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序章
ぼくの母はまぁまぁ『麗しい』担当
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母と共に馬車を降りると、荘厳な建物がその先に佇んでいた。
到着したのは、この街にある大きな神殿。
ここには六大顔面タイプの神様の、それぞれの神像が祀られている。
ぼくはそれを見に来たんだ。
家庭でも神様を祀る風習はあるが、家庭にあるのは各神様のシンボルだけだ。
神様のお姿は、それはそれは素晴らしいものなので、それを絵画で正確に表すのが難しいと言う。
神像にしても、神様を彫り込むに当たってそのお姿が歪められてはならないため、技巧を極めたプロの職人が丹精込めて作成するものだ。
その為、作れる職人の数は少ないし、神像を職人に作らせる前に神殿の許可が必要となっている。
作成の許可が下りたとしても、神像の大きさは厳しく決められている。
神様のお姿を小さくするなんていう事は畏れ多いため、だ。
こういった事情があるから、例え貴族であっても、神像を見る為には神殿に行かなければならない、というのが普通だ。
しかも、普段は少し離れた定位置から眺めるものだ。
この辺りのぼくの知識は、書物と、家族……主に兄……との会話からだ。
ぼくが知っている事の大体は、そこが根拠だから、もしかしたら間違っていたり偏っていたりする可能性は否定出来ない。
母と並んで……使用人は後ろだ……神殿の扉をくぐると、司祭服を来た人に声を掛けられた。
その人の後ろに、もう少し簡易な神官衣を来た人が二人いるから、ある程度は地位のある人だろう。
何となく待ち構えていた雰囲気がある。
「お待ちしていましたよ……カーネフォード子爵夫人。本日も『麗しい』ですな。」
「……どうも。司祭様に出迎えていただけるなんて光栄です。」
あぁそうだ。一応うち、貴族だったな。
家の中どころか部屋の中に引き篭もっていたから、すっかり忘れていた。
それなりに『凛々しい』の司祭が、母を見る視線がかなり下衆なのは若干気になるが。
ぼくの目的である神像……その全身像を近くで見せて貰う為だ。
申し訳ないが、母にはもう少しだけ辛抱して貰おう。
まぁまぁ『麗しい』に生まれたんだから、そういう目で見られるのぐらいは仕方ないよね。
「そちらが、ご子息で……?」
「ええ。次男のアドルです。今日は、この子の為に急なお願いに応じていただいて、感謝しています。」
司祭の注意がこちらに向いたので、ぼくは名乗り、簡単に挨拶とお礼を済ませた。
馬車を降りる前に、ぼくは母に言われてヴェールを被っている。
大した興味を惹かれなかったようで、軽い挨拶を返しただけで、すぐに司祭はぼくから母へと視線を戻した。
「着いたばかりで早速ご案内するのも慌ただしいというもの。ちょうど先日、珍しいお茶を奉納されましてね。良い機会です。是非ひとつ、ご一緒にいかがですか?」
「……そうですね。せっかくですから。」
口説き文句をずらずらと並べられてようやく、仕方なく応じる母。
爵位等という世俗的な地位とは離れた所にいる、しかも司祭位からの誘い。
それも、外見容姿はそれなりランクで『凛々しい』な男性だ。
普通なら優越感も手伝い、もう少しは嬉しそうにしそうなもんだが……。
まるで母が快諾したかのように、喜色満面、誇らしげに案内する司祭。
彼の姿を視界の端に捉え、ぼくはヴェールの奥で思わず苦笑い。
……ほんっと、この司祭さん、母さんみたいなタイプが好きなんだな。
ぼくの家が貴族だから司祭が出迎えてくれたのかと思ったが、彼の狙いは、そういう事か。
残念だけど母さんは、『凛々しい』の人はどのランクも好きじゃないみたいだよ。
ぼくの父さんは『厳つい』の低ランクだ。
そこそこでも、それなりでもない、まぁまぁランクの母さんがわざわざ結婚相手に選ぶんだから、母さん的にはそっちのタイプが好みなんだろうな。
まぁそれに、見た目だけが良くても駄目だからねぇ。
結局、ぼくが神像を見られるようになるまで、茶を二杯も付き合わされた。
しかも、その司祭が見せてくれるんじゃなくて。
司祭は別な用事で呼ばれて、代わりに、司祭を呼びに来た神官が案内してくれる事になった。
