14 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは大いに興奮する
しおりを挟む
ぼくの『格好良い』は『奇跡』のランク。
その情報を得ているのは、顔面偏差値を計測した際に同席していた母と、この神殿の神殿長を含む、数人の高位司祭達だけだ。
あぁ、それともう一人。
大礼拝堂でぼくの顔を見た、リウイもだ。
奇跡ランクな事実は、まだ神殿内でも秘密にされているらしい。
ぼくの奇跡を事実として承認するのに、今ちょうど母と、上位の神殿関係者が話をしている所だろう。
その為、ぼくが部屋で待っている間、ぼくに付いててくれるのはリウイ一人だ。
他には誰もいない。
例えヴェールで隠していても、何かの拍子でぼくの顔が見えてしまうかも知れないから。
「別に、そんな……面白い顔じゃ、ないぞ……?」
ぼくを案内してくれた大礼拝堂では、あんなにきびきびとした声を出していたリウイが、ぼくをそっと伺うような声で念を押して来る。
「面白さを期待しているわけじゃないから。それは別にいいよ。」
「その……か、顔が見えないと……。そんな……相手が、同じ部屋だと……不安、か?」
「いや、それも別に構わない。……ただ、ぼくがリウイを知りたいだけ。」
変な建前は要らない。
リウイに部屋を出て行って欲しくない。
ぼくは正直に口説いた。
じっと見つめているぼくの前で、リウイは自分の後頭部へと手を回した。
マスクの留め具を外す音がやけに耳に響く。
落とさないように両手を沿え、リウイはゆっくりとマスクを離した。
「……ふぅ。」
多少は息苦しさもあったんだろう。
マスクを外したリウイが息を吐く姿を、ぼくは身動き取れずに見ていた。
……ぼくは。夢を見ているんじゃ、ないよね……?
彼の……、リウイの、姿は……!
「全然、騒がないんだな。ちょっと安心した。」
リウイの呟きはぼくの耳を通り抜けて行く。
視線を落とす切れ長の、殆ど瞳孔が窺えない、細い曲線のような目。
涼し気な瞳の上には、始まりから終わりまで殆ど変わらない細さを誇る眉が。
顔立ちの平たい印象を少しも損なわない、控えめで清楚な鼻。
そっと吐息を零した、横一直線の薄い唇。
エイベル兄さんと同じ『麗しい』タイプだが……。
再現度が神掛かっているっ!
大礼拝堂で見た『麗しい』の神、リュージィ。
神をそのまま少し若くしたような姿が、今、ぼくの眼前にいた。
リウイ! リウイ、きみは!
……さ……。
――― 里村だろ、これ。少年時代の里村だ~。
「さとっ! ぶっ……げふん、げふんっ。」
里村、と言い掛けた自分の心を、ぼくは殴り付けた。
落ち着け、落ち着くんだ、ぼく……いや、ボク?
どちらでも良いから、とにかくここは落ち着こう、深呼吸だ。
リウイが幾ら『麗しい』の奇跡ランクでも、少し若いが里村にそっくりでも。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクだぞ。
『格好良い』はここで、みっともなく狼狽えてはいけない。
ぼくは微笑を浮かべたままリウイを見詰める。
完全に表情が固まってしまっただけだ。
リウイも、黙ってぼくを見ていた。
彼の唇が誘うように、僅かに震えているように思うのは、ぼくが動揺している所為か。
あぁ……駄目だ。
彼を見て、とても平静でなんかいられない。
ぼくの中心が元気になるのも仕方ないよね、男だもん。
今日の服装……母がぼくの『格好良い』を少しでも隠す為に選んだ物だったんだが。
ゆったりしたローブを上着代わりにしていて、本当に良かったと心から思うよ。
初対面でフル勃起だなんて、印象最悪だもんね。
あんまりじっと見ない方が良いだろうか。
いや、でも、これだけの『麗しい』ならこういう視線の千や二千、浴び慣れ……待てよ。
それが嫌で顔を隠していた、という事だろうか。
だとしたら、リウイの奇跡を知っている人間は数少ないに違いない。
その、数少ない中に、ぼくが、入っている……。
希望を言えるなら、出来れば違う所にも、入りたい……。
こらこら、いきなり下衆な想像をしちゃ駄目だよ、ぼく……又は、ボク。
自分で戒めながらも脳内では、目の前にある『麗しい』が艶めかしい表情で大胆なポーズを取っている姿が、いとも容易く再生されてしまう。
これには自分でもドン引きだが。
この脳内再生力は、世野悟(ヨノサトル)の……妄想半分、自分の体験も半分で出来ている。
社会人となり二十代後半まで生きたサトルは、決して格好良いと言われるタイプじゃなかったが、『都合の良い男』として男女問わず、それなりに性交渉の相手はいたから。
残念ながらアドルは童貞である以前に、顔面偏差値の低い人を怖がる引き篭もりだったから、細かな想像力は乏しいんだ。
しばらくの沈黙の後。
「お前、今……サト、ムラって……。」
「あ、何でもない。……えっ?」
リウイがぼくを訝しんでいるように感じたから、誤魔化す返事をしたんだが。
……ぼくは。サト、までしか声に出していなかったはずだ。
「アドル……。」
リウイが、探るような視線をぼくに向けている。
彼の唇からどんな言葉が続くのか、ぼくはそれを待った。
