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束縛したいだけじゃない
第二十五話
しおりを挟む翌朝、光留は痛む喉と腰をベッドで耐えていた。
「ほら、光留。水」
月夜に口移しで水を飲ませてもらい、光留は「はぁ」と吐息を漏らす。
「あ゙ー、死ぬかと思った……」
悪態を吐きながらも掠れた声は甘く、色気がある。
同じ声でもこうも印象が変わるのか、と月夜も変な感心を抱く。
「光留が煽るからだろ。大体、お前も乗り気だっただろうが」
「まあ、そうだけど……」
光留は手首にくっきりと付いた縄の痕を見て、小さく微笑む。
「痕、残って良かった」
「少しは安心したか?」
月夜が光留の頭を撫でる。
「うん。月夜はあんま痕残すの好きじゃないだろ」
おそらく前世のトラウマも起因しているのだろう。
痕を残せば兄妹で契っていたことが露見する。幸せな時間を邪魔されたくないという僅かな抵抗だったが、結局無駄になった。
今世で最愛のひとりである光留は弟だが、やはりその頃の名残りで痕をつけることに抵抗があることは光留も知っている。
「花月の愛の証って感じだし、俺達にずぶずぶに溺れてく花月って、本当、可愛いよな」
「まあ、上手く制御してやれよ。アレはアレでたまに極端なところがあるからな」
「はぁい、お兄ちゃん」
光留がくすくすと笑えば、月夜は「調子に乗るな」とデコピンする。
「いった! そういえば花月は?」
「今日はバイトだからな、光留が寝ている間に出た」
「そっか。で、月夜はなんでいるの?」
「俺は午後からだからな」
月夜と花月は同じ大学だが、学部と学年が違うから同じ講義を取ることは殆どない。
家を出る時間帯が違うことも珍しくない。
「じゃあ帰りは遅い?」
「そこまで遅くはならない」
「じゃあ夕飯は時間合わせる」
「無理はしなくていいぞ」
月夜が労るように光留の腰を撫でる。
「いいよ、脱稿明けで時間あるし。夕方にはマシになってるだろうし、いざとなったら花月に癒してもらうから」
花月は巫女姫だった頃のような癒しの力はほとんどない。だが、光留ほどではないとはいえ強い霊力の持ち主ということもあり、前世の経験と知識を活かして体力回復くらいの力がある。
月夜は一瞬だけ光留から視線を逸らす。
「まあ、無理はしない程度にな」
光留も月夜の変化に気づかないほど鈍くはない。
「……月夜こそ無理してないか?」
「なんの話だ」
光留はじっと月夜の顔を見ると、居心地悪そうに視線が逸れた。
「月夜は、俺や花月に弱いとこ見せようとしないだろ。月夜が言いたくないなら無理に聞かないけど、俺も花月も月夜のこと大事だから、思ってることがればちゃんと言って欲しいって思ってる」
前世からの気質を引き継いで、しかも今世では弟である光留が霊力過多で病弱だ。彼の生来の性質で大切なものを失いたくないあまり、自分のことを後回しにしていることを光留も花月も心配している。
「それに、子供が生まれたらなおさら、自分達のことなんて後回しになるだろ。その前に出来ることがあったら言って欲しい」
光留は自分の霊力過多を利用して、花月の霊力と合わさることで擬似的に下半身だけ女体化させたことがある。
霊力制御の訓練過程で偶然出来たものだが、もし定着させることが出来れば子供も生むことが出来るという。光留は2人の子供であれば、産んでもいいと思っている。
たとえ、その後一生身体が元に戻らなくても。
「そうだな。だが、今のところ俺に不満はない。光留と花月がいる。それだけで十分だ」
それは、月夜の本心だろう。だけど、双子だからか、元は同じ魂だからか、光留には違和感がある。
けれど――。
「そっか。まぁ、俺も今以上を望むつもりはないし、このまま3人でずっと暮らせたら、それだけでいいよ」
深くは聞かないことにした。
無理に言わせたところで関係が拗れることを避けたかった。
「――光留は、今幸せか?」
「? うん」
「ならいい」
月夜は優しい表情をして、光留の頭を撫でる。
生まれ変わる前に、3人で幸せになろうと決めた。一番幸せにしたい人は、今が幸せだと言ってくれる。
月夜は胸の内にある不安をしまい込んだ。
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