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番外編
花月①
しおりを挟む僕には、生まれた時から前世と呼ばれる記憶があった。
羽里花月は、とある地方に生まれたごく平凡な男の子だ。
公務員の父親と保育士の母親を持つ一人っ子。
現代ではそう珍しくない家族構成。
ただ一点。僕が他の子と違う点があるとすれば、前世の記憶があったことだ。
(まさか男の子に生まれ変わるなんて……)
人生は本当に何が起きるかわからない。
転生する仕組みは未知なものが多く、種族や性別、もちろん国籍だって選べない。そんなことは分かってはいたけれど、千年以上女をしていただけに多少はショックだった。
(いえ、今更性別で嘆いても仕方ないのだけれど……)
とにかくボロが出ないように、男の子の言葉遣いを必死に覚えた乳幼児期。
ある程度成長して、周りをみる余裕が出来ると今が前世から数十年経っていることが分かった。
「あら、この女優さん、御年80歳超えるのに、また凄い賞を取ったのねぇ」
母の言葉でテレビを見ると「紫木菟揚羽、女優賞で最高齢!」という見出しでインタビューを受けていたお婆さんがいた。
(揚羽……! 凄い……! こんなに立派になって……)
前世で“私”が産んだ娘の生まれ変わり。そして、前世の“私”を救ってくれた子は、今や女優として大成し、海外でも活躍する大御所女優。今は我が子では無いけれど、かつて縁があった身としてはこんなに誇らしいことはない!
感極まって泣いているとお母さんが「あらあら、どうしたの?」と抱っこしてくれる。
当然、前世の話なんか出来るはずもなく僕は、「このおばあちゃんすごいねぇ」と誤魔化した。
「そうねぇ。花月も俳優さんになる? 花月のお顔はお父さんのお母さん、お婆さんに似てとっても綺麗だもの」
男の子に綺麗はいかがなものかと思いつつも、僕には探したい人がいる。
だから芸能人になるのはひとつの有効な手かもしれない。
だけど、それは何か違うと思った。
僕は、将来何になりたいのだろう……。
そう思っていると、お母さんが苦笑する。
「そうよね、まだわかんないわよねぇ」
さあ、テレビはおしまい。とテレビを消された。
そう、僕には探したい人がいる。
前世の僕は、実兄と恋に落ち、そして彼は僕の目の前で殺された。絶望して自害しようとして、神様から不老不死の呪いを受けた。
僕が死ぬ方法はただひとつ。娘に殺されること。
正確に言えば、愛した人の前世に纏わるものを娘である彼女が持っていて、それに斬られること。けれど娘は霊力が高いだけの普通の女の子。
長い時を生きる“私”と彼女の時間軸は合わない。それでも、彼女は何度も生まれ変わって“私”を追いかけてきて、救おうとしてくれた。
けれども“私”は、自分が救われるためだけに、娘に親殺しの罪を背負わせたくなかった。せめて彼女と罪を共に背負う守り人がいなければ、魂の負荷は彼女独りで背負い、生まれ変わることすらできなくなる。
そうして逃げ続けて、気がつけば千年以上も生きていた。そして“私”は運命の人と再会する。
“槻夜光留”――彼は、“私”の守り人であり、最愛の兄であり、恋人だった人の生まれ変わりだった。
何度も会いたいと思っていたはずなのに、いざ出会ってみると兄様とはあまり似ていなかった。顔と声だけは同じだったけれど、彼は、ごく普通の16歳の男の子だった。
そんな彼を“私”の業に巻き込みたくなくて、“私”は彼に嫌われようと、彼の好意や矜持を何度も傷つけて遠ざけようとした。
でも、彼は真っ直ぐ“私”にぶつかってきた。
不器用で、仏頂面で、時々寂しそうな顔をする男の子。
それが“私”から見た“槻夜光留”という少年だった。
彼は、優しすぎた。
“私”を救う為に揚羽の守り人になり、前世の自分に命を渡して、“私”達と運命を共にした。
ボロボロな彼の魂がどれくらいで癒えるのかなんてわからない。
だけど、優しい彼を“私”達の都合に巻き込んでしまった。謝っても許されないのは分かっている。
でも、だからこそ転生後は彼を幸せにしたくて、兄様と誓った。
この美しい魂を守り、慈しみ、愛して、幸せにしようと。
彼の魂は兄様が連れて逝ったから、おそらく兄様と同時期か、近くに生まれる可能性が高い。
“私”と世代がズレる可能性は十分にあるけれど、諦めたくはなかった。
幸い、前世で“私”は巫女姫と呼ばれるほど高い霊力を有していた。今世でも、全盛期程ではないけれどそれなりに高い霊力を持ち、魂を視る事が出来る。
多少形が変わっていても、見ればわかるはずだ。
成長し、幼稚園、小中高と探したけれど僕は、目的の人に出会うことはなかった。
弁護士になろうと思ったのは、中学の頃。
彼、もしくは彼女は今どんな生活を送っているのかわからない。
女の子なら例え記憶が無くても口説き落として結婚という手段が取れる。だけど同性だった場合、まだ日本は同性婚については制約が多い。
そもそも、年齢だって同世代とは限らない。その場合、養子縁組だろうか……。
色々考えた結果、法律に詳しくなれるし、いざとなったら守れる武器となるものが欲しかった。
収入だっていいし、きっと苦労はさせない。そんな不純な気持ちを抱きながら、地元を出て法律の勉強をするべく都心の大学に進学した。
大学の近くにアパートを借りて、一人暮らしを始めて一か月が経つ頃。
僕は大学内で時々妙な霊力のざわめきを覚えるようになった。
(……? まただ。なんだか懐かしい霊力な気がする)
もしかしたら……。そう思って周りを見てみるけれど、それらしい姿は見つけられなかった。
(まさか、ね……)
いたら嬉しい。けど、キャンパスは広く人も多くて、悪霊や落神もたまに見かける。それに反応したのかもしれないと、深く追及はしなかった。
それからしばらく経ったころ、調べ物をするために図書館へ向かった。
この大学の図書館は一般にも公開されているから、平日でも学生以外をちらほら見かける。
僕は法律系の図書が保管されている3階で本を借りると、不意にざわざわと今まで以上に霊力がおかしな反応をする。
(何、これ……めちゃくちゃ強い霊力なんだけど!?)