「まさか……。よ……ヨノ、か?」
その情報を得ているのは、顔面偏差値を計測した際に同席していた母と、この神殿の神殿長を含む、数人の高位司祭達だけだ。
あぁ、それともう一人。
大礼拝堂でぼくの顔を見た、リウイもだ。
奇跡ランクな事実は、まだ神殿内でも秘密にされているらしい。
ぼくの奇跡を事実として承認するのに、今ちょうど母と、上位の神殿関係者が話をしている所だろう。
その為、ぼくが部屋で待っている間、ぼくに付いててくれるのはリウイ一人だ。
他には誰もいない。
例えヴェールで隠していても、何かの拍子でぼくの顔が見えてしまうかも知れないから。
「別に、そんな……面白い顔じゃ、ないぞ……?」
ぼくを案内してくれた大礼拝堂では、あんなにきびきびとした声を出していたリウイが、ぼくをそっと伺うような声で念を押して来る。
「面白さを期待しているわけじゃないから。それは別にいいよ。」
「その……か、顔が見えないと……。そんな……相手が、同じ部屋だと……不安、か?」
「いや、それも別に構わない。……ただ、ぼくがリウイを知りたいだけ。」
変な建前は要らない。
リウイに部屋を出て行って欲しくない。
ぼくは正直に口説いた。
じっと見つめているぼくの前で、リウイは自分の後頭部へと手を回した。
マスクの留め具を外す音がやけに耳に響く。
落とさないように両手を沿え、リウイはゆっくりとマスクを離した。
「……ふぅ。」
多少は息苦しさもあったんだろう。
マスクを外したリウイが息を吐く姿を、ぼくは身動き取れずに見ていた。
……ぼくは。夢を見ているんじゃ、ないよね……?
彼の……、リウイの、姿は……!
「全然、騒がないんだな。ちょっと安心した。」
リウイの呟きはぼくの耳を通り抜けて行く。
視線を落とす切れ長の、殆ど瞳孔が窺えない、細い曲線のような目。
涼し気な瞳の上には、始まりから終わりまで殆ど変わらない細さを誇る眉が。
顔立ちの平たい印象を少しも損なわない、控えめで清楚な鼻。
そっと吐息を零した、横一直線の薄い唇。
エイベル兄さんと同じ『麗しい』タイプだが……。
再現度が神掛かっているっ!
大礼拝堂で見た『麗しい』の神、リュージィ。
神をそのまま少し若くしたような姿が、今、ぼくの眼前にいた。
リウイ! リウイ、きみは!
……さ……。
――― 里村だろ、これ。少年時代の里村だ~。
「さとっ! ぶっ……げふん、げふんっ。」
里村、と言い掛けた自分の心を、ぼくは殴り付けた。
落ち着け、落ち着くんだ、ぼく……いや、ボク?
どちらでも良いから、とにかくここは落ち着こう、深呼吸だ。
リウイが幾ら『麗しい』の奇跡ランクでも、少し若いが里村にそっくりでも。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクだぞ。
『格好良い』はここで、みっともなく狼狽えてはいけない。
ぼくは微笑を浮かべたままリウイを見詰める。
完全に表情が固まってしまっただけだ。
リウイも、黙ってぼくを見ていた。
彼の唇が誘うように、僅かに震えているように思うのは、ぼくが動揺している所為か。
あぁ……駄目だ。
彼を見て、とても平静でなんかいられない。
ぼくの中心が元気になるのも仕方ないよね、男だもん。
今日の服装……母がぼくの『格好良い』を少しでも隠す為に選んだ物だったんだが。
ゆったりしたローブを上着代わりにしていて、本当に良かったと心から思うよ。
初対面でフル勃起だなんて、印象最悪だもんね。
あんまりじっと見ない方が良いだろうか。
いや、でも、これだけの『麗しい』ならこういう視線の千や二千、浴び慣れ……待てよ。
それが嫌で顔を隠していた、という事だろうか。
だとしたら、リウイの奇跡を知っている人間は数少ないに違いない。
その、数少ない中に、ぼくが、入っている……。
希望を言えるなら、出来れば違う所にも、入りたい……。
こらこら、いきなり下衆な想像をしちゃ駄目だよ、ぼく……又は、ボク。
自分で戒めながらも脳内では、目の前にある『麗しい』が艶めかしい表情で大胆なポーズを取っている姿が、いとも容易く再生されてしまう。
これには自分でもドン引きだが。
この脳内再生力は、世野悟(ヨノサトル)の……妄想半分、自分の体験も半分で出来ている。
社会人となり二十代後半まで生きたサトルは、決して格好良いと言われるタイプじゃなかったが、『都合の良い男』として男女問わず、それなりに性交渉の相手はいたから。
残念ながらアドルは童貞である以前に、顔面偏差値の低い人を怖がる引き篭もりだったから、細かな想像力は乏しいんだ。
しばらくの沈黙の後。
「お前、今……サト、ムラって……。」
「あ、何でもない。……えっ?」
リウイがぼくを訝しんでいるように感じたから、誤魔化す返事をしたんだが。
……ぼくは。サト、までしか声に出していなかったはずだ。
「アドル……。」
リウイが、探るような視線をぼくに向けている。
彼の唇からどんな言葉が続くのか、ぼくはそれを待った。
「まさか……。よ……ヨノ、か?」
1
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる