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第三十六話
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僕の名前は羽里花月留。小学一年生になりました!
僕にはお父様とお父さんとパパがいます。
僕のお名前は3人のお名前を貰って付けてくれたそうです。皆、僕が大好きって事なんだって!
学校のお友達は、父親が3人いるのはおかしいって言うけど、僕は3人が大好き。大切な家族です。
「花月留、本当にそっちで大丈夫?」
今日はお父さんとお出かけです!
僕の新しい服買ってくれるんだって! 好きなの選んでいいよっていうから、いっぱい選んできた。
だけどお父さんちょっと心配そう。なんで?
「これがいい!」
「まあ、スカートじゃないのは別にいいんだけど。服の好み、花月に似たな。いや、花月に顔が似てきたし……。絶対美人になるから、やっぱ今のままがいいか。今でも十分美少女だけど……」
なんか、ブツブツ言ってるけど、お父さんはちゃんと買ってくれました!
その後おもちゃや本や、お父様とパパのお土産買って、おやつにしようってお話してたら何だか急に……。
「お父さん……」
「ん? どうした?」
「おトイレ……」
お父さん、慌てて僕を抱っこしておトイレに連れて行ってくれたけど。
「困ります! 男の子を女子トイレに入れては!」
お父さんが知らない女の人に怒られた。
「いや、確かに服は男の子っぽいけど、花月留は女の子です」
お父さんもめちゃくちゃ怒ってる。
「最近はユニセックスは服も多いですけど、この子はどう見たって男の子でしょう?」
「いや、本当に女の子ですって! そもそも、うちのお姫様を男子トイレになんて、何かあった場合そちらは対応できるんですか?」
「はぁ? あなた男親でしょう。あなたに女の子の何が分かるって言うんです? そちらこそ、男の子を女子トイレに入れようだなんて、何かあったら責任とれるんです?」
「だから花月留は女の子なんですって!」
お父さん達は、僕が男の子っぽい言葉遣いしても、男の子みたいな服着ても、可愛いって言ってくれるけど、たまにこういうことがあるんだよね。
「お父さん、僕、ここで脱いだ方がいい?」
お父さんが僕のことで怒られるのが嫌だからそう言ったら、お父さん、物凄い焦ったように抱き締めてくれた。
「花月留はそんなことしなくていい! 花月留が女の子なのはちゃんとわかってるし、ここで服脱がせて花月留を傷つけるとか絶対嫌だし、そもそも月夜も花月もそんなこと許さない。それに、子どもにこんなこと言わせる方がどうかしている」
お父さんは女の人を睨みつける。
お父さん、滅多に怒らないけど、とっても美形だから迫力凄いんだ。お父様も怒ると怖いけど、パパが言うには一番怒らせたらいけないのはお父さんなんだって。
お父さんを怒ってた女の人も、顔を青ざめさせている。
「っ、とにかく、男の子はやめてください!」
「だから、この子は女の子だっつってんだろうが!」
お父さんは僕のために怒ってくれるけど、ごめんなさい、そろそろ限界かも……。
「お父さん……、出ちゃいそう……」
お父さんはハッとしたように僕を降ろしてくれた。
「ここは気にしなくていいから、行っておいで」
「男子トイレ?」
「いや、ちゃんと女子トイレに行きなさい。じゃないと俺が月夜や花月に叱られる」
僕は頷くと、急いで女子トイレに向かった。
すると、女の人と一緒にいた女の子もトイレに入って来た。
「ねえ、あなた本当に女の子?」
「そうだよ」
トイレのドアを開けて中に入ろうとすると、その子も何故かついてくる。
「ちょっと……」
「いいからいいから。あなたのお父さん、とってもカッコいい人だね」
「うん、よく言われる」
お父様とお父さんはおんなじお顔だけど、パパも2人とは違う美形だから、運動会とかだとみんな羨ましいって言ってくれる。
そんなことより、早く出てくれないかな。
「ねえ、早く脱がないと漏れちゃうよ?」
言われると本当に漏れそうで、嫌だったけど、トイレのドアは閉まってるし、うん。
僕は覚悟を決めた。
「ママー、あの子ちゃんと女の子だったよー!」
僕は泣きながらお父さんのところに戻って、さっきの話をした。
「ごめん、嫌な思いさせたな」
お父さんは抱き締めて頭を撫でてくれた。
「うちの子を疑うのは仕方ないにしても、子どもをけしかけるのはやりすぎでは?」
「はぁ? うちの子が危ない目に合ったらどうするのよ。確かめるのは当然のことでしょう? でも、本当に女の子で良かったわぁ」
厭味ったらしい女の人は、ニヤニヤと笑う。
「……そうですか。では、こちらもそれなりの対処を取らせて頂いてもいいということですね?」
「は? 何言って……」
「犯罪として被害届を出せなくても、社会的地位を失わせることは出来るんですよ。今の時代って、ネットっていう便利なものがありますし」
言いながらお父さんはスマホを弄り始める。
「あなた、何して……」
「花月留の父親のひとりは、弁護士なんですよ。このことを連絡したら、すぐに法的処置をとるって言ってました。ついでに、先ほどの会話も録音させて頂いているので、それが証拠になるそうです」
「い、いつの間に……!?」
「俺、職業柄録音することが癖になってるんですよね。あと、ここの少し手前の階段に監視カメラがあるのはご存じですか? そこにも俺達の姿が映ってますよ」
お父さんが仄暗い表情を浮かべながら、女の人をにっこりを見つめた。
「疑うのは結構ですが、子どもを巻き込むようなことはやめてくださいね。行こうか、花月留。後のことは花月に任せれば大丈夫だと思うし」
「うん……」
そう言って、お父さんは僕を抱っこしたまま女の人たちを無視してお店を出た。
「ちょっと遅くなったけど、なんか甘いもん食べていこう。花月留の好きなチョコレートケーキの美味しい店がこの辺にあるんだよ」
「そうなの?」
「うん。月夜ももう少したら来るって言ってたし」
「お父様、お仕事忙しいんじゃ……」
お父様とお父さんはおうちでお仕事していることが多いけど、お父様は今日は抜けられない株主総会? があるとかで、行けないかもって言ってて、お父さんは脱稿明け? で今日ちょうど空いているかって僕を連れ出してくれた。
本当は、みんなで行きたかったけど、パパも今日は研修で行けなかったこと悔しそうにしていた。
「うん。俺と花月留がデートするの、よっぽど羨ましかったんだろうな」
お父さんがくすくす笑っているのが少し擽ったい。
お父さんと2人でお店に入って、大好きなチョコレートケーキを頼んだ。お父さんも甘いもの好きだから、シフォンケーキとモンブランとティラミスで迷っていたけど、最終的にシフォンケーキを頼んでいた。
「光留、花月留!」
「月夜ー、こっち!」
2人でケーキを食べていたら、お父様が来てくれた。
「仕事はいいのか?」
「ああ、やっと区切りがついたからな。花月留、付いてるぞ」
ほっぺに付いていたチョコクリームを、お父様が取ってくれた。
「月夜は何食う?」
「そうだな……」
お父様は僕たちのお皿とメニュー表を見比べてから苦笑する。
「じゃあ、ティラミスにしようかな」
注文して、お父様はティラミスを一切れ切り取ると、僕に一口くれた。
「ん、美味しい!」
「良かった。ほら、光留も」
「ん。あ、美味い」
お父様はもう一口ティラミスを切り分けると、今度はお父さんに食べさせてあげていた。
それを周りにいた女の人たちがチラチラと頬を染めながら見ている。
お父様もお父さんもアイドルみたいに綺麗なお顔だから、家族でお出かけするといっつもこんな感じ。
お父様たちが食べさせあいっこするのもいつものことなんだけど。
「ねえ、見た? 美形同士のイチャイチャ」
「ヤバい、国宝級よね。もっと見ていたいし、顔が似てるってことは、双子かな?」
「一緒にいるのはお子さん? え、どっちが産んだの? それとも連れ子かしら?」
なんて声が聞こえてくる。
お父様たちにも消えているだろうけど、2人はいつも知らんぷりしている。
「それで、花月留の服は買えたのか?」
「うん。でさ、これ、花月と花月留に着せたら絶対可愛いと思うんだよね」
