上 下
80 / 80

80・オレのキョウタが聖女降臨。 (タスク視点) 最終回

しおりを挟む
新しい朝が来た。希望の朝だ。
……って言っても、とっくに十時を過ぎてるけど。

チェックアウトの時間が決まってる宿屋じゃなくて、ホントに良かった。
ホテルや旅館って大抵、九時か十時には出なきゃならねぇだろ。
もう完全にアウトじゃんか。
オレもキョウタもまだ下着姿だからな。



そんなオレ達を……正確にはキョウタを……迎えに来た男は、オレの格好を見るなりわざとらしい溜息を吐いた。

大公領の王子オスカー。
今日も金髪をキラキラ輝かせて、均整の取れた長身を上等な衣服で包んで、嫌味になりそうなイケメンオーラを振り撒いてる。
勝手にソファを使ってるのはいただけねぇけどな。


「昨夜は随分とお楽しみだったようだな? ……っふふ。」

そう言ってオスカーは、ニヤッて唇を片方釣り上げた。
長ソファの丸っこい肘掛けに凭れ掛かって、気怠そうに髪をかき上げて笑ってる。

いやいやいや、オスカー! お前の方こそ!
完全に、昨夜はお楽しみでしたね、って感じじゃねぇかよ!

全体的に疲労感が滲んでて、手を動かすのもちょっと遅くてさ。
だけど髪とか肌とか、超ツヤっツヤになってるだろ。
それに表情とか、雰囲気とか、いかにも満足しました。って感じじゃねぇか。
ワカメ魔族の騒ぎであんなに苛立ってたり、すげぇグッタリしたりだった、あのオスカーは一体どこに行ったんだよ、ってツッコむべきか?

何より、アレだ。
オスカーはオレ達と同じ宿屋に泊まってるハズだ。
それがこの時間になって、ようやく迎えに来たってのは……オスカーも、朝早くには起きられねぇ状態だった。って理由なんじゃねぇか?


「そうですねぇ。えぇ、まぁ……そうとも言えるでしょう。」

サイラスはあんまり部屋の中まで入り込まねぇで、出入口で突っ立ってる。

つーか、お前が答えんのかよ。
思わぬトコから回答貰っちゃったぞ。オレの予想、正解だったな。

……って、ソコじゃねぇよ問題は。
オレは下着姿。
キョウタも下着だけで、ベッドから出て来れねぇ。


「お前らよ……。オレのカッコ見てさ。そんな場合じゃねぇだろ、メッチャ下着だろぉがよ、せめて着替えさせろよ、ちょっとは気ぃ使えっての。」
「俺は別に構わん。着替えればいい。見守ってやろう。」
「い、ら、ねぇっつ~の。いいから、一回出てけよ。」

ホント好き勝手だな、オスカー。
なんで生着替えの大サービス、お前に見せなきゃなんねぇんだよ。

「やれやれ……。分かりました、三十分後にまた来ます。」

意外にサイラスが常識を見せた。
ダラダラしてるオスカーを手招いて、外に出る為のドアノブに手を掛ける。


部屋から出る直前、サイラスが振り向いた。

「ちゃんと魔力譲渡が出来るようになったんですね。聖女が随分と回復しているようです。」
「うっ……。」
「それは喜ばしいですが、この後は予定があります。今からしないでくださいね?」

子供の成長を見守る、養育義務の無ぇ気楽な近所のオッサンみたいな笑顔だった。
ちょっと残念そうなオスカーを連れてサイラスが出てく。

そういうツモリじゃなかったけど、昨夜のアレで、キョウタの魔力とやらが回復してるっぽい。
うわぁ……。そっか。エッチして魔力が回復したらバレるんだな。




きっかり三十分後にサイラスが迎えに来た。
オスカーと一緒に乗せられた馬車が向かったのは、悪役娘が嫁いだトコの店だ。

「いらっしゃい、二人とも。……顔色が良くなったわね、キョウタ。安心したわ。」

出迎えた悪役娘に、オレ達は店内の奥に案内される。
そこでサイラスから、今日これからの予定を初めて聞いた。


「……はァ? 大公家の城に? 今日かよっ。」
「もちろん。城に連れて行くと言ったでしょう? 言いませんでした?」

ビックリして声がちょっと裏返った。
昨夜そんな話は聞いたような気がするけど、今日って話だったっけ?