残念そうな顔をする前に、司祭はもっとちゃんと仕事をしたらいいと思う。
到着したのは、この街にある大きな神殿。
ここには六大顔面タイプの神様の、それぞれの神像が祀られている。
ぼくはそれを見に来たんだ。
家庭でも神様を祀る風習はあるが、家庭にあるのは各神様のシンボルだけだ。
神様のお姿は、それはそれは素晴らしいものなので、それを絵画で正確に表すのが難しいと言う。
神像にしても、神様を彫り込むに当たってそのお姿が歪められてはならないため、技巧を極めたプロの職人が丹精込めて作成するものだ。
その為、作れる職人の数は少ないし、神像を職人に作らせる前に神殿の許可が必要となっている。
作成の許可が下りたとしても、神像の大きさは厳しく決められている。
神様のお姿を小さくするなんていう事は畏れ多いため、だ。
こういった事情があるから、例え貴族であっても、神像を見る為には神殿に行かなければならない、というのが普通だ。
しかも、普段は少し離れた定位置から眺めるものだ。
この辺りのぼくの知識は、書物と、家族……主に兄……との会話からだ。
ぼくが知っている事の大体は、そこが根拠だから、もしかしたら間違っていたり偏っていたりする可能性は否定出来ない。
母と並んで……使用人は後ろだ……神殿の扉をくぐると、司祭服を来た人に声を掛けられた。
その人の後ろに、もう少し簡易な神官衣を来た人が二人いるから、ある程度は地位のある人だろう。
何となく待ち構えていた雰囲気がある。
「お待ちしていましたよ……カーネフォード子爵夫人。本日も『麗しい』ですな。」
「……どうも。司祭様に出迎えていただけるなんて光栄です。」
あぁそうだ。一応うち、貴族だったな。
家の中どころか部屋の中に引き篭もっていたから、すっかり忘れていた。
それなりに『凛々しい』の司祭が、母を見る視線がかなり下衆なのは若干気になるが。
ぼくの目的である神像……その全身像を近くで見せて貰う為だ。
申し訳ないが、母にはもう少しだけ辛抱して貰おう。
まぁまぁ『麗しい』に生まれたんだから、そういう目で見られるのぐらいは仕方ないよね。
「そちらが、ご子息で……?」
「ええ。次男のアドルです。今日は、この子の為に急なお願いに応じていただいて、感謝しています。」
司祭の注意がこちらに向いたので、ぼくは名乗り、簡単に挨拶とお礼を済ませた。
馬車を降りる前に、ぼくは母に言われてヴェールを被っている。
大した興味を惹かれなかったようで、軽い挨拶を返しただけで、すぐに司祭はぼくから母へと視線を戻した。
「着いたばかりで早速ご案内するのも慌ただしいというもの。ちょうど先日、珍しいお茶を奉納されましてね。良い機会です。是非ひとつ、ご一緒にいかがですか?」
「……そうですね。せっかくですから。」
口説き文句をずらずらと並べられてようやく、仕方なく応じる母。
爵位等という世俗的な地位とは離れた所にいる、しかも司祭位からの誘い。
それも、外見容姿はそれなりランクで『凛々しい』な男性だ。
普通なら優越感も手伝い、もう少しは嬉しそうにしそうなもんだが……。
まるで母が快諾したかのように、喜色満面、誇らしげに案内する司祭。
彼の姿を視界の端に捉え、ぼくはヴェールの奥で思わず苦笑い。
……ほんっと、この司祭さん、母さんみたいなタイプが好きなんだな。
ぼくの家が貴族だから司祭が出迎えてくれたのかと思ったが、彼の狙いは、そういう事か。
残念だけど母さんは、『凛々しい』の人はどのランクも好きじゃないみたいだよ。
ぼくの父さんは『厳つい』の低ランクだ。
そこそこでも、それなりでもない、まぁまぁランクの母さんがわざわざ結婚相手に選ぶんだから、母さん的にはそっちのタイプが好みなんだろうな。
まぁそれに、見た目だけが良くても駄目だからねぇ。
結局、ぼくが神像を見られるようになるまで、茶を二杯も付き合わされた。
しかも、その司祭が見せてくれるんじゃなくて。
司祭は別な用事で呼ばれて、代わりに、司祭を呼びに来た神官が案内してくれる事になった。
残念そうな顔をする前に、司祭はもっとちゃんと仕事をしたらいいと思う。
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