お父さんは僕の服が入っているのとは別の袋からごそごそと服を出す。
「ほう、ピンクか。悪くない。フリルやレースも愛らしいな」
「だろ? 花月も花月留と一緒なら絶対着てくれるだろうし、花月留のお姫様姿も見たいし」
確かに、お父さんの選んでくれたフリフリのワンピース可愛い。パパは時々女の人に間違われるくらい綺麗だから、きっとパパのワンピースも可愛い。
「花月留もうちだとこういうの着てくれるし、普段から着てもいいけど、誘拐されたら困るし」
「確かに、うちの花月留の可愛さは世界一だからな」
2人とも僕を褒めてくれているんだけど、なんか規模が大きい。いつものことだけど。
それからパパにお土産買って、僕とお父様とお父さんとおうちに帰る。
夕飯の支度をお父さんと一緒にしていると、パパが帰ってきてくれた。
「花月留君! 貞操は大丈夫ですか? 酷いことされませんでしたか!?」
パパは僕を見るなり急いでぎゅっとしてくれた。
貞操ってなんだろう?
「お帰り、花月」
「光留君! 君も大丈夫ですか? 普段ほわほわしてて危なっかしいですし、おばさんに変なことされませんでした?」
お父さんにもぎゅっとして、パパはお父さんに頭なでなでしてもらっている。
「いや、俺は平気だけど。それより、いろいろありがとな」
「いえいえ、僕の大事な娘と旦那様の危機ですから、制裁と報復は当たり前です。ちゃんと手続きしておきましたよ」
「さっすが俺達の旦那様。頼りになるなぁ」
パパは楽しそうに教えてくれるけど、一体何するんだろう。
「あ、これ花月の分のお土産。花月留が選んだんだ」
「え、僕の大好きなチーズケーキ! 流石です! 僕達の娘はなんてできる子なんでしょう! いっぱい撫で撫でしちゃいます!!」
言ってからパパは僕をギュッとしてくれて、いっぱいいい子いい子してくれた。
「でさ、これは俺から」
お父さんが服の入った袋を見せる。
「花月留とお揃いなんだ」
「……光留君」
「ん?」
袋の中身を見たパパが固まる。
お父さんの目が心なしかキラキラしている。
「前に花月がドレス着たとき、凄く似合ってたから、花月に絶対似合うと思って。月夜もそう思うだろ?」
「ああ。花月留と並んだところを見たいな」
お父様も楽しそう。
「花月留、ちょっと着てみない?」
「うん、お着替えしてくるね!」
普段男の子っぽい服を着ることが多い僕だけど、可愛い服も大好きだから、お父さんの選んでくれた服着るの楽しみだった。しかもパパとお揃い!
「パパも一緒にお着替えしよ?」
パパのズボンを引っ張って、パパを見れば「ぐっ……」と変な声が聞こえた。
「花月留君を使うなんて卑怯な!このっ、確信犯双子め! 後で覚えてやがれですっ!」
お父様とお父さんは、きょとんと首を傾げる。
何のことかわからないって顔して。
「あざとい顔したってダメですからね! くっ、しかし、花月留君とお揃いは抗いがたい誘惑です。仕方ありませんから、一回だけですよ?」
「うん、いいよ」
お父さんはくすくすと楽しそうに笑っていた。
それからパパとお着替えして、リビングに戻るとお父様とお父さんによる撮影会が始まった。
「あー、やっぱ2人とも可愛い」
「ああ、この写真は家宝にしよう」
「月夜様、それ絶対やめてください」
「花月留、こっち向いてー。はい、チーズ。うん、めちゃくちゃ可愛く撮れた」
「見せてー」
「ほら」
撮ってもらった写真を見ると何処かの国のお姫様みたいで、自分じゃないみたい。
パパと並ぶと、親子というより、少し年の離れた姉妹って感じで、パパも凄く可愛い。
「ある意味学祭で女装した時よりも屈辱です……」
「あのドレスも似合ってたのに……」
「俺が4年次の時は俺達もウェディングドレス着たからな」
「あの時のお2人は本当に美しかったので大丈夫です。むしろ僕が、刺されるんじゃないかと思うくらい」
「そうか? 俺等が刺されそうだった気がする」
「主に女子の視線が痛かったな……」
「ねー、何のお話ー?」
「花月留君、月夜様と光留君ともお揃いしたいですよね?」
僕にわからない話していたパパは、僕を見て聞いてくる。
もちろんしたい!
「お父様達とお揃い? したい!」
「ふふふ、ですよねぇ」
「え」「うっ……」
お父様達の顔が引き攣る。
「いやいや、アラサーのおっさんの女装とか無いだろ」
「いや、光留なら似合うだろ」
「おい、それ月夜にも言えるからな」
「うふふふ……アラサーとかおっさんとかどうでもいいんです。僕は、大好きな娘と旦那様達のお揃いが見たいだけなので。お2人は愛しい娘の健気なお願いを無碍にするつもりですか?」
パパの笑顔にお父様達はびくりと肩を震わせた。ていうか僕、お願いはしてないよ?
「大丈夫です。3人に似合うお洋服を僕が選んできますから!」
お父様がお父さんの肩を叩く。
「光留、任せた」
「はああっ!? ばっ、ふざけんな! お前も同罪だろう。てか、お前の方が適任だろうが!」
「何を言っている。お母さん? 期待しているぞ」
「月夜様、逃げてはいけませんよ。ふふふ、楽しみですねぇ」
お父様もお父さんもパパも、皆楽しそう。
「僕もお父様達とお揃いしたいっ!」
「え」
「パパ、可愛いお洋服にしてね!」
「もちろんです。期待しててくださいね!」
僕には、父親が3人います。
3人とも、僕のことを大切にしてくれる。
僕も3人が大好き。
暖かくてふわふわで、優しくて。
僕はこのお家に来れて本当に良かった。
お母さんがいないのはちょっと寂しいって思う時もあるよ。
でもね、お父さんがお母さんなのも、ちゃんと知ってるんだよ。
僕にはお父様とお父さんとパパがいます。
僕のお名前は3人のお名前を貰って付けてくれたそうです。皆、僕が大好きって事なんだって!
学校のお友達は、父親が3人いるのはおかしいって言うけど、僕は3人が大好き。大切な家族です。
「花月留、本当にそっちで大丈夫?」
今日はお父さんとお出かけです!
僕の新しい服買ってくれるんだって! 好きなの選んでいいよっていうから、いっぱい選んできた。
だけどお父さんちょっと心配そう。なんで?
「これがいい!」
「まあ、スカートじゃないのは別にいいんだけど。服の好み、花月に似たな。いや、花月に顔が似てきたし……。絶対美人になるから、やっぱ今のままがいいか。今でも十分美少女だけど……」
なんか、ブツブツ言ってるけど、お父さんはちゃんと買ってくれました!
