幼馴染とマッチポンプ

西 天

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第3章

鬱鬱勃勃

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 雪が丘高校に入学して一週間。
 なんやかんやあり。
 今現在,幼馴染と一緒に半ば強引に? モンブランが絶品の『喫茶ニュートン』という喫茶店を訪れている。モンブランが美味しいのを知ったのは訪れてからだけど。
 
 幼馴染の名前は―国見陽葵。
 女の子のような名前。でも私はこの名前が好きだ。彼は気にしてるみたいだけど,もっと自信を持っていいと思うくらい,いい名前だと思う。
 
 だって陽葵の妹の一花ちゃん,二葉ちゃん。そして私,柚葉。
 三人共,名前に『花』や『葉』がついている。
 そしてそれを照らしてくれる―陽葵。やっぱり自信を持つべきだ。陽葵は違うって言うかもしれないけど,ちゃんと私たちを照らしてきてくれた…
 ―あの時もちゃんと。
 
 私はそんな陽葵がずっと好きだ

 そんな陽葵と来ている―「喫茶ニュートン」私はすごく気に入った。理由は言うまでもない,だけど敢えて言わせて欲しい。それは私の大好きなモンブランがとにかく美味しいから。
 何このモンブラン私の知ってるそれとはまったく違う。だけどそれがまた新感覚で癖になる。また陽葵に奢らせよう。そしてもう一つ店内で流れているBGM。洋楽はあまり聞かないけど,この曲はどこか人懐っこい感じがする。好きかも。
 
 さて,陽葵と久々にこうやって話せたし,美味しいモンブラン食べれたしそろそろ帰りますか。

 窓の外を見ながらそんなことを考えていると,テーブルの向かい側で何やら陽葵が私に話しかけてきた。

「柚葉。―僕が彼氏って言ってたよな?」

 モンブランに気を取られていた。それと店内の雰囲気が心地よくて感慨耽っていて,いきなりの発言にビックリ。
 チラリ。陽葵を見るとすごく赤くなってる。そんなになるなら言わなきゃよかったのに。でも多分陽葵もそう思ってる。
 面白いからこのまま静観しよう。陽葵がこの空気に弱いのは知ってるし,またボロを出してくれそうな気がする。
 
 案の定,彼は我慢できずに口を開いた。
「まあ断るためにあーやって言ったんだよな? それなら仕方ないな。明日学校でちゃんと誤解解いておいてよ」
 ほら,やっぱり。
 私は笑いだしそうになる。ここは堪えなきゃ。陽葵には悪いけどね。
 だって…何言ってんだろ? 断った後にそう言ったはずなんだけどなあ私。
 ―これは相当焦っていらっしゃる。
 そんなことを一人考えているとやっぱり我慢できない。

「フフフッ。陽葵ってホント沈黙に弱いよね。お節介でせっかちで,すぐにボロが出る。僕が彼氏っていったよな…だって陽葵の自意識どうなってのぉ」
 面白すぎ。変わってなくて安心した。都会に呑まれてうっかり高校生デビューとかしちゃいそうだったし。

 私が中学二年の時から陽葵は県外に行きたいって言ってたけど,あの夏休み以降,やっぱりここに残るとか言うから,思いを飲み来むことが美学なんかじゃない。陽葵がしたいようにして。って言ってよかったって今なら思える。 まあ最初は渋ってたけど。
 
 彼の顔をもう一度見るとさらに赤くなっていた。陽葵が彼氏みたいなことは言ったけど。まさかあの真相を聞いて来るとはラッキーだ。告白してくれた彼には悪いけど陽葵が覗いてくれてた。今日の私は何だかツイてるみたい。 
 
 幼馴染からなかなか進展がない。だから高校進学を機に思い切って行動してみることにしたのが功を奏しそうだ。なんかスマートじゃないけど。このままじゃ一生陽葵に振り向いてもらえそうにないから。
 
 ―行動あるのみ。誰がこんな名言を生み出したのだろう感謝しなきゃだ。

 行動あるのみ。
「もしかして私が陽葵のこと好きなんじゃあ? って期待してたぁ?」
「ぜ,全然してないけど」
 あ,噛んだ。え,もしかして期待してたのっ? それなら顔が赤いのも納得。私は期待しちゃってるけど。
 でも彼の言葉はこうだった。

「正直お前のことは可愛い妹みたいな感じで…何といいますか。敢えていうなら家族みたいな感じかな?」
 妹? 期待して損したけど,家族って言ってもらえてうれしかった。
 彼は焦燥した様子で話を続けた。
「ごめん家族なんて…でも柚葉には何でも言えるし気を遣うことも少ないし,一緒にいると落ち着くし。あ…」
 謝る必要なんてない。むしろうれしいのに,こういう偶にだけど,ちゃんと優しいとこが好き。だけど所々失礼。 ほんとは一人の異性としてちゃんと見られたかったけど,家族って言ってもらえて胸が熱くなった。
 私は家族と言ってもらえた気持ちを正直に伝えた。

「そんな焦んなくても,気にしてないよ。というかうれしい…けど…」
 けどちょっとショックだった。と小声で呟いた。この一連の流れにもしかしてと期待してただけに…
 小声の部分はおそらく聞こえてない。正直不安…
 
 私がそう告げると彼は何かできることがあったら頼んできていい。と言ってくれた。
 なんとっ。このチャンス逃すまじ。
 私はすかさず彼に頼み事をする。

「ありがと。早速いいかな? 陽葵の事を彼氏って言ったの理由があるの…実はね入学してから今日まで,十人以上の人に告白とかデートに誘われてて…ね」
 ここまで言えばさすがに意図を掴むはず。乙女に全部言わせるでないぞっ小僧。
 
 事実,十人以上の告白や誘いはあった。その度断ってはいたが,一週間でこの人数とはさすがにびっくり。私のどこがそんなにいいのやら…
 中学の時も告白とかあったけど陽葵の事が好きだったし、その陽葵とずっと一緒にいたからか中学二年のときにはそういうのは減っていった。
 でも今回陽葵が居合わせて(覗きだけど)くれたおかげで閃いた。これは使えるし陽葵との距離を縮めるチャンスだと。あくどい手段だと自覚していても…幼馴染としか見てもらえないのは正直つらい。
 
 でもあろうことか彼は私に対し,話を聞いてたか。と言ってきた。
 言わなきゃわかんないのかっ! 照れながらでも言ってやる。
 
「―カップルのふりをしてってこと」

 彼は動揺を隠せない。そんなところが愛しく思える。
 ここは畳みかけよう。
 私はわざと店内に聞こえるように大声で泣いたふりをした。
「えーん」
 どうだ。私のこの迫真の演技はさすがに断れまい。まあ演技って言っちゃてるけど…
 
「わかった―」
 今わかったって言ってくれた? 無理やり言わせたけど,やったぁ。
 
 本物の恋人になりたいけど今はこれでいい。少々卑怯だと私も思うけど。
 いつか…いやすぐに振り向かせて本物になってやる。

 私の高校生活は楽しくなりそうです。

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