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今の幸せをこの先も、来世も、ずっと
第三十三話
しおりを挟む「ただいまー」
「おかえりなさい、光留君!」
光留が家に帰ると、花月が半泣きで出迎えてくれた。
「うん、ただいま……」
「僕はこの数日、光留君をある意味見直しました!」
「ん?」
光留に抱き着きながらえぐえぐと泣く花月の頭を、よしよしと撫でる。
「月夜となんかあった?」
「実は……」
「2,3日歩けない程に抱き潰しただけだが?」
後からやってきた月夜が意地悪げに笑う。
光留は呆れたようにため息をつく。
「俺に加減しろって言いながら、お前はやるのかよ……」
「お前はそこまで体力持たないだろ。そもそも抱かれる方が、お前も好きだろう?」
「まあ、否定はしないけど……。花月、大丈夫?」
光留が心配そうに覗き込む。
「大丈夫じゃありません……。まだ腰痛いです……」
「あー、うん。お疲れ」
光留が労るように花月の腰を撫でる。
「とりあえず中に入れ。いつまでも玄関にいたら寒いだろ」
「うん。花月、ちょっとごめん」
言いながら光留は花月をひょいと横抱きにする。
花月は目を丸くして驚く。
「光留君。実は力持ちですね?」
「花月だって俺をお姫様抱っこ出来るだろ。それに花月は、なんていうか……うん、持ちやすかった?」
「光留君。めちゃくちゃ気を使ってくださったのはわかりますが、荷物じゃないです」
「ごめん……」
「でも、ちゃんと帰ってきてくださったので、許してあげます」
光留の首に腕を回してすりすりと頬ずりする花月に、光留もきゅんとする。
花月をリビングのソファに座らせて、光留は自分も着替えに行く。
それから3人で夕食の席に着いた。
「そういえば、光留君お仕事は大丈夫なんですか?」
「うん、脱稿して今は校正のチェック待ち」
「今回は納期がシビアだったのか?」
光留がひとりで考えたいと、ホテルやネットカフェで仕事をするのは珍しくないとはいえ、離れている間はやはり不安だ。主に体調面が。
「まあ、短編だったからいつもよりは短かったけど、今回は2人から離れた方がいいって思って」
月夜と花月が顔を見合わせる。
「別に変な意味じゃない。単純に物語と現実を切り離して考えたかったんだ」
花月が不安そうに光留を見る。
また変なことを言い出したら、今度こそ監禁してやろうという内心を隠して。
「お仕事のことですから詳しくは聞きませんが、僕達がいたら不都合が?」
「あー、うん。今回の依頼内容のテーマがさ、“BL“だったんだ」
月夜が首を傾げる。
「それと俺達と何の関係がある?」
「いや、なんていうか、メインキャラの心理描写考えてたら、俺達ってなんなのかなって。で、まあ、参考用に男でも子どもが産める設定の本読んだりしてたら、月夜も花月もなんか悩んでるっぽかったし……」
下手に相談して拗れる事が嫌だった。
月夜の不安は、理解出来ても記憶のない光留では解消してやれない。長い付き合いがあり、前世の当事者だった花月と解決するべき問題だ。
「俺がいたら、2人も俺に気を使って前の話とか出来ないだろうし、俺も集中出来ないし。それならって」
光留は幼い頃から感受性が高く、よくも悪くも2人の影響を受けやすい。
それを自覚しているから、仕事のために一旦距離を置いた。別れたいとかそういうことではく、単純に頭を切り替えたかっただけだと知り、2人はホッとする。
「で、光留君はどうして水子なんかに取り憑かれているんです?」
花月が祓ってやろうとすると光留が「待って!」と制止をかける。
「光留君?」
光留はチラっと月夜を見てから花月に視線を向ける。
「前にも言ったけどさ、俺は2人が望んでくれるなら、2人の子どもを産んでもいい。けど、俺が2人に流されてるって思われたくなくて、じゃあ俺は欲しいのかって聞かれたら、うん。いたら楽しいかなって……」
花月はもちろん、月夜も光留も別に子どもが嫌いな訳では無い。お互いを縛るものとして利用しようとしている部分は確かにあるけれど、いてくれたらきっと3人でわちゃわちゃしながら大事に育てられるんだろう。
2人が前世の償いだとしても、光留を幸せにしたいといろいろ考えてくれているように。
「で、考えてたらこいつが来て、俺のこと“お父さん”って呼んだんだよ」
正直、驚いたし実感もなければ、「お母さん」と呼ばれても困るのだが。
「こいつはさ、たくさん苦労するかもしれないけど、俺達のところに来たいんだって」
もしかしたら、健常児として生まれないかもしれない。親のことで虐めに遭うかもしれない。
たくさん、たくさん大変な思いをするだろう。
だけど、この子には3人もの親がいるのだ。きっと助け合うことは出来るはずだ。
「だからさ、2人が良ければ俺は、この子を産みたい」
光留の覚悟は決まった。
後は、2人がどう受け止めるかだ。
「……光留君は本当にそれでいいんですね?」
一番負担が大きいのは光留だ。
光留を幸せにするために生まれ変わったのに、本末転倒になるようなことだけは避けたい。
「花月を抱くことも出来なくなるぞ」
月夜は、光留の恋心を理解している。花月なら抱くのも抱かれるのも好きだけれど、抱くことは出来なくなる。それが光留の不満や不安にならないかが心配なのだろう。
「いいよ。まあ、まったく怖くないってわけじゃないけど、2人を信じてるから」
そこまで言われてしまえば、月夜も花月も覚悟を決めるしかない。
「光留君。確かに僕はベッドの上ではいろいろ言いますが、君をただ愛したいだけです。子どもだって、いたらいいとは思いますが、君の負担にしたいわけではないんです」
「うん、わかってる。ありがとう、花月」
泣きそうな花月の頭を撫でると、花月に抱き締め返される。
「――君の命の方が危険だと判断したら、僕は迷わず堕胎させます。君がどんなに望んでいたとしても、僕にとっては君が最優先です。光留君を失うようなことだけはしたくない」
「うん」
何もかもがイレギュラーだ。女体化も妊娠も、必ず上手く行くわけではない。途中で光留の身体が持たない可能性もある。
花月は、前世の自分が気付かなかった不安を、こんな形で知ることに嬉しさと後悔が混ざる。
「月夜は?」
光留が花月を抱き締めながら月夜を見る。
「月夜はやっぱり嫌か? 一応遺伝子的には月夜のも入るし、なんなら2人目産むし……」
月夜は光留の心配そうな顔を見て、ふっと笑う。
「嫌というわけじゃない。俺も花月と同じだ。お前を失うことだけはしたくない」
頭を撫でられて、ほんの少し照れくさくなる。
愛されている。
2人が近くにいることに、光留を受け入れてくれることに、嬉しさと幸せを噛み締める。
「うん」
2人が好きだと、改めて光留は再確認した。
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