【R18】何度生まれ変わっても、必ず幸せにすると決めたんだ

葛葉

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今の幸せをこの先も、来世も、ずっと

第二十六話

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 月夜は隣で眠る光留の腹をそっと撫でる。
(今回も定着しなかったか……)
 光留が月夜と花月の二人の子を産んでもいい、と言ったのは、1年程前だ。
 彼の体質と霊力を利用して無理矢理女体化させるのだから、光留の心身負担は大きく、魂に負った深い傷から情緒不安定なところもある。すぐに女体化出来ないのも、光留自身の不安定さはもちろんだが、無理矢理事象を捻じ曲げ続けようとする力に反発する自然の理が存在するからだろう。
 しかし、何度も繰り返すことによっていずれは光留の心身がその状態を受け入れ、胎内に子宮を生成し子どもが産める環境が整う。ただし、一度生成し定着してしまえば二度と光留は元の体に戻れないというリスクもある。
 光留は今、それを承知で花月にフォローしてもらいながら身体を作り替えている。
(今更だが、何故光留だったのだろうな……)
 月夜と光留は元はひとつの魂だったが、前回の転生時に大きすぎる霊力が器に入り切らず、月夜の記憶と人格が切り離され、今回の転生で双子の兄弟として生まれた。
 光留は魂の傷が癒えきる前に転生した事により、大きすぎる霊力を制御する術を失い、自力でコントロール出来ない。
 月夜がそれに気付いたのは、二人が3歳の時だった。

 ――おにいちゃん、あついよ、くるしいよ……。
 ――だいじょうぶだよ、みつる。おとうさんと、おかあさんが、くすりもってきてくれるから。
 ――ぼく、しんじゃうの?

 苦しげな呼吸。だんだん弱くなる心音に、この時の月夜はどうしていいか分からなかった。
 光留がいなくなる。想像しただけで心臓が引き千切られるように苦しくて、何も出来ない自分が悔しくて、ただ光留の手を握ってやることしか出来なかった。
 弟を助けたい。その思いが強く魂を揺さぶり、月夜は前世を思い出した。

 ――光留、だいじょうぶ。お前はぜったい、おれが死なせない。
 ――? おにいちゃん?

 前世の記憶を思い出した月夜には、光留の霊力の流れが見えていた。
 光留の小さな身体に入りきらないほどの霊力が、制御されないまま行き場を失い、光留の身体を蝕んでいる。
 転生してから初めてする作業に、正直どれだけできるのかわからない。身体の小ささもあって、下手をすればまた、光留を道連れにするかもしれない。それでも、やるしかなかった。
 光留の手を握って、少しずつ光留から溢れる霊力を自分の身体に移して自然へと返す。
 巫女姫の恩恵を受けていた守り人の時ほどの力はないし、今の月夜は光留の霊力の2割程度しかない。場合によっては月夜の方が倒れる可能性もある。
 それでも月夜がやらなければ光留が死んでしまう。大事な半身を失っては、月花に顔向けも出来ない。
 
 ――光留はおれが好き?
 ――うん、すき。おにいちゃん、ずっといっしょにいてね。

 月夜に絶対的な信頼を寄せてくれる光留が愛おしい。
 この無垢な存在を手放すことなど、月夜には出来ない。
 光留の信頼に応えるように、月夜は自分の限界ギリギリまで光留の暴走する霊力を制御しようとした。
 結果として上手くいったものの、月夜もまたベッドの住人となり、今度は光留が月夜の手を握って泣き叫ぶことになる。

 ――うああああん、ごめんなさいっ! ぼく、いいこにするから、おにいちゃん、しなないでぇ!
 ――大丈夫だよ。ちょっと寝たらすぐよくなるから。
 ――でもっ、でもっ!
 ――光留は、いい子だよ。おれが守るから、死なないよ。
 ――ぜったい、ぜったいだからね!
 ――うん、約束。

