美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは聖職者に迫る

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三角マスクで顔全体を覆った神官が、果実水を持って戻って来た。
気を利かせてくれて、クラッカーのような軽食も用意してくれている。

せっかくなので一枚いただきつつ、ぼくは神官を横目で観察した。

彼は、ぼくが暇そうにしているのを見ているだけで、特に会話をしようという素振りは無い。
飲み物を注いでくれる動作をする以外は、基本的には、少し離れた位置に腰掛けている。

三角マスクがずれそうな気配も無い以上は、ぼくが自分から動くしかなさそうだ。

「……ところで。ねぇ? ぼくはアドル。もう知っているよね?」

会話の中から自然な流れで、という方法は取れそうにない。
少し強引にでも、まず彼の名前を聞き出す事にした。
名前を呼び合えれば、多少は会話もしやすくなるというものだ。


ちなみに、初対面の神官に対して、ぼくが敬語を使っていないのには理由がある。

神官は年齢が若そう……ぼくとの年齢差があまり無さそうだ。
子爵家の息子である未成年のぼくと、まだ若い神官位の彼。
つまり、ぼくから見て明らかに、著しく格上とは言えない相手という事になる。
そういった、割と『距離の近い』相手に対し、『格好良い』のランクが高い者があまりに丁寧に接し過ぎるのは、らしくない対応と見られる事がある。

……と、何かの本に書いてあった。
もしかすると、母の表情が芳しくなかった理由は、この辺りにあるのかも知れない。

……考えても仕方のない事だから、今は置いておくが。


ぼくからの問い掛けに、少しだけぎこちない動きだが、神官が頷くのが確認出来た。
彼の頭の動きに合わせて三角マスクが揺れる。

「良かったら名前、教えてくれないかな?」

ぼくは親しみを感じて貰えるよう、微笑みを浮かべて彼を促した。

安心なり、親近感なりを得ようとする時、ぼくは大体この表情になる。
『格好良い』の奇跡だと言うのに、笑い方のバリエーションが乏しいのは、これまでずっと引き篭もりだったぼくの弊害という事で今は許して欲しい。

だが少なくとも、これで多少の好感は得られるだろう。

「……。」

ところが、神官からの反応が、乏しい。……と言うか、無い。

あれ、おかしいな? 随分と手応えが無いぞ。
ぼくが奇跡ランクだという事は、きちんと計測結果にも出ているし、司祭達の反応からも間違いないだろう。
もしかして彼の目には、ぼくが『格好良い』に見えていないのか?
大礼拝堂で彼が動揺しているように感じたのは、ぼくがいきなり神像に触れたからという理由が全てで、ヴェールを捲ったぼくの顔は全く影響していなかったのかな。


どうしようかと、ぼくが考えを巡らせようとした時。
明らかに動揺している声で、神官は返事をしてくれた。

「……っ。り……リウイ、だ……です。」
「リウイ、敬語じゃなくていいよ。ぼくはまだ成人前の、ただの子供だからね。ぼくも、そうするから。」

敬語が取れ掛かった事が妙に嬉しい。
さり気なく、お互いに気軽な感じの口調で話せるように仕向ける。
リウイは戸惑ったようだが、ぼくが重ねてお願いすると、同意してくれた。

意外と押しに弱い系、なのかも知れないな。


「ねぇ、リウイはそのマスク、いつも着けているのか?」

リウイが息を呑んだ。
そして無言のまま、両手で三角マスクを挟んで頷く。

絶対に外したくないという意思表示のような仕草を、ぼくは無視した。

「そう。……外してくれる? 声もちゃんと聞きたいし、ぼくと話しているリウイがどんな人なのか、知りたいんだ。」

実はこのセリフを言う前に、尤もらしい理由を考えたりもしたんだ。
茶や軽食を一緒にいただこうと誘うとか、同じ部屋に一緒にいる相手が大仰なマスクで顔を隠している事への不安を訴えるとか。

しかし、前者の場合は普通に断られるだけだろう。
後者の場合は、最悪、リウイが退室してしまう可能性が高い。
そうなってから慌てた所で、どれだけ取り繕っても、言い訳に過ぎなくなる。
だから正面からお願いする事にした。

リウイはぼくを見て、それから周りをきょろきょろし始めた。
今、この部屋にいるのは、ぼくとリウイの二人だけ。

「もし、顔面偏差値を気にしているなら、ぼくは大丈夫だよ。あまり気にならなくなったんだ。」

ぼくは、追い打ちを掛ける。
リウイの視線が再びぼくに戻った。

「ぼくが『格好良い』の奇跡ランクだから、かな。……中ランクも低ランクも、それほど変わらないだろう?」

ぼくが顔面偏差値の低い者を差別しない『人格者』だと思われても困る。
身の丈を大きく上回るような好印象を与えると、後からの反動が怖いからね。

傲慢な考えだが、これが一番、ぼくの心情に合っているかも知れない。

「あ。もし、高ランクの顔面を隠しているんだったら、ごめんね?」


少し喋り過ぎたようだ。

咽喉の渇きを果実水で潤しながら、ぼくはリウイの反応をじっと待った。
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