古の巫女の物語

葛葉

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第三章

3話

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 ――来るな! お前のせいで僕はっ……!

 ごめんなさい、ごめんなさいっ!
 そんなつもりじゃなかったの。こんな怪我をさせたかったわけじゃないの。

 ――僕は、お前の守り人を降りる。

 頭に響くのは、恐怖と嫌悪の視線と冷たい声音。

 あの二人と全然違う!

 凰花の守り人である月夜は、その役目を誇りに思っていた。自ら進んで痛みを引き受け、彼女を守っていた。
 互いに想い合う理想の姿があった。
 惨めで情けなく死んだ愚かな巫女だった自分とは、全然違う。
 なんで、なんであたしはっ……!!
 ドス黒い感情で心が、魂が埋め尽くされていく。
 凰花の輝くような魂とは正反対の醜い黒で染まっていく。



 天里朱華は、第67代目の天里家当主の次女として生まれた。千年程前はこの地域一帯を治める豪族だったが、時代とともに廃れ、今ではいくつか土地を所有するだけになってしまったが、土着信仰の強い場所柄、霊力が高く、巫女になれる娘が生まれる家として重宝された。
 朱華が生まれた当時、日本は終戦直前だったこともあり、巫女の素質を持つ娘の誕生は大層喜ばれた。
 貴重な巫女を潰すわけにはいかない。そこで守り人に選ばれたのは、朱華の十歳年上の従兄だった。
 朱華が十五歳の時に正式な巫女筆頭になり、従兄と対従丿儀を行った。
「嫌だ。守り人なんてものだって本当はやりたくないのに、他人の血なんか飲めるか!」
 彼はそう言って朱華を拒絶した。代わりに朱華の血を染み込ませたお守りを持たせ、儀を完成させた。
 当時の日本は敗戦直後もあり、戦禍に巻き込まれた悪霊や落神がいたるところにいた。朱華は巫女としてそれらを祓い続けたが心身、霊力の消費は激しい。
 巫女姫と呼ばれるほど高い霊力もなければ、高度な技術も使えない。それでも朱華は巫女として戦い続けた。
 しかし、朱華の消耗は守り人である彼が肩代わりする。それを知らなかったわけではない。
「兄ちゃん!」
「ああ、あがっ……ああああーーッ!」
 落神との戦いの際に朱華は足に怪我を負った。当然、それを肩代わりするのは守り人である。
 結果、彼は足を失った。
「だから嫌だったんだ! ただ近いってだけで、なんで僕がお前なんかの身代わりになんて!!」
 彼の気持ちはわからなくもない。守り人は使い潰されてきた歴史がある。故に、自ら守り人に志願するものは少なく、機械的に選ばれる。
 優秀な巫女であれば、彼は足を失うことはなかったかもしれない。そんなことを思いながらも朱華は巫女という役目から逃げることは出来なかった。
 それからしばらくしたある日。
「え、兄ちゃん結婚するの?」
「ああ。あの人には随分世話になってる。こんな足の僕でもいいと言ってくれたんだ」
 表向き、不慮の事故で足を失ったことになっている彼を献身的に支えてくれていた女性がいた。彼女は彼にとって癒しだった。そんな二人が結ばれる。喜ばなければいけないのに、朱華は喜べなかった。
 (なんで、どうして……あたしだって、あたしだって、兄ちゃんが……っ!)
 憧れだった。幼い朱華にとって、彼はヒーローだった。けれど、朱華は彼を危険な目に合わせることしか出来ない。
「えっと、おめでとう。式はいつ?」
「まだ具体的な話は出てないけど、朱華、お前は来るな」
「え、なんで?」
「お前が来ると余計な誤解をされかねない。巫女と守り人なんて古びた因習のせいで僕はこんな身体になった。めでたい日に嫌なことを思い出したくないしな」
「それ、は……」
「だからまず、僕は、お前の守り人を降りる」
 そう言って、朱華の目の前でお守りを破り捨てた。
 朱華の心と一緒に。
 その日以降、彼は朱華の前に現れることなく、風の噂で大層美しい女性と結婚したと聞いた。
 一方で、守り人を失った朱華は、呪詛や怪我をその身にすべて抱えることになった。
「痛い……いたい……。つらいよ……苦しいよ…………」
 毎晩悪夢に魘され、朱華の心身は限界だった。
 新たな守り人も見つからず、ただひたすら耐える日々。
 それでも役目から逃げることも出来ないある日、朱華は落神と対峙していた。
 人の形を保っていることから、元は名のある神だ。
 正直、朱華の手に余る相手だった。
『巫女ノ肉……。ダガ、オマエ不味ソウ』
「悪かったわね、不味そうで」
 落神や悪霊から受けた傷や呪詛で、魂は汚れ始めていた。
 巫女姫のように強く、美しい魂であれば、巫女は死んだ後も神の世で幸福になれると言われている。
 お伽噺のようなものであったが、多くの巫女は信じていた。朱華もその一人だ。
 (倒し切るのは無理。あたしの力じゃ封印が精一杯ね……。いえ、一つだけ方法がある)
 朱華の身体はボロボロだった。
 例え落神を倒せても、邪気に蝕まれた身体と魂では、神の世へはいけない。
 (あたし、いっぱい頑張ったから、もういいよね……)
『オマエ不味ソウ、デモ、若イ女ノ血ハ、ゴチソウ』
「なら、食べてみる?」
 朱華の挑発に落神は簡単に乗った。
「さあ、あたしの中にいらっしゃい」
 朱華は腕を広げて落神を迎える。
 首筋に激痛が走った。
「ぐっ、ぁ……ふ……落神、封印……っ!!」
 朱華は、自分の身体の中に落神を封じた。
「はぁ、はぁ……はっ、ぁ……はやく……い、かないと……」
 噛まれた場所から血が止まらない。
 だが、まだ死ねない。確実に死ねる場所。
 (学校の、屋上……)
 出来たばかりの学校。朱華の学び舎は、この町で一番高い建物だ。朱華は身体を引き摺って学校の屋上へ向かう。
「落神と心中なんて、最悪……」
 屋上に辿り着き、朱華はその身を投げ出した。
 身体が地面に叩きつけられるまでが、ゆっくりな気がした。
 ぐしゃり、誰もいない校庭に鈍い音が響く。
 あらぬ方向に向いた首と手足。普通なら死んでいる。だけど、朱華の中に封じられた落神が一瞬だけ朱華の意識を引き上げる。
 (いたい……いたい……いやだ、死にたくない……死にたく、ない……)
 朱華の目から涙が溢れる。
 (あたしの人生、なんだったの……? あたしだって、あたしだって……)
 同級生達のように恋がしたかった。
 温かな場所で眠りたかった。
 (ひとりは、いやだよ……さむいよ……さびし、ぃ……ょ……)
 朱華の意識はそこで絶えた。
 十七歳になって、すぐのことだった。

