいんだよ?
「ぅん~、な……七歳くらい、だったかなぁ?」
「へぇ、そんな昔から、なんだ。」
「ん……あぁ、まぁな……。」
もう少し身体を傾げるだけど、触れ合いそうな近さ。
前世の記憶がある者同士とは言え、距離感がおかしいという事には、彼も気付いているはずなのに。
訝し気な表情を浮かべるものの、彼は逃げようとしていない。
それどころか、ぼくが見る限り、薄っすらと頬に赤みが差しているような。
恥ずかしがっている、のか……?
まさか里村が、ぼくに僅かでも、どきどきしてくれているのか?
そんな、話が都合良く進むわけがないと……ぼくは考え直した。
「年齢は? 何歳? あ、ぼくは十五歳なんだが……里村も同じ、かな?」
「あ、俺も……同じだ。」
「じゃあ、転生のタイミングは一緒なんだね。嬉しいな。」
……同じ年なんだ。ひょっとしたら二、三歳ぐらい年上かと思ったよ。
里村は少し大人っぽく見えるんだね。
ぼくは無意識の内に少し笑ったのかも知れない。
それを見た彼も、なんだか嬉しそうな笑みを零した……ように見えた。
だが、本当はぼくは笑っている場合じゃないんだ。
彼に前世の記憶が蘇ったのが、そんなに年少の頃だという事は。
美醜感覚について、彼は日本人時代と同じである……という可能性があるからだ。
もしそうであるなら、何の特徴も無い日本人顔のぼくは、『格好良い』と思えないだろう。
そう気付いてしまったら、ぼくは確かめずにいられなかった。
「七歳ぐらいから、という事はさ。……里村、感覚はどうなの?」
「か、感覚……って?」
「この世界の、『麗しい』とか『凛々しい』とか。里村には、どう見える?」
例として挙げる中に『格好良い』を入れなかったのは、ぼくの不安からだ。
もし『格好良い』という言葉を聞いた彼が、「少なくともお前じゃないな」と食い気味に言ったとしたら、ぼくは自分がどれだけ落ち込むか分からない。
「どう、って……。」
言い淀む姿に、聞かなくても答えが分かってしまった。
ただ単に、すんなりと言葉が返って来ないからという理由だけではない。
彼はぼくの顔を覗き込んだと思うと、そっと視線を外したからだ。
申し訳なさそうな様子を見ると、恐らく、ぼくの意図が分かったんだろう。
「気を遣わないで、言って欲しいな。里村の美醜感覚は、前世のままなのか?」
「……あ、あぁ。そうだな……どっちかって言ったら、そっちだな。」
ぼくに気を遣って微妙な言い回しになったが、やはり前世の感覚らしい。
「あっ、でも……お前の顔は、見慣れてるから。……全然っ、大丈夫。」
「そう。それは良かった。」
「そもそも、ホラ……里村と、世野は。……友達、じゃん?」
「そうだね。」
慰めてくれる言葉に、ぼくはいつもの貼り付けた微笑を浮かべた。
彼がぼくに指を伸ばす光景も、ぼんやりした感じで目に映しているだけ。
頭の一部が痛いんだ。……アドルの部分かな。
聞かなければ良かった。
いや、どうせすぐに分かる事なんだから、早い内に確かめられて良かったんだ。
そう考えようとしたが、出来なかった。
彼の感覚は、この世界のものではなかった……。
つまり里村にとって、ぼくの顔面は何の魅力も無いんだ。
そしてぼくが世野悟(ヨノサトル)と同じ容姿である限り、里村は前世に引き続き、ぼくを友人として見るだろう。
自分で出した結論で、ぼくの気持ちは勝手に沈んでいた。
もし、彼の中身が、精神が里村で。
この世界にいる里村にとって、ぼくが魅力的に見えるのなら。
それが確認出来たその時、ぼくは……里村が望むなら。
アドルを辞めて世野悟になってもいいと思っていた。
友人として再スタートしても、いずれ、ぼくを好きになって貰えると思っていた。
だが、ぼくは里村にとっての『格好良い』じゃないんだ。
里村が、ぼくに、惹かれる事は無いんだ。
ぼくは……。
たった一度、見ただけの里村が……。初恋だったんだ……。
実に、引き篭もりらしくて……笑っちゃうね。
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