美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは三角マスクの下が見たい

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ぼくが住んでいる世界では、六大神を崇めている。

それぞれの神の姿に応じて『格好良い』『麗しい』『愛くるしい』『厳つい』『凛々しい』『エロエロしい』の六タイプに分かれていて。

各タイプで、どれだけ神に……部分的でも……似ているかによって、高・中・低というランクが付けられる。
凄く大きな神殿に行けば、もっと細かく計測出来るらしいんだが、多くの者はそこまで詳細なランク付けは求めていない。
ランクの僅かな差が重要になるような場面なんて、それこそ王族や上位貴族でもない限りは無さそうだから、大抵の場合はこのぐらいのランク分けで充分だからだ。
この『顔面タイプ』と『ランク』とを合わせて、顔面偏差値と呼ばれている。
もちろん、顔面偏差値は高い方が良い。

美醜に関しては、乱暴な言い方をすれば。
神様の姿にどれだけ似ているかで評価が決まるという事だ。

似ていれば似ている程、その人の顔面偏差値が優れていると感じ、惹かれ易くなるように……そんな風に、ぼく達の感覚は出来上がっている。
逆に言えば、あまり似ていない人程、不細工だと感じるように出来ている。


ぼくが部屋に引き篭もっていた理由は、これが原因だ。
顔面偏差値の低い人の事を、不細工だと感じると同時に、怖がってもいたから。

この世界では、顔面偏差値は貴族の爵位と同じぐらい重要なんだ。
これが高いか低いかで、とにかく、世間的な扱いが、日本とはだいぶ違う。
地位・金・権力と並ぶパワー……オーラみたいなものか。

ただ、顔面偏差値はあくまでも顔面のみに関わるもの。
それが高くても、精神的・肉体的な能力が優れているわけじゃないんだが。





神殿の奥、関係者が使用するエリアにある応接室で、今ぼくは暇を持て余している。


ぼくの顔面偏差値の計測結果は、予想通り『奇跡』ランク。
普通は高・中・低のいずれかになるものが、奇跡という結果を叩き出したもんだから、始めは測定器の不具合とか故障を考えられたが。
ぼくがヴェールを外して素顔を晒すと、神殿長を含む司祭達は一瞬ざわつき、そして静まり返った。

あの瞬間は、何か誇らしい気持ちと居心地の悪い思いを同時に感じて、ぼくは微妙な表情になっていたと思う。


まぁまぁ『麗しい』の母は、神殿の上の方の人達と、大人の話があるらしい。

ぼくはさっき、それなりに『凛々しい』な司祭から二杯も飲まされたのに、またお茶を出されている。
一応ぼくが未成年だから、という配慮らしい。
未成年が酒を飲んでも、この世界では罰則が無い。
だが一応、お酒は成人してから、が建前だ。

あぁもう……お茶、飽きた。

「あの、……別な物を用意しましょうか?」

恐る恐るという感じで話し掛けて来たのは、ぼくと母を大礼拝堂に案内してくれた神官だ……と思う。
顔が見えないから確定的には言えないが、三角形のようなマスクが、さっきの神官と同じだ。
他の神官は、殆どが顔を隠してはいないし、隠していても顔の半分だけだったり。
同じマスクをしているのは他にいなそうだから、恐らく同一人物だ、と思う事にする。

ぼくの方は、お茶を飲むのに邪魔だから、ヴェールは外したままにしている。
『奇跡』だという計測結果も既に出てしまっているから、隠す必要も無いだろう。

せっかく話し掛けてくれた彼に、ぼくは愛想笑いで返す。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクだから、不愉快な思いはさせないはずだ。

「ありがとう。じゃあ……もしあれば、果実水を。」
「はい。すぐに用意しますね。」

神官はあまり低くない声で、結構若そうだ。
活舌も悪くなくて聞きやすい。



一旦、この場から離れる神官の後姿を見送りながら、ぼくは溜息を吐いた。
さっきから、もどかしい思いを抱いている。

「やっぱり、偶然じゃ無理だよねぇ……。」


ぼくはこの世界に生まれ、十五歳と少しの年月、この世界で生きて来た。
その結果として、この世界でごく普通の美醜感覚を持ち、だが前世……世野悟(ヨノサトル)を思い出した事で、そちらの感覚も持ち合わせている。
今のぼくからすれば、顔面偏差値が優れている人は魅力的に見えるし、顔面偏差値が低くて不細工とカテゴライズされる人も、イケメンだと感じる可能性が高いという事だ。

つまり、ぼくは、あの神官の顔が見てみたい。

あの三角マスクでは、輪郭され見え難い。
彼の顔面偏差値がよっぽど……人々を惑わせるぐらい高過ぎるか。
それとも極端に低すぎて、顔を隠すように強要されているのか。
どちらにしろ、あんなに厳重に隠されていると、暴きたくなるのが人の性というもの。


「直接、本人に頼んでみるしか、ないか。」

ぼくは、偶然に期待する事を止めた。
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