『あれ、あたし……』
 気がつくと朱華は、屋上に立っていた。
 下を見ても朱華の遺体はない。あれからどうなったのか。
『落神は……倒せたのね……』
 最後に対峙した落神の気配はすでに無く、朱華の死と同時に滅したようだ。
 そのことに安堵しつつも、現世に留まる理由がわからなかった。
『死にたくないって、思っちゃったからかな……?』
 死への恐怖は、生物であれば真っ当な感情だ。巫女とて例外ではない。ただ、神様に近いところにいるからか、死後の世界に不安はない。
 だが、朱華は神の世に逝けなかった。
 役目に殉じて自決する巫女は稀にいる。けれど、現世に留まることは滅多にない。皆、巫女という役目に誇りを持っていて、神様を信じているからだ。
 しかし、朱華は最期の最期で巫女になったことを後悔した。
『そもそも、あたしが望んだわけじゃないし。周りが勝手に決めただけだし……』
 そう思うと、黒いモヤモヤした感情が、朱華の魂に忍び寄る。
『そうよ。あの人が守り人になったのも、あたしが死んだのも、全部、全部周りが押し付けた事じゃない……』
 普通の女学生のように学校で友達とおしゃべりしたり、恋をして、いつか素敵な男性と結婚して、温かな家庭を築く。そんな当たり前の生活は、巫女として生きる以上難しかった。
 学校には通わせて貰えたが、放課後になれば落神や悪霊を祓い、休みの日には厳しい修業をこなして。ひたすら顔も知らない神様の為に尽くす日々。
 そんな日常に嫌気が差していた。同世代の少女達が羨ましくて嫉妬した。
 巫女失格だ。そもそも、巫女なんて向いてなかったのかもしれない。
『皆、皆……呪われてしまえ……』
 暗く澱んだ瞳が校舎を見据える。巫女としての力は死んだ時に失ったが、悪霊になれば呪うことが出来る。
 
