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序章
ぼくは『奇跡』に直面する (後編)
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田宮が次に生まれる世界での『厳つい』になった事に、ぼくが心の底から歓喜していると。
「おっ、オレはもう決めてるぞっ。」
心なしか弾んでいる声が、夏の夜風のようにぼくの耳を撫でる。
五人目が颯爽と姿を現した。
ぼくはここで一体、どれだけの『奇跡』を目にするんだろう。
存在感のたっぷりな、丸みを帯びた顔の豊満さ。
その豊満さに相応しく、小さく見える目、丸く見える鼻、唇がぷりんと突き出た口は、最高の配置バランス。
ふわっと広がった短めの眉が、彼の清廉さを表している。
頬にも顎にも見事に付いた、張りのある肉肌が光を集めて、周囲の景色を映し出すようだ。
声で予想は付いていたが、そこに『凛々しい』の『奇跡』ランクが。
「オレは、凛々しいでっ。」
「……言うと思った。」
「バレてた?」
――― 飯山(イイヤマ)は何となく、そんな気がしていたんだ。
ボクの言葉に微笑みを返す『凛々しい』の飯山。
厚い目蓋を押し上げる瞳が、額に浮かんだ汗が、実に爽やかで心憎い。
その顔と同じく豊満な肉体にも、汗が滲んでいるのだろうかと、つい想像してしまいそうになる。
誰もが一度は、なりたい顔・なりたい身体。
あぁ、飯山よ……。
世の人々がどれだけ、その姿を望んで必死に努力をしているのか、貴方は知らないだろう。
何の苦労も無いままに『凛々しい』を『奇跡』ランクで手に入れているのだから。
次に生まれる世界で『凛々しい』な飯山が、嫉妬で刺されない事を祈るよ。
さあ、ぼくはもう驚かないぞ。
六大顔面タイプの内、もう既に五タイプがここに揃っているんだ。
むしろ、ぼくは熱望している。
最後のタイプの『奇跡』ランクが登場してくれる事を。
ぼくの願いが通じたのか。
ごく自然に、ボクの身体は次の人へと視線を流す。
その更に後ろにはもう誰もいない、彼が最後だと、ぼくには分かっていた。
「もう割と埋まっちゃったな。名塚(ナヅカ)、他に何かある?」
「う~ん? まぁ、一応ね~。」
他人事だから気楽な様子のボク。
それにゆったりとした返事をしたのは、最後の六人目。
神は、ぼくの期待を裏切らなかった!
視線を向けた相手を釘付けにするような、とろりと垂れた目。
下瞼の周りは、薄紫色の隈取りで飾られており、艶っぽくてたまらない。
目線をゆらゆらと揺らしながら瞬く仕草が、一際、彼を扇情的に印象付ける。
整えられた細い眉も、瞳のすぐ上を、沿うように下へと流れている。
恥じらうように穴を隠す鼻は、覗き込みたくなる程に秘密めいて。
両端が下へ向かって緩やかに弧を描く口元は、少し濡れていて、とても目に毒だ。
名塚……貴方も!
間違いようの無い『奇跡』!
「へぇ、何だろうなぁ。」
「思い付かねぇな。」
ボクと、『麗しい』の里村が、首を傾げる。
……二人とも何故、思い付かないんだ。
あれに決まっているだろうに。
「わし……エロエロしい、がいいかな~。」
ねっとりとした落ち着いた声が、耳から侵入して身体に染み込んで行く。
名塚の言葉でやっと気が付いたのか、彼以外の全員が息を呑んだ。
そう。名塚は『エロエロしい』の『奇跡』ランク。
彼を目にした大人は、まず間違いなく情欲を抱くだろう。
もし微塵も感じないという者がいたとしたら、その人は男として終わっている。
「名塚、それさ……色っぽい、じゃ駄目なのか?」
愚かな事を、ボクが言う。
駄目に決まっている、駄目過ぎる。
ボクの身体の中にぼくが入っているのでなければ、今すぐに、その口を抓り上げている所だ。
よっぽど容姿が醜くない限り、少し肌を見せながら横たわって足を開く姿勢で、色っぽいと思わせる事が可能だ。
色っぽいという……色気というものは、身体や仕草から感じるものだからな。
それに対して『エロエロしい』というものは、そういった媚びたポーズや肌を露出するサービスなんか無くても、ただ黙ってそこにいるだけで感じさせる事が出来るものなんだ。
何故なら『エロエロしい』は、身体や仕草じゃなく、顔に対するものだから。
もちろん、『エロエロしい』の人が、色っぽい仕草や姿態を見せる分には、それを止める理由も無いが。
「厳つい、でいいと言った自分が言うのもナンだが……それは……。」
「艶っぽい、とか……あるだろ。」
『厳つい』の田宮、『愛くるしい』の山井が何故か戸惑っているようだ。
一体どうしたと言うんだろうか。
「う~ん? あ~、ちょ~っと違うんだよな~。」
「まっ、名塚がそれでいいってんなら、いぃんでない?」
「オレっ、案外ワルくないと思うぞっ?」
『麗しい』の里村と、『凛々しい』の飯山は賛成のようだ。
「……次に生まれる世界では、お前を『エロエロしい』にしよう。」
しばらく黙り込んでいた煙の先の声が、ようやく宣言した。