 それから、ずっと二人で支え合ってきた。
 5歳になって光留が前世を思い出してからは、効率がいいからとキスをするようになった。
 お互い、恋愛感情はなかったはずだけど、この胸に抱える感情は家族愛と呼ぶには重すぎて、恋というにはドロドロしていて、愛と呼ぶには依存しすぎていて、歪な関係が出来上がっていた。
 そのままずるずると月日が経ち、月花の生まれ変わりである花月と出会い、3人で恋人同士という特殊な関係になり、こうして一緒に住むようになって、その想いは確かな信頼と愛情ともっと重く魂レベルで互いを縛り付けるに至った。
 それでも月夜は思うのだ。
 光留を思うこの気持ちは、本当に愛なのだろうか、と。
 槻夜光留を殺したのは間違いなく月夜だ。その罪悪感はある。双子の弟である光留を愛おしいと思うし、抱いたことに後悔はない。
 けれど、ふと不安になる。光留が妊娠すればまず両親が卒倒する。霊力や前世の事も知らない両親だ。光留の身体の変化を受け入れられるとは思えない。
 そして、仮に生まれた子は戸籍が認められるのか。私生児として扱われるならまだいいだろう。
 しかし、光留がどこの馬の骨とも知れない女を孕ませただとか、言われない中傷を受ける可能性もあれば、光留の身体が受け入れられたとして、結婚できる相手は花月しかいない。
 月夜の子を孕んだとして、兄弟の間に出来た子が、月夜を父親として認められることはない。
 揚羽が月夜を実父として認めなかったように。
 そう思うと、本当に孕ませていいかという迷いが生じる。
 口では光留を孕ませたいとか言いながら、意気地がないのは月夜の方だ。
「んぅ……? 月夜?」
 光留がぽやぽやとした表情で月夜を見る。
「悪い、起こしたか?」
「んー。今何時……?」
「まだ3時だ、寝ていていい」
「月夜はまだ寝ないの?」
「俺もすぐ寝る」
「……花月がいなくて寂しい?」
 花月は現在、車の免許を取るべく昨日から合宿中だ。帰ってくるのは2週間後で、この家には現在羽宮兄弟しかいない。
「まぁな。だが、お前がいてくれるから、落ち着いていられる」
 月夜が光留の頭を撫でる。そのまま寝そうな光留だったがふと月夜を見上げる。
「月夜はさ、俺が子供産むの、反対?」
「何故そう思う?」
「なんとなく? 花月が張り切ってるから言えないだけなのかな、と思って」
 特に感情的になるでもなく、月夜を心配するような声音だった。
「もしかして、自分で気づいてないのか?」
「何がだ」
 光留は身体を起こすと月夜の頬に触れる。
「お前さ、自分で俺の事孕ませるとかなんとか言いながら、キスした時に無効化されるように霊力調整してるだろ」
「は?」
「あ、本当に無意識なんだ。月夜らしくない。……いや、月夜だからか」
 光留は苦笑する。
「まぁ、前世の俺たち……“月夜”が死んだとき、月花は妊娠していた。そのせいで彼女は不老不死になったわけだけど、あの時と俺は状況も環境も違う。“月夜”が二人に別れちゃったから、ややこしくなってるけど。……俺が子供を産めば必然的に相手は花月だと思われる。たとえお前の子だとしても。花月は関係ないっていうかもしれないけど、月夜が弾かれる。俺達にそのつもりがなくても、やっぱり複雑だよな」
「わかっていたのか」
「そりゃ、記憶がなくても俺も“月夜”だったからな。その不安はわからなくもない。ましてや今世では胎内にいた時も含めて、20年も一緒にいるんだ。兄さんのことくらいわかるよ」
 こつりと額をあわせると同じ顔だなあ、と改めて思う。
「俺さ、ずっと月夜の事本当はどう思ってるんだろうって考えてた。シてる時は勢いとかノリで好きとか言ってることもあるけど、多分、その好きは恋とはちょっと違う。だから俺もお前も不安に思う。違うか?」
 それは、光留のいう通りかもしれない。
 光留のことは好きだが、本当の意味で向き合えたことはない。