「駄目よ」

 学校そのものに呪いをかけようとした朱華を、止める声がした。
 振り返れば赤い艷やかな髪と、澄んだ翡翠色の瞳の美しい少女が立っていた。
『誰よあんた』
「私は鳳凰唯。あなたと同じ巫女よ」
『巫女……?』
 しかし、朱華には覚えがなかった。巫女筆頭として、凰鳴神社に所属する巫女の顔は全員覚えているが、彼女は初めて見る顔だった。
「ええ。と言っても随分昔の話だけれど」
 唯は自嘲気味に笑う。
『そう。説教しに来たの? それともあたしを祓うつもり?』
「いいえ。私にあなたを説教する資格は無いもの。祓うのではなく、送りたいだけ。あなたはまだ、間に合う。まだ綺麗な魂が残っているもの」
 唯の表情は、優しく穏やかで、その魂は美しい輝きを放っている。朱華が随分昔に失くしてしまったものを持っていた。
『お前に……お前に何がわかるというの! 何も知らないくせに! そんなに綺麗な魂を持って、神様に愛されているあんたに、何がわかるものか!!』
 屈辱だった。巫女として忠実に役目を果たしていただけなのに、悪霊になりかけている自分。対して無垢で純粋な色と輝きを持つ唯。
 この差はいったいなんだというのか。生まれ持った素質なのか、あるいは巫女姫の特権だとでも言うのか。
「……ごめんなさい。あなたのことは、何一つわからない」
 唯は申し訳無さそうに俯く。それが朱華の神経を逆撫でする。
「でも、私にも不公平だということも、人を恨む気持ちも無い訳では無いの」
 唯は無表情で校舎を見つめる。
「なんの憂いもなく人を好きになる彼女達が、羨ましいと思ったことも。好きな人に何も出来ず、ただ死ぬのを傍観することしかできなかった自分も、誰も助けてくれない理不尽さも、神様の身勝手なところも、嫌いよ。何もかも投げ出してしまいたくなることなんて一度や二度じゃない」
 唯はもう一度朱華を見る。それから苦笑する。
「巫女失格ね。私は、あなたほど真面目に役目をこなせない。ただ、好きな人と一緒にいたかっただけで、あの人を縛り付けてしまった。私がただの妹であれば、死ぬことはなかった」
 唯の後悔や懺悔に朱華は『馬鹿馬鹿しい』と吐き捨てる。
『それでもあんたは、神様に愛されてる』
「そうみたい。でも、あなたもちゃんと愛されているわ。でなければあなたはここにいない。悪霊になるのを踏みとどまっているのは、神様があなたを掬い上げたいからよ」
 唯は朱華の胸を指差す。
「自信を持って。あなた、とても可愛くて綺麗だもの。きっと神様の世界で幸せになれるわ」
 にこりと唯は微笑む。お世辞や嫌味でもなく、ただの事実だと言うように。
『あんたいったい、なんなのよ……』
「巫女……だったもののなれの果て。神様に呪われた無様な女よ」
『神様に呪われた……?』
「そう、私もあなたみたいに死のうとしたことがあるの。でもね、死なせてくれなかった。死なないようにされてしまったの」
 凰鳴神社の祭神、鳳凰は死と再生を司る。
 その権能を使えば、人間を不老不死にすることなど容易いだろう。だけど、望まない人間にとっては、地獄でしかない。
『……ほんと、無様ね。そこまでして死なないなんて、みっともない』
 朱華の切りつけるような言葉にも、唯は切なさそうに笑うだけだ。
「ええ、あなたの言う通りよ。惨めでみっともなく、生かされている。きっとあの人は、自分が傷ついた分だけ、傷を私に与えたいのかも。なら、私はそれを受け入る。あの人が遺してくれたものだから」
 そう言った唯は、傷つきながらも強く、美しい輝きがあった。
「あの人が、私を生かし続ける限り、私はこの役目を全うしたい。あなたを送りたい理由はそれだけよ」
