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宇宙動物園

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 25XX年、N76星雲の特定座標を漂う巨大宇宙船の中にその動物園は存在した。人呼んで「宇宙動物園」。その名の通り、この広い宇宙に存在する生命体を集め展示している施設だ。何百種類もの宇宙生命体が集められ、飼育されていると言う。中には在来種の捕獲禁止区域の星で、密猟者に秘密裏に捕まえてこさせた貴重な種もいるという。また、宇宙動物園は招待客以外を入場させず、星代表の貴族階級の人々のみを呼び寄せていると言う。

 そして、どういう訳かそんな大層な動物園の招待状が私宛てに来ていた。差出人は宇宙動物園の園長となっており、入場チケットと何かの通信機、そして手紙が同封されていた。

「アナタはこの宇宙で最も幸運な人間の1人です。ワタシの宇宙動物園に招待される事になったからです。地球に住む数百億人の中から抽選で選ばれた幸運の持ち主なのです。
 同封させていただいた発信機宛てに、お迎えの宇宙艇が参ります。くれぐれも入場チケットをお忘れずにお持ち頂く様お願い致します。」

 手紙にはその様な事が書いてあった。どうやら地球に住む人類の中から偶然選ばれたらしい。手紙を読み終えるとほぼ同時に発信機がピピピッ…ピピピッ…と音を出し始めた。数分もしない内に迎えの宇宙艇が現れ、私を宇宙動物園と呼ばれる巨大な宇宙船に運んだ。

 宇宙船の内部はまるで屋外にいるかの様にとても広く、ドーム型になっているであろう天井には、空の映像が映し出されるなど閉塞感を出さない様な工夫が凝らされていた。会場をひと通り見渡しても誰も居らず、まだ私しかロビーまで着いていない様子だった。奥の受付には女性型のアンドロイドが1台設置されており、私が近付くとセンサーで反応し動き始めた。

 「こんにちは。お客さま。宇宙動物園にようこそおいでくださいました。こちらでは入場のご案内をさせて頂いております。招待チケットはお持ちでしょうか?」

 私が懐にしまっていた入場チケットを取り出すと、アンドロイドは目から赤い光線を出して、記載してあるバーコードを読み取った。

 「チケットの内容が確認されました。太陽系第3惑星 地球 から遥々お越しくださりありがとうございます。こちらの通路を通って頂き、1番奥の部屋にてお待ちください。」

 1番奥の部屋に入ると自動的に扉が閉まった。部屋の中央には椅子が一脚置いてあるだけで、窓ひとつない殺風景な部屋だった。アンドロイドの指示通り、椅子に座り暫く待っていると部屋の照明が全て落ちた。そして、数秒もしない内にけたたましい音楽と共に案内が流れた。

「大変お待たせ致しました。これより宇宙動物園を開園させて頂きます。この広い銀河の中から集めた、ありとあらゆる星の生き物がご覧になれます。是非ご堪能くださいませ。」

 アナウンスが流れ終わると、部屋の照明がすぅっと点いた。目の前にあったはずの一面の壁が無くなっていた。

そして、その奥にはウマの身体とワニの頭を合わせた様なヘンテコな生き物がいた。

 「∬∃@▽◇◎$£※⊆〒^^ ∠∇∝◎◇!」

言葉で表現出来ない様な鳴き声をあげてこちらに近付いてくる。私の姿を見て興奮しているらしい。こんな近くまで動物が近づいても大丈夫なのか、と心配になっていると、このウマワニが見えない壁の様なものに頭をぶつけた。先ほど消えたと思った壁は透明になっただけの様だ。

 ウマとワニの混合生物は暫く私の部屋の前を左右に行ったり来たりすると、飽きてしまったのか部屋から見切れる様に隣に移動してしまった。私は生まれて初めて見る地球外生命体に感動していた。こんな近くで見ることが出来るなんて何て貴重な体験をしているのだろうか。

 暫くすると次は身長が2メートル程もある巨大なゴリラの様な生き物が目の前に現れた。腕が肩の部分からもう1組生えており、ドラミングの要領で4本の腕で胸をパタパタと高速で叩いている。私の存在に気付くと、2本ある右手を器用に交差させ手を振ってきた。この生き物は先ほどのウマワニよりも知性がある様だ。手を振り返すと、驚いた様な顔をしている。

「pi kuipi vkepi lvp aatkpi koep a tapi viepi ktkpi kuipi l pi lvpi keo!」

 何を言っているのかはわからないが、非常に興奮しており、また4本の腕でドラミングを始めた。その後はジャンプしたり走り回ったりしていたが、また私の部屋から見切れる様に隣に移動して行ってしまった。

 ここの動物園は地球のそれと違い、動物の方から来園者に会いに来てくれる様だ。たしかにこの巨大な宇宙船をくまなく見学していくとなると一苦労だ。招待客を疲れさせない為の一種のVIP待遇なのかもしれない。

 それからも間髪を開けずに次から次へと様々な動物が来た。二足歩行のイルカ、頭が2つ生えているダチョウ、歌う巨大ナメクジ…どれも見たことも無い様な珍妙な生き物だった。密猟地区から取り寄せた生き物もいると言う話も本当では無いかと思えるほど、沢山の生き物が部屋の前を通り過ぎていった。透明な壁には何か白いパネルの様なものがぶら下げてあり、そこに吸い寄せられる様に動物達は近付き、飽きるとまた移動を始める。何か動物を引き寄せるフェロモンでも塗ってあるのだろうか、部屋の前に来た動物は皆とても興奮していた様子だった。

 私がここに呼ばれてから数時間が経ち、部屋の前に現れる動物がパラパラとまばらになってきた頃、閉園のアナウンスが流れ始めた。

「もうそろそろ閉園のお時間になります。銀河1の種類数を誇る宇宙動物園はいかがだったでしょうか。気をつけてお帰りくださいませ。」
 
 アナウンスの指示に従い部屋を出ようとしたが、未だ鍵がかかっている様で扉が開かない。おそらく動物達が万が一逃げ出してしまった時のセキュリティなのだろう。

「すいません!もう十分楽しませて頂いたので帰らせていただけないでしょうか!」

 私が大きな声で叫ぶも一切反応がない。途方に暮れていると、コツコツ、と先ほどまで動物達が歩いていた壁の向こう側から靴音が聞こえてきた。壁際に駆け寄ると、そこには身なりの整った老紳士がいた。胸には園長と書かれたバッジを付けている。

「私はこの動物園に招待して頂いた者です。あなたの宇宙動物園は本当に見応えがあって素晴らしいところでした。ですが、もうそろそろ帰らなくてはなりません。この部屋の鍵を開けては頂けないでしょうか?」

 私が老紳士に尋ねると、彼はクックック…と小さく笑いをこぼして、壁にぶら下げてあった白いパネルを裏返してみせた。

















「ニンゲンの雄。出身:第3惑星 地球。
 捕獲禁止区域の在来種。
 手を振ると笑顔で振り返してきます。」

  おしまい。
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