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「お父さん……」
「ん? どうした?」
「おトイレ……」
お父さん、慌てて僕を抱っこしておトイレに連れて行ってくれたけど。
「困ります! 男の子を女子トイレに入れては!」
お父さんが知らない女の人に怒られた。
「いや、確かに服は男の子っぽいけど、花月留は女の子です」
お父さんもめちゃくちゃ怒ってる。
「最近はユニセックスは服も多いですけど、この子はどう見たって男の子でしょう?」
「いや、本当に女の子ですって! そもそも、うちのお姫様を男子トイレになんて、何かあった場合そちらは対応できるんですか?」
「はぁ? あなた男親でしょう。あなたに女の子の何が分かるって言うんです? そちらこそ、男の子を女子トイレに入れようだなんて、何かあったら責任とれるんです?」
「だから花月留は女の子なんですって!」
お父さん達は、僕が男の子っぽい言葉遣いしても、男の子みたいな服着ても、可愛いって言ってくれるけど、たまにこういうことがあるんだよね。
「お父さん、僕、ここで脱いだ方がいい?」
お父さんが僕のことで怒られるのが嫌だからそう言ったら、お父さん、物凄い焦ったように抱き締めてくれた。
「花月留はそんなことしなくていい! 花月留が女の子なのはちゃんとわかってるし、ここで服脱がせて花月留を傷つけるとか絶対嫌だし、そもそも月夜も花月もそんなこと許さない。それに、子どもにこんなこと言わせる方がどうかしている」
お父さんは女の人を睨みつける。
お父さん、滅多に怒らないけど、とっても美形だから迫力凄いんだ。お父様も怒ると怖いけど、パパが言うには一番怒らせたらいけないのはお父さんなんだって。
お父さんを怒ってた女の人も、顔を青ざめさせている。
「っ、とにかく、男の子はやめてください!」
「だから、この子は女の子だっつってんだろうが!」
お父さんは僕のために怒ってくれるけど、ごめんなさい、そろそろ限界かも……。
「お父さん……、出ちゃいそう……」
お父さんはハッとしたように僕を降ろしてくれた。
「ここは気にしなくていいから、行っておいで」
「男子トイレ?」
「いや、ちゃんと女子トイレに行きなさい。じゃないと俺が月夜や花月に叱られる」
僕は頷くと、急いで女子トイレに向かった。
すると、女の人と一緒にいた女の子もトイレに入って来た。
「ねえ、あなた本当に女の子?」
「そうだよ」
トイレのドアを開けて中に入ろうとすると、その子も何故かついてくる。
「ちょっと……」
「いいからいいから。あなたのお父さん、とってもカッコいい人だね」
「うん、よく言われる」
お父様とお父さんはおんなじお顔だけど、パパも2人とは違う美形だから、運動会とかだとみんな羨ましいって言ってくれる。
そんなことより、早く出てくれないかな。
「ねえ、早く脱がないと漏れちゃうよ?」
言われると本当に漏れそうで、嫌だったけど、トイレのドアは閉まってるし、うん。
僕は覚悟を決めた。
「ママー、あの子ちゃんと女の子だったよー!」
僕は泣きながらお父さんのところに戻って、さっきの話をした。
「ごめん、嫌な思いさせたな」
お父さんは抱き締めて頭を撫でてくれた。
「うちの子を疑うのは仕方ないにしても、子どもをけしかけるのはやりすぎでは?」
「はぁ? うちの子が危ない目に合ったらどうするのよ。確かめるのは当然のことでしょう? でも、本当に女の子で良かったわぁ」
厭味ったらしい女の人は、ニヤニヤと笑う。
「……そうですか。では、こちらもそれなりの対処を取らせて頂いてもいいということですね?」
「は? 何言って……」
「犯罪として被害届を出せなくても、社会的地位を失わせることは出来るんですよ。今の時代って、ネットっていう便利なものがありますし」
言いながらお父さんはスマホを弄り始める。
「あなた、何して……」
「花月留の父親のひとりは、弁護士なんですよ。このことを連絡したら、すぐに法的処置をとるって言ってました。ついでに、先ほどの会話も録音させて頂いているので、それが証拠になるそうです」
