幼馴染とマッチポンプ

西 天

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第2章

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 洋楽が流れる店内。
 
 近況報告もお互いに出来たし,なんだかんだ柚葉も元気そうで何よりだと少し安心。
 そして会計を済ませるため席を立とうと椅子の肘掛けを右手で掴む。

「いい曲」

 彼女が外の景色をぼんやり眺めながら口に出す。

 帰る気でいた僕は少々呆気に取られたので,
「そうだな」
 とだけ返す。この曲について触れようとしたが歌詞が歌詞だけにやめておいた。
 僕からの返事を聞くと柚葉は喋ることを思い出したように話かけてきた。
「そういえば見てたよね? あれ」
 あれってどれっ? と惚けようと思ったがしらばっくれる戦法は先の戦いであっさり破られた。
 正直僕も気になっていた事だ。覗いていた手前質問しづらかったので向こうから話してくれるのであれば好都合である。
「見てたよ。お前は見てくれだけはいいからな。会って一週間,引っかかる男子もいるだろうな」 
 あっさり認めた上で今度はこちらからからかってやる。ありのまま戦法。
「開き直ってるし」
 今回は柚葉も意外とあっさりしている。だがしかし,
「見てくれも普通。成績もよく言って中の上。この上覗き魔に言われたくない」
 いつも通りの水掛け論。それでも柚葉はどこか楽しそうにしている。そんな柚葉を見ると僕も幼馴染としてまた彼女の先輩としてどこか安心し,自然と笑みこぼれてしまった。
 笑みをこぼした僕を見て彼女はSっ気を込める。
 「うーわ。覗き魔とか言われて喜んでる。陽葵気持ち悪っ」
 「うるさい!僕を貶されて喜ぶそこら辺の犬と一緒にするな。そこら辺ってどの辺かわからないけど…そんなことよりちょっとは先輩として崇め敬え」
 「先輩? どこがよ私がいなかったら友達いないくせに。ってか陽葵って犬じゃないの?」
 まったく容赦がない。
「友達の一人や二人はいる。人脈は大切だが友達を作るために高校生活を送っているわけじゃない。全く流行りだ,友達だのってこれだから女子は。それに僕はなじられて鼻息立ててなんかないし,リードもついてなければM属性もついていない」
 テンポよく会話が進む。いつも通りなのだが,いつのまにか聞きたいことから脱線していた。
 
「ふっ,相変わらず屁理屈ばっかり」
 どこがおかしいのかわからないが彼女は吹き出した。
「で,なんで途中で私って気が付かなかったの?」
 彼女は唐突に口にした。遅延したがようやく駅に着いた感じだ。遅延したのは僕の責か。責めてこの先遅延がないよう気を付けよう。
「気づいて逃げようとしたんだけど,最後まで気になってて気付いたら柚葉が追って来て現在に至ってるんだろ?」
 正直に答える。すると彼女は「そうね」とだけ答えて笑った。
「改めて謝るよ。ごめん。一緒にいた相沢ってやつが見ようって言いだして,止めたんだけどな。それでも覗いてしまった僕が悪い」
 本心からの謝罪をした。実際に告白した彼にも申し訳ないと思っている。もちろん柚葉にもだ。
「陽葵に度胸がないことぐらいわかってる。どうせそそのかされたんだろうってのもねっ」
 まだ言うか。
「さっきは今日のところはって言ったけどここのモンブランおいしかったし全部許してあげる。まあここ指定したの私だけど。この辺のお店で知ってるっていったらここしかなくて,一度入ってみたかったのよ」
 彼女はお姉さんの如くそう言う。こういう先輩面が少々気に障るが許してくれるのだ,ありがたい。
 
 許しを得たことで僕は口が滑らかになる。
「でもなかなかかっこよかったぞ。あの子」
「あー。うん。そーなんだけどウジウジしてたしね,言ったようにまだ一回しか会ったことなかったしね。まああの子ならモテそうだし,その気になれば出来るでしょう。彼女」
「相変わらずあっさりしてんのな。柚葉」
 昔からこういう感じだ。この整ったルックス故に言い寄ってくる男子も少なくなかったが,同じ理由で断っていたらしい。中学校のとき柚葉のモテエピソードは勿論知っていたが,僕は柚葉に対しそのエピソードを話題に出したことがなかった。理由は単純だ。エピソードの数が多いから。
 振られるのを分かって告白する方もすごいと思う。青春を謳歌する人らにとって彼らの気持ちも称えられるべきものなのだろう。
 しかし彼女はそんな彼らに追い打ちをかけるように続ける。
「だってそうでしょう一目惚れでうまくいくカップルなんて世の中に数組程度。外見で判断する刹那的なもの私は信じない」
 正論を仰る。
「僕にはそんな外見はないからわからないけどそうなんだろうな」
 正論のためか納得しどこか言いくるめられた言い方になってしまう。
 
 そして沈黙が訪れる。

先に口を開いたのは僕だった。
「断った理由は分かったけど…」
 この先を聞くのは躊躇われた。中学時代の柚葉を見ていればそんな素振りががなかったし,ましてやいつも僕といたことからその存在がいないことはわかっていた。しかし僕と柚葉には一年の空白の期間がある。お互い携帯を持ったのも高校生になってからなのでお互いに連絡も取っていなかった。
 
 しかし柚葉にはさっきの僕の話が聞こえていなかったのだろうか? また外の景色を眺めて何も言ってこない。
 
 沈黙に元通り…
 
 お会計の雰囲気だが,ここで帰るとなぜだか後悔してしまいそうな気持ちになっていた。
 やはり気になったことは聞くべきだ。

 僕はこの問。はたして何個目になるだろうか? という質問に下心を持っていたわけではない。後悔して今日の睡眠が良質なものでなくなるのが嫌だっただけだ。
 覚悟を決め言う。

「柚葉。―俺が彼氏って言ってたよな?」
 
 この言葉を口にした結果―後悔しこの後の学園生活に多大な支障をきたすことになるなんてこの時は思いもしなかった。
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