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16・金を稼ぐにも金が要るようなこんな世の中じゃ。 (キョウタ視点)

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ううぅ、太腿が半分痛くて半分ダルくて痺れるよぉ……。
なんで俺、おんぶで辛い足を酷使して膝枕しちゃったの。
せっかく、ジャイアントエルフ達に町まで送って貰ったのに。
おんぶでの長時間移動を回避出来たのに。
流れとは恐ろしいものよ……。

村で眠りの魔法を使われた時には俺も警戒したが。
こっそり魔法で送りたいだけだと分かり、何も言わずにいた。
タスクは馬車で送って貰ったと思っているから黙っていよう。
あの人達、魔法を使うのを内緒にしたいらしいからな。


俺はまだ、タスクの背中で揺られている。
衛兵に冒険者の店の場所を聞いて、タスクはそこに行くつもりらしい。
俺も特に行く所は無いから、そのままおんぶされたままだった。

「なぁタスク……。タスクは、冒険者に、なるのか?」
「ん~、なるっつ~か……とりあえず? 行ってみる? みたいな? オレ興味あるんだよな、冒険者って。」
「お前が冒険者でやって行けるか、難しそうな気がするがな。」
「そんなコト言ったってよぉ、他に思い付かねぇんだから、しょ~がねぇじゃんよぉ。」

悪いがタスク。
お前に何か特技があるのかは知らないが……。
お前が、冒険者としてやって行けるようには見えないぞ。
記憶喪失の美少年、なだけの俺に言われたくはないだろうが。

……あ。しまった。
今更なんだが。
今世の俺に相応しい名前を考えるの、すっかり忘れていたな。


俺が考え事に耽っている間に、どうやら到着したようだ。
気が付いたらタスクが立ち止まっていた。

「ここが、冒険者の店かぁ~。すっげぇ、ワクワクする~。」
「わ、びっくりした。急に見上げるなよ、落ちるだろうが。」

目の前にある大きな店を見上げるもんだから。
俺は落ちるかと思って、慌ててタスクの肩口に縋り付いた。
俺の台詞が聞こえないぐらいわくわくしているのか。
タスクは何も言い返さないで、足取り軽くその店に入って行く。

カランコロン、カランコロン。

軽快な音を鳴らして店内に入ると、そこは酒場のようだった。
幾つかあるテーブル席とカウンター席、立ち飲み用の背の高いテーブル。
ファンタジー小説で登場するような装備に身を包んだ客達がいる。

飲んでいる客達は誰も、おんぶで入って来た俺達に声を掛けない。
その状態を俺は。
何故だか……意外だと感じていた。


冒険者についての、俺の中にある知識や感覚では。

報酬を貰えば何でもやる便利屋。
食べて行けるかどうかは運と腕次第。
国の民でもない、領の民でもない、実に不安で。
何にも従う気が無い、何をされるか分からない怖い存在。

俺達みたいな、明らかに戦えなさそうな二人組が入ってきたら。
絶っ対に、絡まれるか揶揄われるか、どっちかすると思っていた。


……記憶が無いのに偏見? 俺、偏見酷い?
でもまぁ俺、イイトコの坊ちゃんっぽいもんな。
俺の手とか足とか、絶対に働いていなさそうだ。

記憶喪失の、イイトコの、美少年。
俺を表す特徴が一つ増えたな。

「……キョウタ、ってば。……キョウタっ!」
「ぅわっ! な、なにっ?」
「冒険者の登録とかすんの、ここの二階だってさ。行ってみよ~ぜ。」

俺はまた考え込んでいたようだ。
いつの間にか情報収集をしていたタスクは、さっさと二階へと上がって行く。


「すいませ~ん、オレ達、冒険者になりたいんですけど~!」

着くなり、タスクはそう声を張り上げた。

ちょっ! タスクっ!
俺は冒険者になるなんて一言も言っていないぞ!
お前も、冒険者になるなんて言っていなかっただろう!
何が「とりあえず見に行く」だ、嘘つきぃ。

「登録なら、ほれ、そこの受付で済ませな。」

親切な人が教えてくれた。
お礼を言って受付に向かおうとするタスクの頭を。
抗議の意味を込めて、俺はぐいんぐいんした。

「こらっ、人の頭をグイングインすんなって前にも言ったろ。」
「い・き・な・り、冒険者になるなんて思わなかったんだが?」
「え、ダイジョ~ブダイジョ~ブ、聞くだけだって。とりあえず、な?」
「ちょっとだけと言いながらエッチに持ち込むみたいな言い方するな。」

俺達は少しだけ揉めながら、フロアの壁際へと移動した。


「なぁ、キョウタ。オレ達、金が無ぇんだ。分かるな?」
「……で?」
「このままじゃ今日、宿に泊まることも出来ねぇんだ。」
「……それで?」
「一緒に冒険者になろ~よぉ~。」

駄々を捏ねだしたぞ!
結局そういう話になるのか!
……どうりで、冒険者の店に行く辺りから俺、何か変な気分だったわけだ。
こんな事になりそうな予感がしていたんだな。

「そうは言っても、タスク。冒険者と言えばパーティが基本だ。ソロもいるが、相当な腕前が必要になる。お前には無理だ。」
「ふむふむ。」
「ならばパーティを組もうとすると、酒場辺りで初対面の人間と組む事になる。」
「だな。」
「……出来れば俺は、知らない相手とパーティを組みたくない。」
「なんで?」

おんぶされながら耳元で説明してやる。
タスクは頷いてはいるが。
肝心の、俺がパーティを組みたくないという事が今一つ理解出来ないようだ。

「……俺は記憶が無いから。」

タスクは気にしなかったから助かったが。
普通、記憶喪失だなんて知られたら、鬱陶しい思いをするに決まっている。
何故そんな事になったのか、本当は何処の誰なのか。
同情されるのも心配されるのも邪魔くさい、が。
記憶が無い振りをしているのでは、と怪しまれるのも腹立たしい。
放っておいてくれ。
俺の過去を探るな。

「素人なのにパーティが組めないなら、冒険者としてやって行けないだろう。」
「そんなことねぇよ。オレと二人でパーティ組も~ぜ。」
「二人パーティで何が出来るんだ?」
「ん~、……なんでも?」

何でもって……何だよ。
タスクとは一昨日、出会ったばかりだろうが。
俺の事、何も知らないくせに。何も聞かないくせに。
何でそんな、言い切れるんだよ。
へらへらするな。……べ、別に嬉しくもないし。


「じゃあ、キョウタ。パーティとかは置いといて、登録だけでもしよ?」
「登録だけ?」
「冒険者カードとかって無ぇの?」
「あぁ、それが目的か。」

合点がいった。
確かにタスクの言う通り、冒険者カードという物はある。
それがあれば、入る際に身分証明を求められるような町にも入れるだろう。

……意外と、ちゃんと考えているんだな。


それならさっさと登録を済ませようという事で。
俺達は受付カウンターに来た。

「登録ですね? お一人につき、三百ゴールドいただきます。」

受付係の言葉に、俺とタスクは顔を見合わせた。
おんぶ状態だが、無理矢理、顔を見合わせた。

「……また今度にします。」

沈み切ったタスクの声。

俺達は足取り重く、冒険者の店を後にした。
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