「い、いつの間に……!?」
「俺、職業柄録音することが癖になってるんですよね。あと、ここの少し手前の階段に監視カメラがあるのはご存じですか? そこにも俺達の姿が映ってますよ」
お父さんが仄暗い表情を浮かべながら、女の人をにっこりを見つめた。
「疑うのは結構ですが、子どもを巻き込むようなことはやめてくださいね。行こうか、花月留。後のことは花月に任せれば大丈夫だと思うし」
「うん……」
そう言って、お父さんは僕を抱っこしたまま女の人たちを無視してお店を出た。
「ちょっと遅くなったけど、なんか甘いもん食べていこう。花月留の好きなチョコレートケーキの美味しい店がこの辺にあるんだよ」
「そうなの?」
「うん。月夜ももう少したら来るって言ってたし」
「お父様、お仕事忙しいんじゃ……」
お父様とお父さんはおうちでお仕事していることが多いけど、お父様は今日は抜けられない株主総会? があるとかで、行けないかもって言ってて、お父さんは脱稿明け? で今日ちょうど空いているかって僕を連れ出してくれた。
本当は、みんなで行きたかったけど、パパも今日は研修で行けなかったこと悔しそうにしていた。
「うん。俺と花月留がデートするの、よっぽど羨ましかったんだろうな」
お父さんがくすくす笑っているのが少し擽ったい。
お父さんと2人でお店に入って、大好きなチョコレートケーキを頼んだ。お父さんも甘いもの好きだから、シフォンケーキとモンブランとティラミスで迷っていたけど、最終的にシフォンケーキを頼んでいた。
「光留、花月留!」
「月夜ー、こっち!」
2人でケーキを食べていたら、お父様が来てくれた。
「仕事はいいのか?」
「ああ、やっと区切りがついたからな。花月留、付いてるぞ」
ほっぺに付いていたチョコクリームを、お父様が取ってくれた。
「月夜は何食う?」
「そうだな……」
お父様は僕たちのお皿とメニュー表を見比べてから苦笑する。
「じゃあ、ティラミスにしようかな」
注文して、お父様はティラミスを一切れ切り取ると、僕に一口くれた。
「ん、美味しい!」
「良かった。ほら、光留も」
「ん。あ、美味い」
お父様はもう一口ティラミスを切り分けると、今度はお父さんに食べさせてあげていた。
それを周りにいた女の人たちがチラチラと頬を染めながら見ている。
お父様もお父さんもアイドルみたいに綺麗なお顔だから、家族でお出かけするといっつもこんな感じ。
お父様たちが食べさせあいっこするのもいつものことなんだけど。
「ねえ、見た? 美形同士のイチャイチャ」
「ヤバい、国宝級よね。もっと見ていたいし、顔が似てるってことは、双子かな?」
「一緒にいるのはお子さん? え、どっちが産んだの? それとも連れ子かしら?」
なんて声が聞こえてくる。
お父様たちにも消えているだろうけど、2人はいつも知らんぷりしている。
「それで、花月留の服は買えたのか?」
「うん。でさ、これ、花月と花月留に着せたら絶対可愛いと思うんだよね」
お父さんは僕の服が入っているのとは別の袋からごそごそと服を出す。
「ほう、ピンクか。悪くない。フリルやレースも愛らしいな」
「だろ? 花月も花月留と一緒なら絶対着てくれるだろうし、花月留のお姫様姿も見たいし」
確かに、お父さんの選んでくれたフリフリのワンピース可愛い。パパは時々女の人に間違われるくらい綺麗だから、きっとパパのワンピースも可愛い。
「花月留もうちだとこういうの着てくれるし、普段から着てもいいけど、誘拐されたら困るし」
「確かに、うちの花月留の可愛さは世界一だからな」
2人とも僕を褒めてくれているんだけど、なんか規模が大きい。いつものことだけど。
それからパパにお土産買って、僕とお父様とお父さんとおうちに帰る。
夕飯の支度をお父さんと一緒にしていると、パパが帰ってきてくれた。
「花月留君! 貞操は大丈夫ですか? 酷いことされませんでしたか!?」
パパは僕を見るなり急いでぎゅっとしてくれた。
貞操ってなんだろう?