「そりゃ言ってたけどさ……。」
「大公城で聖女の披露目を済ませれば、正式に護衛を付ける事も出来ます。」

そうすれば、昨日みたいな事態も防げる……って話だ。

間違えようの無ぇ正論にぐうの音も出ねぇ。
キョウタも反論出来ねぇから、下手に反論しねぇように決めたっぽい。
無言のまま、悪役娘のトコの店員に、なすがままにされてる。

だけど用意されてる衣装を見る分には、女性用っぽいんだけど。
なんか化粧品とかも用意されてるし……。


「だからって、なんで女装すんだよ?」
「コルネール第三殿下だとバレては不都合でしょう?」

ぐっ……確かにサイラスの言う通りだ。
コルネールって王子はどっかの森にある塔に幽閉されてる、って話だからな。

「それが、なんでオレまで女装なんだよ?」
「聖女の付き人だからですよ。男を侍らせると思われてはいけませんからね。」

ぐっ……それもサイラスの言う通りだ。
オレはキョウタと四六時中一緒に居て、おんぶやら、抱っこやらもするからな。
一々もっともな話でモヤモヤするけど断り難いっ。





そんなワケで、オレ達は女装中だ。
キョウタは衣装は聖女っぽい神聖な感じの僧侶ドレス。
メイクも清楚系で、口紅はパステルピンク。肌が白くて瞳の色が赤いから、キョウタに良く似合ってた。
オレはまぁ、比較的に地味目なワンピース。薄いオレンジ色の口紅を付けられた。


化粧とかを済ませたオレ達二人は、あっという間に大公家……じゃなくて。こないだ聖女コンテストを開催した、あの広場に連れてかれた。
大公城があるのは違う町なんだってさ。
そりゃそうか。オスカーは宿屋を利用してたワケだし。

とにかく、大公城へ向かう前に、この町で「聖女候補が出現しましたよ。これから出立しますよ。」みたいな宣伝っつ~か……『聖女降臨イベ』を済ませておくんだってよ。


イベント会場に着いたら、責任者っぽい人が出て来て凄い立派な控室に通された。
一参加者だったコンテストとは、当たり前だけどかなり違う。
サイラスもオスカーも、イベント責任者と真剣に話し込んでる。

「たっ、タスク……。」

控室にいるのに、会場の方から微妙な熱気みたいなモンを感じる。
キョウタは俄かに緊張して来たみてぇだ。
安心させる為に手を繋いだ。しかも指を絡める恋人繋ぎで。
オレを見るキョウタが息を吐いて、身体を寄せて来る。

めっちゃ可愛い、その仕草。
イベントの流れとか、動きとか台詞とか、さっき聞いたのが飛んじゃいそうだ。


「そろそろ行きましょう。聖女様と……付き人役の、悪魔?」
「タスクを悪魔とか言うな。」

キョウタの文句を無視してサイラスが先を行く。
オスカーもそれに続いた。

「キョウタ、抱っこするぞ?」

不安そうなキョウタをお姫様抱っこする。



控室を出たら。イベントが始まったらもう、キョウタは『聖女様』だ。
どういうアレかは知らねぇけど、それなりの責任と期待を背負わされる。
それと同時に「アイツは非力だ」ってのも周囲にバレる。
聖器から聖水を溢れさせるようなチカラがあって、魔族に襲われたりもしたんだから、一般人のフリして逃げ出すのも無理っぽい。


「キョウタ……オレ、自分が悪魔でも別にいいや。キョウタを守れるなら、何でもいい。」
「な、何だ急に。そんな格好良い事を言い出すとか……。」
「元々はオレが、コンテストに参加しようって言い出した所為だけど。」

まさかキョウタが聖女認定されるなんてなぁ。

「ずっとキョウタのそばに、一緒に居るから。安心しろ。」
「……うんっ。」


聖女の隣に悪魔、とか。語感がアレだけど。
約束するから……。


嬉しそうなキョウタと笑い合って、オレは控室を出た。







 完
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】

クリム
BL
 僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。 「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」  実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。  ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。  天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。 このお話は、拙著 『巨人族の花嫁』 『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』 の続作になります。  主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。  重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。 ★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。

狼くんは耳と尻尾に視線を感じる

犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。 『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...