美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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序章

ぼくは受け入れる

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外出したいと言い出したぼくは、相当、家族に衝撃を与えたらしい。

ぼくの一言で、家内は上を下への大騒ぎ。
兄も母も心配するのはもちろん、父はぼくの肩を掴んで「一般世間には、どれだけ恐ろしい者が溢れているか、分かっているのか」と脅して来る始末。
そんな事をした父は当然のように母から叱られたが、ぼくが平気だと伝えた。
相変わらずぼくの目には、父の顔面偏差値は低く見えているんだが、それを怖いとは思わなくなっていたからだ。
寧ろ、ぼくの前世である日本人のサトル的な感覚は、父を、甘いマスクの色男だと認識していた。

ぼくの様子に、両親は揃って驚いていた。
だが、そのお陰でぼくは、数日後に、母が同伴するという条件で出掛けられる事になった。


あぁ、ちなみに。
ぼくは、熱を出した翌日には熱が下がった、と思っていたが、実際には丸二日が経っていたそうだ。
どうやらぼくの意識が無い間に、まともに顔を合わせた事の無い弟がそっと様子を見に来てくれたらしい。
その時ぼくは、嬉しそうな笑みを浮かべて眠っていた……。
……と、聞いた時のぼくがとても恥ずかしい想いをした事は、言うまでもない。




数日後……。

「アドル、気分が悪くなったら、すぐ母さんに言うんだよ?」
「分かったよ、兄さん。」
「決して無理をしてはいけないよ、いいね? それと、知らない人が近付いて来たら…」
「ちゃんと気を付けるから。」
「……は~っ。やっぱり一緒に行った方が…」
「もう……兄さん、心配性だなぁ。母さんも一緒なんだから。」

馬車の前で、エイベル兄さんがこれ以上無いぐらい、心配そうな顔をしている。
『麗しい』の両手で、ぼくの手を包み、まるで子供に言い聞かせるように注意事を繰り返す。

「エイベル、もうそのぐらいにしておけ。日が暮れてしまうぞ。」

先に馬車に乗り込んでいる母さんは苦笑いだ。
だが何処となく緊張感が漂っているように感じるのは、たぶん気の所為じゃないと思う。

「いいか、アドル。絶対に、俺から離れるな。」
「……はい。」

まぁまぁ『麗しい』なはずの母から感じる凄みに、ぼくは大人しく頷くのだった。



馬車の内側に設置された窓と、カーテンを少し開けて外を覗いてみる。
外の景色は、牧歌的な田舎の風景から、段々と建物が増えて来て、もう随分と混み合って来た。

ぼくは物心が付いてから、まともに出掛けた記憶が無い。
家が建っている場所も街から離れているから、部屋の窓から街並みを見た事も無い。
だから何を見るにしても、どきどきしていた。
その感覚は意外にも、サトル的なボクも同じらしい。
考えてみれば確かにここは、日本でサトルが見ていた街とも少し違うからな。

ぼくが出掛けたい場所は、街の比較的中心部にあったようだ。

ここら辺りに来ると、流石に馬車はあまりスピードを出せなくなる。
馬車が速度を落とす事で、通りを歩いている人々が、さっきよりはっきりと見えそうだ。

「……アドル。あまり、顔を見せるな。」

自分でも気が付かない内に、身を乗り出していたようで。
母にカーテンを閉められてしまった。

街の人々の容姿が、平均はどのランクなのかが知りたかったんだが。
……仕方ないか。
そう言えば、ボクは転生する時、『格好良い』にして貰ったんだ。
これまでぼくは、家族が『格好良い』だと言ってくれるのは身内贔屓だと思っていたんだが。
サトルだったボクの友人達がそれぞれの『奇跡』だった以上、ぼくの容姿もそれなりだと思っていた方がいいだろうな。

「あ、うん。ごめんね、……母さん。つい珍しくて。」

ぼくはちゃんと座り直す。
それから、気が付かれないように、そっと母を窺い見た。


実を言うと、前世の事が頭の中に入って来てから……その直前からそんな感じはあったが、もっと鮮明に……ぼくは自分の感覚が、並行して二重に存在するような気分になっていた。
この世界で生きて来たアドルの感覚と、日本で暮らしていたサトルの感覚が……かなり違うのに、どちらも自分のものだと思っている。

例えば、母を見た時。
まぁまぁ『麗しい』の母に何の疑問も抱かないアドルと、母が高身長の男である事に若干のもやもやを感じるサトル。
その両方を同時にぼくが感じているんだから、不思議な気分だ。

だがしかし、これはこのまま続くんだろうな。
何かがあって、どちらかが消えるまでは。
まぁいいか、苦手だったものが苦手じゃなくなるんだから、多少の不具合は許容範囲だ。


アドルの感覚か、サトルの感覚か……ぼくは楽観的に、この状況を受け入れた。
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