――― まぁ確かに、エロいもんなぁ。
良かった良かった。
これでもし名塚が『エロエロしい』じゃない、なんていう事になったとしたら。
その損失はどうやったって回復しきれるものじゃないだろう。
「おっ、オレはもう決めてるぞっ。」
心なしか弾んでいる声が、夏の夜風のようにぼくの耳を撫でる。
五人目が颯爽と姿を現した。
ぼくはここで一体、どれだけの『奇跡』を目にするんだろう。
存在感のたっぷりな、丸みを帯びた顔の豊満さ。
その豊満さに相応しく、小さく見える目、丸く見える鼻、唇がぷりんと突き出た口は、最高の配置バランス。
ふわっと広がった短めの眉が、彼の清廉さを表している。
頬にも顎にも見事に付いた、張りのある肉肌が光を集めて、周囲の景色を映し出すようだ。
声で予想は付いていたが、そこに『凛々しい』の『奇跡』ランクが。
「オレは、凛々しいでっ。」
「……言うと思った。」
「バレてた?」
――― 飯山(イイヤマ)は何となく、そんな気がしていたんだ。
ボクの言葉に微笑みを返す『凛々しい』の飯山。
厚い目蓋を押し上げる瞳が、額に浮かんだ汗が、実に爽やかで心憎い。
その顔と同じく豊満な肉体にも、汗が滲んでいるのだろうかと、つい想像してしまいそうになる。
誰もが一度は、なりたい顔・なりたい身体。
あぁ、飯山よ……。
世の人々がどれだけ、その姿を望んで必死に努力をしているのか、貴方は知らないだろう。
何の苦労も無いままに『凛々しい』を『奇跡』ランクで手に入れているのだから。
次に生まれる世界で『凛々しい』な飯山が、嫉妬で刺されない事を祈るよ。
さあ、ぼくはもう驚かないぞ。
六大顔面タイプの内、もう既に五タイプがここに揃っているんだ。
むしろ、ぼくは熱望している。
最後のタイプの『奇跡』ランクが登場してくれる事を。
ぼくの願いが通じたのか。
ごく自然に、ボクの身体は次の人へと視線を流す。
その更に後ろにはもう誰もいない、彼が最後だと、ぼくには分かっていた。
「もう割と埋まっちゃったな。名塚(ナヅカ)、他に何かある?」
「う~ん? まぁ、一応ね~。」
他人事だから気楽な様子のボク。
それにゆったりとした返事をしたのは、最後の六人目。
神は、ぼくの期待を裏切らなかった!
視線を向けた相手を釘付けにするような、とろりと垂れた目。
下瞼の周りは、薄紫色の隈取りで飾られており、艶っぽくてたまらない。
目線をゆらゆらと揺らしながら瞬く仕草が、一際、彼を扇情的に印象付ける。
整えられた細い眉も、瞳のすぐ上を、沿うように下へと流れている。
恥じらうように穴を隠す鼻は、覗き込みたくなる程に秘密めいて。
両端が下へ向かって緩やかに弧を描く口元は、少し濡れていて、とても目に毒だ。
名塚……貴方も!
間違いようの無い『奇跡』!
「へぇ、何だろうなぁ。」
「思い付かねぇな。」
ボクと、『麗しい』の里村が、首を傾げる。
……二人とも何故、思い付かないんだ。
あれに決まっているだろうに。
「わし……エロエロしい、がいいかな~。」
ねっとりとした落ち着いた声が、耳から侵入して身体に染み込んで行く。
名塚の言葉でやっと気が付いたのか、彼以外の全員が息を呑んだ。
そう。名塚は『エロエロしい』の『奇跡』ランク。
彼を目にした大人は、まず間違いなく情欲を抱くだろう。
もし微塵も感じないという者がいたとしたら、その人は男として終わっている。
「名塚、それさ……色っぽい、じゃ駄目なのか?」
愚かな事を、ボクが言う。
駄目に決まっている、駄目過ぎる。
ボクの身体の中にぼくが入っているのでなければ、今すぐに、その口を抓り上げている所だ。
よっぽど容姿が醜くない限り、少し肌を見せながら横たわって足を開く姿勢で、色っぽいと思わせる事が可能だ。
色っぽいという……色気というものは、身体や仕草から感じるものだからな。
それに対して『エロエロしい』というものは、そういった媚びたポーズや肌を露出するサービスなんか無くても、ただ黙ってそこにいるだけで感じさせる事が出来るものなんだ。
何故なら『エロエロしい』は、身体や仕草じゃなく、顔に対するものだから。
もちろん、『エロエロしい』の人が、色っぽい仕草や姿態を見せる分には、それを止める理由も無いが。
「厳つい、でいいと言った自分が言うのもナンだが……それは……。」
「艶っぽい、とか……あるだろ。」
『厳つい』の田宮、『愛くるしい』の山井が何故か戸惑っているようだ。
一体どうしたと言うんだろうか。
「う~ん? あ~、ちょ~っと違うんだよな~。」
「まっ、名塚がそれでいいってんなら、いぃんでない?」
「オレっ、案外ワルくないと思うぞっ?」
『麗しい』の里村と、『凛々しい』の飯山は賛成のようだ。
「……次に生まれる世界では、お前を『エロエロしい』にしよう。」
しばらく黙り込んでいた煙の先の声が、ようやく宣言した。
――― まぁ確かに、エロいもんなぁ。
良かった良かった。
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