下手すると全盛期の僕よりも強い霊力だ。しかも、暴走直前の。
この霊力が暴走したら……考えるだけでも恐ろしくて、僕は慌てて階下へ降りると、階段から見えた文学書のコーナーにひとりの青年が苦しそうに蹲っていた。
(あの人!!)
僕は彼に慌てて駆け寄った。
「っ、大丈夫ですか!?」
抱き起そうとする前に、服の袖を掴まれて、彼と目が合った。
ドクリと心臓が跳ねた。
(まさかっ……)
もしかして、彼なのだろうか。呼びかけようとしたけれど、青年は苦しそうに胸を掴んだまま気を失った。
「ちょ、ちょっと……」
とにかく霊力の暴走を抑えなければ。
霊力の奔流で魂が見えない。
僕は小さく呪文を唱えると、徐々に荒れ狂っていた霊力が落ち着いていく。
そして、ようやく見えた。彼は間違いなく――。
「“槻夜”君……」
やっと、やっと会えた……!
嬉しくて、涙が溢れる。でも、まだ油断するのは早い。
彼は僕の力で一時的に霊力を抑え込んでいるに過ぎない。もう少し強力な術をかけたいけれど、ここだと人の目が多すぎる。
図書館を出る際に、彼を知っているかと司書さんに聞けば、よく来る常連さんだと教えてもらった。
なんでも作家をしているとかで、双子のお兄さんがこの大学に通っていて、よく2人でいるのを見かけるということだった。
司書さんにお兄さんへの連絡をお願いして、僕は彼を医務室へ運んだ。
本当は、救急車の方がいいのだろうけど、彼の場合は病気じゃないし、原因不明と言われるのがオチだ。
とにかく休める場所へ。ただそれだけだった。
「羽宮、光留……」
医務室では彼の身元が知りたいとのことだったので、申し訳ないけれど彼の持ち物を探らせてもらった。
学生じゃないのか、学生証の代わりに持っていたのは財布と免許証と、図書館の貸し出しカードとスマートフォン。
スマートフォンには当たり前だけど、ロックがかかっていてパスが分からず困った。
司書さんには彼を医務室に連れて行くことを言ってあるから、そのうち彼のお兄さんが迎えに来るだろう。
僕はもう一度、ベッドで眠る彼を見る。
「間違いなく、“槻夜”君……だ」
問題なのは彼が僕を覚えているかどうか。
それに、魂の状態は、転生前よりも擦り切れているようにも見えた。
(こんなにボロボロで、ここまで生きてるなんて……)
奇跡に近い。制御できないほどの霊力過多でありながら、一時的にだけれど霊力を抑える術が施されている。
彼の魂は相変わらず欠けていて、その欠けた部分は恐らく兄様が持っているのだろう。
(この術の痕跡は、恐らく兄様のもの……)
ということは、彼の双子の兄というのは、恐らく兄様なのだろう。
そこまで推測し終わると、彼が目覚めた。
「ん……あれ……?」
「あ、良かった。気が付きました?」
免許証の生年月日から、彼が僕よりも一つ上なのはわかっている。
何より初対面なので、出来るだけ丁寧な言葉遣いを心掛けた。
まだ寝起きでぼんやりしているのか、微熱があるせいなのか、彼は舌足らずな言葉で呟く。
「……ほう、おう……?」
驚いた。“鳳凰唯”という名前を知っている人は、現代なら片手で数えるほどもいないだろう。他ならぬ、僕の前世の名前のひとつを。それを知っているということは……。
彼はパチパチと瞬きして、ぽかんと口を開ける。
「え……。どちらさま……?」
椅子から滑り落ちるかと思った。
いや、そんなことはどうでもいい。
「槻夜、くん……?」
僕が“男”だったことが意外だったのか、本当にわからなかったのか。
あれだけ熱烈に告白された側としてはなんだか切ない気持ちでいっぱいだ!
とはいえ、驚くのも致し方ない。
僕だって“男”に生まれ変わるなんて想定外だったからね!
とにかく、これで彼が前世を覚えているということがわかった。
呆ける彼に自己紹介をすると、医務室の扉が開いた。
「光留! お前また倒れたって……」
入ってきた人と、目が合った。
「月花……」
顔も声も前世と全然違う。
だけど、彼は間違いなく“私”が愛した人だ。たまらなくなって、身体が勝手に動いた。
「っ、月夜様……!」
抱き締め返された温もりに、涙が溢れる。
ずっと、ずっと会いたかった。
気持ちが昂っていて、僕はその時気付けなかった。
彼が、どんな気持ちでこの光景を見ているかなんて。
自分を、優先してしまった……。
あれだけ彼の幸せを願っていたはずなのに、間違えた……。
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