「お帰り、花月」
「光留君! 君も大丈夫ですか? 普段ほわほわしてて危なっかしいですし、おばさんに変なことされませんでした?」
お父さんにもぎゅっとして、パパはお父さんに頭なでなでしてもらっている。
「いや、俺は平気だけど。それより、いろいろありがとな」
「いえいえ、僕の大事な娘と旦那様の危機ですから、制裁と報復は当たり前です。ちゃんと手続きしておきましたよ」
「さっすが俺達の旦那様。頼りになるなぁ」
パパは楽しそうに教えてくれるけど、一体何するんだろう。
「あ、これ花月の分のお土産。花月留が選んだんだ」
「え、僕の大好きなチーズケーキ! 流石です! 僕達の娘はなんてできる子なんでしょう! いっぱい撫で撫でしちゃいます!!」
言ってからパパは僕をギュッとしてくれて、いっぱいいい子いい子してくれた。
「でさ、これは俺から」
お父さんが服の入った袋を見せる。
「花月留とお揃いなんだ」
「……光留君」
「ん?」
袋の中身を見たパパが固まる。
お父さんの目が心なしかキラキラしている。
「前に花月がドレス着たとき、凄く似合ってたから、花月に絶対似合うと思って。月夜もそう思うだろ?」
「ああ。花月留と並んだところを見たいな」
お父様も楽しそう。
「花月留、ちょっと着てみない?」
「うん、お着替えしてくるね!」
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「パパも一緒にお着替えしよ?」
パパのズボンを引っ張って、パパを見れば「ぐっ……」と変な声が聞こえた。
「花月留君を使うなんて卑怯な!このっ、確信犯双子め! 後で覚えてやがれですっ!」
お父様とお父さんは、きょとんと首を傾げる。
何のことかわからないって顔して。
「あざとい顔したってダメですからね! くっ、しかし、花月留君とお揃いは抗いがたい誘惑です。仕方ありませんから、一回だけですよ?」
「うん、いいよ」
お父さんはくすくすと楽しそうに笑っていた。
それからパパとお着替えして、リビングに戻るとお父様とお父さんによる撮影会が始まった。
「あー、やっぱ2人とも可愛い」
「ああ、この写真は家宝にしよう」
「月夜様、それ絶対やめてください」
「花月留、こっち向いてー。はい、チーズ。うん、めちゃくちゃ可愛く撮れた」
「見せてー」
「ほら」
撮ってもらった写真を見ると何処かの国のお姫様みたいで、自分じゃないみたい。
パパと並ぶと、親子というより、少し年の離れた姉妹って感じで、パパも凄く可愛い。
「ある意味学祭で女装した時よりも屈辱です……」
「あのドレスも似合ってたのに……」
「俺が4年次の時は俺達もウェディングドレス着たからな」
「あの時のお2人は本当に美しかったので大丈夫です。むしろ僕が、刺されるんじゃないかと思うくらい」
「そうか? 俺等が刺されそうだった気がする」
「主に女子の視線が痛かったな……」
「ねー、何のお話ー?」
「花月留君、月夜様と光留君ともお揃いしたいですよね?」
僕にわからない話していたパパは、僕を見て聞いてくる。
もちろんしたい!
「お父様達とお揃い? したい!」
「ふふふ、ですよねぇ」
「え」「うっ……」
お父様達の顔が引き攣る。
「いやいや、アラサーのおっさんの女装とか無いだろ」
「いや、光留なら似合うだろ」
「おい、それ月夜にも言えるからな」
「うふふふ……アラサーとかおっさんとかどうでもいいんです。僕は、大好きな娘と旦那様達のお揃いが見たいだけなので。お2人は愛しい娘の健気なお願いを無碍にするつもりですか?」
パパの笑顔にお父様達はびくりと肩を震わせた。ていうか僕、お願いはしてないよ?
「大丈夫です。3人に似合うお洋服を僕が選んできますから!」
お父様がお父さんの肩を叩く。
「光留、任せた」
「はああっ!? ばっ、ふざけんな! お前も同罪だろう。てか、お前の方が適任だろうが!」
「何を言っている。お母さん? 期待しているぞ」
「月夜様、逃げてはいけませんよ。ふふふ、楽しみですねぇ」
お父様もお父さんもパパも、皆楽しそう。
「僕もお父様達とお揃いしたいっ!」
「え」
「パパ、可愛いお洋服にしてね!」
「もちろんです。期待しててくださいね!」
僕には、父親が3人います。
3人とも、僕のことを大切にしてくれる。
僕も3人が大好き。
暖かくてふわふわで、優しくて。
僕はこのお家に来れて本当に良かった。
お母さんがいないのはちょっと寂しいって思う時もあるよ。
でもね、お父さんがお母さんなのも、ちゃんと知ってるんだよ。
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