要らねえチート物語

汐乃タツヤ

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第三章

第32話 見えてきた糸口

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 次の日の朝、今日は午前中から練習をするつもりで、俺はいつもよりも早起きをしていた。
 朝食を食べ終えて出かける準備をしようと思っていると、母さんに呼び止められる。

聖也まさや、今日も練習に行くんでしょ? だったらこれを持っていきなさい。おにぎりとか入ってるから」
「え? あ、ありがとう……」

 俺は少し驚きつつも、母さんから弁当が入った袋を受け取る。
 コンビニでパンとかを適当に買うつもりだったので、まさか弁当を用意してあるとは思わなかった。

 父さんも母さんも、俺が力を強く入れたらとんでもない強さになるのを知っている。だから、昨日のうちに俺が球技大会に備えて普通の強さのボールを投げれるようにセレスと練習をすると話しておいた。その方が話が早いし、最悪練習が上手くいかなかった場合には仮病の口裏を合わせるためだ。
 
 仮病の可能性を話した時は顔をしかめられたが、人の命には代えられないと事の重大性を訴えたら、どうしてもダメだった場合は仕方ないと認めてもらっている。
 なお練習中に周りに及ぼす被害についてはセレスが抑え込むと説明したら、あっさり信用され、両親そろって俺のことをよろしく、とセレスに頼んでいた。

「あんたに任せたら、セレスちゃんのお昼も適当に済ませそうだからね。だから作っておいたのよ」

 あ、弁当を用意したのはそういうことか……。

× × ×

 午前中から練習を繰り返し、昼休みを挟んで午後になっても相変わらず自滅し続けていたが、それでもある程度分かってきたことがある。
 ボールに前進する力と後退する力といった感じで、相反する方向の両方に力を加えて必殺シュートのエネルギーを消耗させようとしても、ボールが何かにぶつからない限りエネルギーは残ったまま。
 一方ボールからエネルギーを一気に放出すると、エネルギー光線で周辺に被害を与えるが、ボール自体の威力はガクッと落ちる。
 
 これなら、相手にボールが届く前にエネルギーを放出し切った上で、周りに被害が出ないようにできれば上手くいくかもしれない。

 エネルギーをできるだけ早く使い切るには光線の威力をなるべく高くする。それから周りへの被害を防ぐために光線の飛ぶ距離は極力短くして……。
 イメージを固めて思いっきりボールを投げた瞬間――。

「あぐわあ!!」

 身体に強烈な衝撃が襲い掛かり、俺は超スピードで弾き飛ばされてシールドに叩きつけられる。
 
 し、しまった……エネルギー光線が俺の方にも飛んでくるのを考えてなかった……。しかも光線が凝縮されているから、防御魔法があってもメッチャ痛てえ……。

× × ×

 その後、俺が巻き沿いにならないように、エネルギー光線が発生する範囲をボールの前面に絞り込んだ。そこから練習を重ね、光線の威力をもっと高めることで射程距離と持続時間をさらに短くしていく。
 しばらくボールを投げ続け……。

「や、やった……」

 ついにボールがシールドへ届く前にエネルギー光線が消滅した。
 凶悪な威力が無くなったおかげで、シールドに当たったボールがポコンと平凡な音を立てて跳ね返る。
 
 よし、後はエネルギー光線を見えないようにするだけだ。

 そこからはさして時間がかからなかった。
 エネルギー光線も透明化も上手くいき、シュートの見た目も完全に普通になる。
 俺もエネルギー光線の存在が分からなくなるのが欠点だけど……。

 最初はどうなるかと思ったが、やればできたじゃないか。
 達成感から気が緩み、今までの疲れが吹き出して俺はそのまま地面に座り込んだ。

 しばらくボーっとしているとシールドが解除され、セレスが歩いてくるのが見えた。

「セレス、長かったけどようやく成功したよ」
「成功したんですね!! おめでとうございます!!」

 俺の言葉にセレスが笑顔を見せると、俺の方に駆け寄ってきた。

 ああ、色々あったし力技ではあるけれど、何とかボールの威力を普通に抑えられるようになって良かった……。

 ……ん? これだけやって成果がボールの威力が普通になるってだけ……? 

 なんで普通の威力に抑えるためだけに、ここまで苦労しなきゃいけないんだろうか……。
 急に徒労感に襲われて、俺は地面に倒れ込んだ。

× × ×

 あの後、どこか虚しさを抱えたまま家に帰り、晩ご飯を食べ終わってしばらくしたところでふと気づいた。

 確かにどうにかボールの威力を抑えるのには成功したが、距離を取った上でボールをシールドに当てて上手くいったってだけの話。
 これで人に向かって投げても大丈夫かと聞かれたら、まだ相当な不安が残っていると言わざるをえない。
 どうしたものかと悩んでいると、スマホの着信音が鳴り響く。画面を見てみると、一樹かずきからの電話だった。

一樹かずきか、どうした?」
「沢村とドッジボールの練習をすることになったから、セレスさんに相談するって昨日言ってただろ。結局どうなったんだ?」
「ああ、その件か。セレスの魔法で周りをシールドで囲んでもらって、外に被害を出さないようにしてから、1人でひたすら練習してたよ。さんざん自滅してひどい目にあったけど、強引にボールの威力を普通まで落とせるようになった」
「何だ? その強引にっていうのは」

 俺がボールの威力を落とす方法を説明すると、一樹かずきから「凄え面倒なことをやってんだな」と言われた。……俺も正直そう思う。

「そういえば、エネルギーを使い切る前にボールが相手に当たったらどうなるんだ?」
「……確実に相手が死ぬな。とんでもない威力だから」

 手痛い所を一樹かずきに指摘されて、危機感が一気に強くなる。
 一度でもボールの制御に失敗したら取り返しがつかなくなるのに、今のままではやっぱり練習が不十分だ。

「どう考えてもそれじゃマズいだろ。セレスさんの力じゃどうにもならないのか?」
「無理。練習中に回復魔法や防御魔法を掛けてもらったけど、ボールを操るのは俺自身で何とかしなきゃいけない」
「そうなのか……。なあ、明日はどうするつもりなんだ?」
「今日の練習でやり切ったと思ってたけど、まだ足りないから明日も練習だな……」
「なあ、練習する時はセレスさんもいるんだろ? それなら俺も参加するからセレスさんに伝えておいてくれ」
「えっ!?」

 セレスが目的なのは分かるけど、本気で言ってるのか!? 冗談抜きで死ぬぞ!!

「いやいや、落ち着いて考えろ。エネルギーが残っているボールに当たったらシャレにならないんだぞ!! いくらセレスに関わりたいからって、この件に首をつっこむのはやめておけよ!!」
「その辺はセレスさんが魔法で支援してくれてるんだろ? それに魔法の支援があってもダメなら、沢村との練習なんて最初から無理なんじゃないのか?」
「それはその通りだけどさ……せめて俺がもう少し練習してからにしないか?」
「何を言ってるんだ! 月曜から沢村と練習するんだから、やるなら明日しかないだろ! いいから集合場所と時間を決めるぞ!!」

 結局俺が根負けして、明日は一樹かずきも練習に参加することになった。
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