「俺は、二人の子供を産んでもいいって思えるくらい二人に依存も執着もしている。でも、もし月夜が花月も俺も捨てて、誰か別の人と一緒になるって思ったら……」
「思ったら?」
「月夜のこと殺してやる」
「物騒だな」
「それで、前みたいに俺の中に閉じ込めて、永遠に俺と離れないようにしたいって思うくらいには好き、だと思ってる。まぁ、これも本当は好きっていう感情とは違うのかもだけど」
 確かにそれは、好きという純粋な感情とはどこか遠いところにあるような気がする。
 だけど、それも愛のかたちの一つなのだろう。
「なかなか刺激的な発想だな」
「そうでもない。前に月夜がしようとしたこととそんな変わんないと思うけど?」
 “槻夜光留”だった時、月夜は一度光留を殺そうとしたことがある。それは、愛する娘がボロボロになっていても何もできなかった己の無力さを呪っての事だ。あの時、月夜は光留を殺してその身体を乗っ取ろうとした。結局その時は光留の魂の守りに邪魔をされ、殺すことは出来なかったが、光留のいう通りやろうとしていることはさほど変わらない。
「全部俺のせいか」
「そう。全部俺たちのせいだ。月夜だけじゃない、俺のせいでもある。だって、俺たちは元々一つだったんだからな」
 途中で魂は別れてしまったが、元はひとつの存在だ。光留が今体質で苦しんでいるのも、月夜がこんなに悩んでいるのも、全部自分たちの因果応報だ。
「俺は、前世の時から月夜にも幸せになってほしいって思ってる。死のうとした時も二人が幸せになるならそれでいいって、邪魔なのは俺だからって。でも、月夜は俺の事も手放さないって言ったから、俺も手放したくない。たとえ、どんなに非難されても、俺は二人が望んでくれるなら子供を産みたいし、親権に関しては花月に父親を名乗ってもらうしかないけど、俺も花月も月夜をないがしろにしているつもりはないし、むしろ守りたいんだ。前みたいに処刑されるようなことはしたくない」
 あの悲劇は一度だけで十分だ。あの時の失敗を犯さないために前世の記憶がある。
「月夜は、俺の事が弟だから好き? それとも、自分の半身だから? 俺はさっきも言ったけどそれだけじゃない。もっと暗い感情を二人に向けてる。花月はたぶん、霊力を通して気付いてるかもだけど、月夜は隠すのが上手いから、ちゃんと聞いておきたい。それで、嫌ならもう子供産みたいとか言わないし、花月には悪いけど、この実験はやめてもらう」
 光留は幼いと思っていたけれど、月夜が思っているよりもずっと大人だ。
 むしろ、月夜の方が成長できていない。それが悔しいような、嬉しいような、そんな複雑な気持ちだ。
 だけど、そこには弟や半身に向けるものではない感情も確かにある。
「全く、お前は本当に人たらしだな」
「こんなこと、花月と月夜にしか言えないよ。二人以外にわかってほしいとも思わないけどな」
「そうか。確かに俺は覚悟が足りないらしい。だが、光留も花月も俺は愛している」
「うん、知ってる」
「もう少しだけ、待っていてくれるか?」
「いいよ。でも、無効化してることは花月に言うからな」
「ああ。悪いな、嫌な役をやらせて」
「別に。俺も月夜の気持ちちゃんと考えられてなかったし。双子なのに、元は同じ魂なのに、情けないよな」
「いや、光留は男らしいよ。そういうところも惚れる」
「っ、月夜のそういうところ、ほんと変わらないな。まぁ、俺も人のこと言えないんだけどさ」
 光留は月夜にキスすると、誘うように唇を食む。
「シたくなったのか?」
「ん。最近は月夜と2人ですることなかったし、花月とするのも、3人でするのも好きだけど、たまには月夜ともしたい」
「淫乱」
「月夜がそうしたんだろ。……月夜が枯れてて無理って言うなら別にいいけど」
「俺が枯れているかどうか確かめさせてやろう」
「いいぜ。潮吹くまで搾り取ってやる」
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