君と歩む物語~古の巫女の物語・番外編~

葛葉

文字の大きさ
上 下
30 / 40
蝶子と白狐

第十一話

しおりを挟む
「蝶子、こっち終わったぞ」
 凰鳴神社の裏の林に落神が出る。
 そう光留から連絡があり、蝶子は舞台の稽古が終わった後に神社へ向かったが、白狐ではなかった。
「そう」
「一応言っておくけど、こっちにも白狐はいなかった」
「……そう」
 明らかに落胆する蝶子。
 光留も蝶子から、白狐が蝶子の術の縛りが解け、狂暴化一歩手前で逃げ出したことは聞いている。
 蝶子が白狐をとても頼りにしていたのは、光留も知っているし、お互い信頼関係があったのも知っている。
 それこそ実父である月夜が嫉妬するほどだったのだ。
 だから蝶子の落ち込み具合もわからなくもないのだが、明るさの無い蝶子は調子が狂うし、普通に心配になる。
「少しうちで休んでくか? 愚痴くらいなら聞くけど」
「新婚家庭に世話になるほどじゃないわ」
 つい先日、光留は花南と結婚式を挙げた。
 蝶子が巫女舞を舞い、その門出を言祝いだ。まだ、白狐がいた時だ。
「……邪魔だと思ったら言わないよ。それに、花南も心配してるからな」
 光留が心配してくれているのは、蝶子にもわかっている。
 でも、幸せいっぱいの二人を見るのは、今は辛い。
「わたしも、あなた達みたいになれればよかったのに……」
「? どういう……」
「だって、わたしは巫女姫である以上、白狐のそばにはいられない」
 巫女姫としてなら本来、白狐を祓わなくてはいけない。
 でも、蝶子は白狐を祓いたくない。ずっとそばにいたい。
「巫女姫の縛りって、そんなに強かったか?」
「あなたは守り人。わたしの眷属に近いものだから、神様との縁は私以上に薄いわ。でも、巫女姫は違う。生まれる前からそういう縛りがある」
 巫女と守り人の関係は光留も承知しているが、神と巫女姫の関係は、正直光留も全部を理解しているわけではない。
 だけど、ふと思うのだ。
 蝶子が使った月夜の権能の込められた刀。あれで唯の不老不死の呪いを断つと同時に、彼女は月夜と共に逝った。おそらく、神の世には逝かなかっただろう。月夜がそれを許さないはずだし、そもそも二人は――。と思ったところで光留は「あ」と声を出す。
「何よ」
「そうだ、月夜の刀」
「それがなに?」
「忘れたのか? 月夜の権能は”縁切り”、それで鳳凰を斬った後どうなったと思う?」
「え、月夜が連れて……ああっ!!」
 蝶子もやっと気づいた。
「そうよね、あれでわたしを斬って貰えばわたしは、鳳凰神のところに行かなくてすむかもしれない……」
「そうだ。だけど今のままじゃダメだろ」
「ええ、そう。まずは白狐を神様に戻さないと……」
「出来るのか?」
「人間を神様に祀り上げることが出来るのよ。落神をもう一度神様として祀ってあげればいけるはず」
 八百万の神の国、それが日本という国だ。
 かつて平安京を脅かした大怨霊、人々を守護してきた陰陽師が神様として祀られているのだから、出来ないことはない。
「祀るならご神体が必要だな」
「それなら、わたしが何とかするわ」
「なら、あとは白狐を探すだけか」
「ええ、わたしの式に探してもらってる。見つけたらまた連絡するわ」
「ああ、わかった」
 一つの希望が見えた気がした。
 光留を守り人にしたときは、助かる反面、罪悪感もあって早々に契約を切ってしまおうかとも思ったけれど、今はなんだか頼もしい気がする。
「わたし、あなたのことちょっと見直したわ」
 蝶子には花南の件でいろいろ助けてもらった。そうでなくとも彼女は光留が自慢に思う巫女姫だ。
 少しでも彼女の役に立てたのなら良かった。絶対口にはしないけど。
「ちょっとだけかよ」
「そう、ちょっとよ。まぁでも、あなたがわたしの守り人でよかった」
 蝶子が素直に光留を守り人として褒めるのは珍しいから、光留もつられて照れる。
 きっと自分たちはこれからもずっとこうなのだろうと、思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ
恋愛
過去の恋愛から恋をすることに憶病になっていた河野梨音は、会社の次期社長である立花翔真が女性の告白を断っている場面に遭遇。 なりゆきで彼を助けることになり、お礼として食事に誘われた。 その時、お互いの恋愛について話しているうちに、梨音はトラウマになっている過去の出来事を翔真に打ち明けた。 話を聞いた翔真から恋のリハビリとして偽装恋愛を提案してきて、悩んだ末に受け入れた梨音。 偽恋人として一緒に過ごすうちに翔真の優しさに触れ、梨音の心にある想いが芽吹く。 だけど二人の関係は偽装恋愛でーーー。 *他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正版です。 性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...