美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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序章

ぼくはボクを見る

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大礼拝堂と呼ばれる大きな空間に、目当ての神像は鎮座していた。
体育館が三つか四つぐらいはありそうな広さだが、奥の方までは行けない。
神像に近寄らせないように、柵によって制限されているからだ。

堂内にはぼく達以外の参拝者はいなかった。

大礼拝堂は、大きなイベントが開催された時や、何かの緊急時には無料で開かれるが、普段は有料だと聞いた。
がめついように思うかも知れないが、そうしておかないと、六大神が勢揃いした神像を見る為にひっきりなしに大勢の人が詰め掛けるらしい。
神殿側にも事情があるようだし、ぼくがこれに関して何かを思う気は無い。

他に人がいないなら、それに越した事は無いね。


司祭の代わりに立ち会ってくれるのは、マスクで顔をすっぽりと隠した神官。
額の辺りから顎までを覆って、顔面から離れるにつれて尖って行く、型崩れしない三角形のようなマスクだ。
そこまで隠すという事は、逆にその素顔がサトル的には気になる所だが、今は神像を見るという目的がある。

「まずはここで、神への礼を。」

大礼拝堂に少し入った所で、神官に説明を受ける。
意外と若くて、きびきびした声をしていた。

ぼくは神殿での礼儀について大まかな知識はあるものの、所詮は本や聞きかじりだから、こうして教えてくれるのは有難い。

母に倣って礼をしてから、神官に連れられて歩を進める。
ぼくが案内されて入って来たのは、参拝者が普通に出入りする扉じゃなかった。
それよりももっと神像がある位置に近い、いわば関係者用の出入口だった。
つまり、最初から柵の向こう側にいるという事だ。

「お手を触れぬ様、お願いします。」

神官の言葉に頷いて、ぼくは母と二人。
ゆっくりと、『格好良い』の神像に近付いた。


参拝者が見上げる姿勢になるよう、神像の設置場所は少し高い位置にある。
残念ながらライトアップなどがされているわけじゃなく、神像が劣化するのを防ぐ為らしいが、上からの照明も必要最小限に絞られていた。

「これは……! そ、そうか……やはり。」

神像を間近で見た母が息を呑み、そして納得したように頷く。



『格好良い』の神、サトゥルーは、凄くぼくに似ていた。



ぼく自身も、思わぬ方向から、少なからぬ衝撃を受けていた。

前世である世野悟(ヨノサトル)は確かに転生する際、次に生まれる世界では『格好良い』にしてやると、何者かに言われていた。
てっきり『格好良い』の顔面偏差値を約束されたものだと思っていたのだが……神扱いに、なっていたなんて。
ヨノサトル……サトル……サトゥルー……安直すぎて酷い。

それが一つ目の衝撃で、もう一つの衝撃は。

サトゥルーの姿だ。

恐らくは、二十代半ばから後半ぐらいに見える。
ぼくが年齢を重ねればきっとそうなるだろう姿だ。
大きくも小さくもない目、高くはないが低くもない鼻と鼻筋、厚くも薄くもない唇、特にどうという事の無い眉毛に、顔の全体的な印象も……これと言った特徴が無く。
決して派手とは言えず、だがしかし「地味顔だよね」と言われる程でもない。
取り立てて目立つ部位の無い日本人顔、と表現する以外に無さそうな。

これの何が衝撃かと言うと。
ぼく自身と似ている容姿なのに、少し外見年齢が違う所為か。
とてつもなく魅力的に感じる、という所だ。


これ……滅茶苦茶に『格好良い』だ!
どうしてこんなに……あ、神だから当然の事か……それにしても、凄い!


とにかく、ぼくの頭はサトゥルーの『格好良い』で一杯になり、ぼくの目はサトゥルーの顔に釘付けになってしまった。


あぁ世の中に、こんなにも見事な『格好良い』があるんだ。
部屋に引き篭もったりせず、もっと早い内から外に出ていれば良かったよ。
この姿が、生きて動いていたら、それを見られたら、どれだけ圧倒される事だろう。



ぼくは吸い寄せられるように、神像へと腕を伸ばす。
触ってはいけないと言われた事は忘れていないが、それを考える前に、身体が勝手に動いていた。

神官か、それとも母か。
ぼくに注意しているような声が聞こえていた。
視線を隠していたヴェールが邪魔になって、ぼくは自分で雑に捲り上げる。

サトゥルー像の身体に、ぼくの指が触れる。
ぼくの行動を邪魔をする者はいなかった。


「……ぁ、あ……。」


サトゥルーの目が、ぼくを見下ろしたように見えた。

離れようにも、縫い付けられたようにぼくの指が離れない。
指先から何かが、ぼくの脳内まで流れ込んで来るようで。

ぼくが、このままではいられなくなるかも知れない予感はあるものの……ぼくはそれに、身を任せる事にした。
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