 神様のためでなく、愛した男のためにするのだと、唯は言った。
 神様への酷い裏切りだ。
 (そんな女にさえ勝てないなんて……)
 だから朱華は決めた。いつかこの女を呪い殺してやろうと。
『あなた、随分力の強い巫女だけど、今のあたしを送るなんて出来ないでしょう』
「確かに、そうね」
 嫉妬と怨嗟で染まりつつある魂を掬い上げるには、一度それらを洗い落とさなくてはならない。
 完全に落とし切るにはそれなりの時間が必要だ。
『だったら、あたしと友達にならない?』
「……」
 唯はきょとんと目を丸くする。
「いいの? あなた、私のこと嫌いでしょう?」
『嫌いよ。でも、ここまで落ちたあたしの邪念や邪気を洗い流すのは時間と根気が必要よね?』
 朱華の言う通り、唯が歴代でもっとも強い巫女姫だとしても、魂を侵食する邪念や邪気を祓い落とすにはそれ相応の準備がいる。一つでも間違えば朱華は悪霊になるか、魂を壊すことになる。
「そうね。あなたがそれでいいなら、お友達になってくれたら嬉しい」
『良かった。これからよろしくね、唯ちゃん』
「ええ。よろしくお願いします、朱華ちゃん」
 それから定期的に唯は朱華の元を訪れた。唯の祓詞で邪気は少しずつ落とされていったが、根深い部分にも侵食が進んでいたせいか、五十年近く経っても祓いきれていなかった。
 そんなある日。
『ええ!? 唯ちゃん、来年からうちの学校通うの?』
「うん。そしたら朱華ちゃんは先輩ね」
 うふふと無邪気に笑う唯に、朱華は訝しげな視線を向ける。
『なんでまた……』
「会いたい人がいるの。彼も来年からこの学校に通うんですって」
『会いたい人って、恋でもしたの~?』
「そう言うのじゃ、ないけど。あの人の生まれ変わりなの」
 唯は何処かに住んでいるだろう彼を想う。
『生まれ変わりなら、唯ちゃんのことなんて……』
「わかってるわ。だから、見守るだけでいいの。あの人が静かに眠っているなら、そっとしておきたい」
『まあ、気持ちはわかるけど、生まれ変わり君が唯ちゃんのこと好きになったらどうするの?』
「え……」
 そんなこと考えていなかった。
 今まで誰かに好意を向けられても、それは巫女姫だからであって恋ではない。――彼女に向けられた恋愛感情は、月夜がことごとく叩き潰していた事など知る由もないからなのだが。――だから、自分が月夜以外を好きになる未来が見えなくて、考えてしまう。
「そんなことあり得るの?」
『唯ちゃんは今、世界中の女の子を敵に回しました』
「えっ、えっ!?」
 慌てる唯の表情は面白く、こういうところが魅力的に映るのだろう。
『無自覚なのがいっそ罪よね……』
「そ、そうかしら? ……でも、仮に好きになってもらっても無理よ。私は、どうしてもあの人を見てしまう。そんなのは、あの人にも、彼に失礼よ。だから、出来るだけ距離を置くわ」
 そういった通り、唯は光留と良くも悪くも同じクラスとなり、彼女は光留を徹底的に遠ざけようとした。
 しかし、光留が落神に襲われている場面を偶然目撃してしまい、助けてしまった。そこから予定が狂い始めた。
 唯が、光留に心を許し始めたのだ。もちろん恋ではない。
 けれど、光留の心を確かに攫って行ってしまった。
 光留は唯の理不尽な接し方にも何か理由があると、彼なりに自分の身に起きている変化と唯の状況を推測し、彼女を助けたいと自ら守り人に志願した。たとえ、報われない思いだとしても。
 なんとも泣かせる話だと朱華は内心鼻で嗤った。
 だから思ったのだ。二人が結ばれることは決してない。けれど、唯が光留の想いに応えられない以上、二人は苦しむことになる。
 その様を嗤ってやろうと。
 我ながら悪趣味だと思う。けれど、朱華にはそれほどまでに想ってくれる人はいなかった。
 憎らしい。
 唯をどん底に陥れたい。朱華は光留の想いを利用するためだけに近づいた。
 しかし、月夜が目覚めたことで、状況は変わった。
 月夜と光留の間でどんなことが起きたのか、朱華にはわからないが、少なくとも月夜は朱華を敵とみなしたはずだ。
 唯が朱華を信じている間は何も起きないだろうが、時間の問題だろう。
 追い詰められた朱華は唯の家を飛び出したのはいいものの、憑いた人間を起点にあまり遠くへは行けない。唯の家から見えた森までが移動の限界だった。
『冗談じゃないわ! どうして、どうしてあの男が出てくるのよ! ありえない、ありえない! しかもあの霊力、人間じゃない……っ!』
 月夜が出てきたことで、光留がどうなるかなんてどうでもいい。ただ、唯の幸せそうな顔を見るのが嫌だった。
 ままならない状況に不満を募らせ、森の中をウロウロしているとふと、落神の気配を感じた。
『ホウ、巫女ノ悪霊カ』
『失礼ね、まだ悪霊じゃないわ』
 声のした方を見れば、白い布で顔を隠した落神が立っていた。
『落神があたしに何の用?』
『オ前ニ興味ハナイ。ダガ、オ前ガ憑イテイル人間ニ興味ガアル』
『みっちゃんに……?』
 落神はニィっと口角を上げて笑う。
『オ前ハ、アノ女ガ憎イノダロウ? アノ女ガ愛サレテイルノガ気ニイラナイ』
『何のこと?』
 朱華は惚ける。
 落神の指摘は事実だが、朱華は”唯を案じている”と表向きは見せている。全て唯を欺くために。
『アノ女ガ、愛スル者ニ裏切ラレ、殺サレル瞬間ヲ見タクハ無イカ?』
 そんなの、見たいに決まっている。だが、唯は不老不死だ。
 彼女を殺せる相手を、朱華は唯から聞かされ、知っている。
『……まさか』
『我ガ主ノ為ニ、アノ男ガ欲シイ』
 朱華は落神が接触してきた理由を察した。
 落神の言う主が、唯を唯一殺すことのできる人物なら、彼女の為の守り人を欲する理由もわかる。
 彼女が本来負うはずの魂の傷を、光留に肩代わりさせるつもりだ。
『あたしにみっちゃんを唆せ、ってこと?』
『出来ルナラ』
 朱華は落神の挑発的な態度にカチンとくる。
『何それ、まるであたしが役立たずみたい』
 事実、死して巫女の力を失った朱華はほとんど何もできないのだが。
 それでも、唯の破滅を見られるなら、光留を唆すことくらい出来る。
 何せ、光留は唯が好きなのだ。唯の為とでも言えば、どうとでもなる。
『我ガ主ハ不要ダト言ッタガ、アノ霊力ハ我ガ主ニ相応シイ。キット、本人ヲ見レバ考エヲ改メルダロウ』
『でも、月夜が目覚めたわ。彼はあの女を過保護にしているようだけど。みっちゃんとも仲いいみたいだし』
『ダトシテモ、所詮過去ノ人間。表ニ出ラレル時間ハソウ長クナイ』
 確かに、月夜は光留という人間に生まれ変わっている。元は何であれ、生存を許されているのは光留であって、月夜ではない。
 過去の残像が出しゃばることは本来あり得ないのだから。
 あくまでも身体の主導権を握っているのは光留で、月夜は光留の好意によって一時的に借りているに過ぎない。たとえ、なり替わることが出来たとしても、その負荷は必ず身体にかかる。長く生きることは出来ない。
『確かに、そうね。みっちゃんがその人の守り人になれば、多少は月夜が大人しくなるだろうし、あの女もかつての自分の兄と戦うなんて想像もつかないでしょう。いいわ、あたしが彼をあなたの主の元に連れて行ってあげる』
 
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