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廻る魂
第二十一話
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(暑い……)
昨夜も声が枯れるまで喘がされるほどセックスして、気持ち良く眠っていた光留はふと、暑苦しさに目を覚ました。
「ん、どゆこと……?」
左に月夜、右に花月、真ん中に光留といった状態は珍しくもなんともないのだが、月夜は光留に腕枕し、腰を抱き寄せ、花月も腰のあたりにぎゅっと抱き着き、光留の胸を枕にしている。そして両足に2人の足が絡まっている。
クーラーをつけているとはいえ、さすがに暑い。というか苦しい。
(てか、動けないし……)
とはいえ、ぐっすり眠っている2人を起こすのは忍びない。
(まあ、いいけど。……そういや、昨夜の夢何だったんだろ?)
小さな子どもが自分――前世の“月夜”と“月花”を兄と姉と呼ぶ、仲良し兄妹の夢。
“月夜”と“月花”は2人兄妹で3人目はいなかったはずだ。
ただの夢、と割り切るには光留の胸がズキズキと痛む。
(そういや、両親を殺したのは“月夜”が無意識に神だった頃の権能を発現させたから、だっけ?)
光留自身に記憶はないが、月夜からはそう聞いている。“月夜”の罪は、光留の罪でもある。だからこんなにも胸が痛むのだろうか。
視線を天井に向けると、ふよふよと水子の魂が光留の前を飛んでいく。
手を伸ばしてみると、大人しく来てくれた。
「どっかから迷ってきたのか、俺か月夜に憑いて来たのか?」
光留が小さな声で水子の魂に呼びかけると、その子は光留にすりすりとすり寄る。
その様子が何だか夢で見た幼子に重なった。
(まさか、な)
“月夜”と“月花”が生きていたのは千年以上前だ。そんな時代の水子が彷徨っているとは考えにくい。
それこそ“月夜”か“月花”の魂にくっついていない限り。
『じゅっといっちょにいてくりぇて、ありがちょう、あにうえ』
光留は何のことかわからなかったが、この子は可愛くて愛おしく思う。
兄上と呼ばれるのも嫌ではない。
「ほら、もう逝け。あんまり長く留まると、転生出来なくなるぞ」
少しだけ、兄らしいことを言ってみる。
水子の霊は名残り惜しそうにしていたが、しばらく光留の前を飛び回り、スッと姿を消した。
(兄上、か。きっと子どもの勘違いあるあるだよな)
水子は、胎児の時か死産した赤子、或いは生後間もない赤ん坊んの魂だ。生まれたての魂なら見間違いをしていても不思議はない。
(さて、どうすっかな……)
目を覚ます気配のない2人。光留自身も昨夜の名残りで、動くにしても腰が痛い。
(うちで出来る職業で良かった。じゃなきゃ確実に会社に遅刻……)
と、思ったところでハッとした。
「ヤバっ、今日打ち合わせっ!!」
光留がガバリと起き上がる。
時間を見れば午前11時。いくらなんでも寝過ぎだし、待ち合わせの時間まであと2時間しかない。2人も大学やバイトがあるはずだ。
「おい、起きろ2人とも!」
光留は慌てて両隣の2人を叩き起こす。
「嫌ですぅ……もうちょっと……」
「バッカ花月、今日午後からバイトだろ! 間に合わなくなるぞ」
「んふふ、そんな、馬鹿な……って、ええっ! 嘘、なんでこんな時間! やばいやばいやばい! 遅刻するっ!」
花月が慌てて飛び起きる。
月夜ももそもそと起き出すが、スマホの画面を見て「休み」の連絡をする。
「おい、サボるなよ」
「ふぁ~あ、構わない。単位は十分取れてるからな。光留は俺のことより自分の心配したらどうだ?」
「ぐ……そうする……」
光留と花月は慌てて支度するのを月夜はのんびりと見守る。
夜、2人が帰ってきて3人で食事をしていると光留がポツリと呟く。
「朝、水子を見たんだけどさ」
「水子、ですか?」
「この辺で赤ん坊が死んだ話はないが、連れてきたのか?」
3人の住む家には花月の結界が張ってある。
霊力過多で暴走しやすい光留を守るためのものだから、落神や霊の類は入ってこれない。
可能性としては外出時に気付かない間に憑かれていた場合くらいだろう。
「それがさ、その子に言われたんだよ。『ずっと一緒にいてくれてありがとう、兄上』って、俺覚えてないんだけど、なんか知ってる?」
月夜と花月は顔を見合わせる。
月夜と花月の推測では、光留がその水子であるということだ。だが、光留を信じるなら光留と水子は一切関係ないということになる。
2人の背中にゾワゾワとした悪寒が走るのと同時に、何処か安心する。
「……さあな。“俺達兄妹”に、3人目はいなかった」
「え、ええ。僕も、お母様のお腹に新しい命が宿っているのを見ていません」
何気ない雑談のつもりだったが、動揺する2人を見て光留は首を傾げる。
「ふーん、じゃあやっぱあの子の勘違いか」
光留の前世である“槻夜光留”はひとりっ子だし、現代に生まれるなら「兄上」とは呼ばないはずだ。
となると、やっぱり“月夜”と“月花”に関連すると思ったのだが、関係ないとなると偶然入り込んだのだろうと光留は結論付ける。
願うなら、今度こそちゃんと生まれて来れますように――。
――まっててね、もうすぐ産まれてくるから。またいっしょにいてくださいね、3人のお父様。
昨夜も声が枯れるまで喘がされるほどセックスして、気持ち良く眠っていた光留はふと、暑苦しさに目を覚ました。
「ん、どゆこと……?」
左に月夜、右に花月、真ん中に光留といった状態は珍しくもなんともないのだが、月夜は光留に腕枕し、腰を抱き寄せ、花月も腰のあたりにぎゅっと抱き着き、光留の胸を枕にしている。そして両足に2人の足が絡まっている。
クーラーをつけているとはいえ、さすがに暑い。というか苦しい。
(てか、動けないし……)
とはいえ、ぐっすり眠っている2人を起こすのは忍びない。
(まあ、いいけど。……そういや、昨夜の夢何だったんだろ?)
小さな子どもが自分――前世の“月夜”と“月花”を兄と姉と呼ぶ、仲良し兄妹の夢。
“月夜”と“月花”は2人兄妹で3人目はいなかったはずだ。
ただの夢、と割り切るには光留の胸がズキズキと痛む。
(そういや、両親を殺したのは“月夜”が無意識に神だった頃の権能を発現させたから、だっけ?)
光留自身に記憶はないが、月夜からはそう聞いている。“月夜”の罪は、光留の罪でもある。だからこんなにも胸が痛むのだろうか。
視線を天井に向けると、ふよふよと水子の魂が光留の前を飛んでいく。
手を伸ばしてみると、大人しく来てくれた。
「どっかから迷ってきたのか、俺か月夜に憑いて来たのか?」
光留が小さな声で水子の魂に呼びかけると、その子は光留にすりすりとすり寄る。
その様子が何だか夢で見た幼子に重なった。
(まさか、な)
“月夜”と“月花”が生きていたのは千年以上前だ。そんな時代の水子が彷徨っているとは考えにくい。
それこそ“月夜”か“月花”の魂にくっついていない限り。
『じゅっといっちょにいてくりぇて、ありがちょう、あにうえ』
光留は何のことかわからなかったが、この子は可愛くて愛おしく思う。
兄上と呼ばれるのも嫌ではない。
「ほら、もう逝け。あんまり長く留まると、転生出来なくなるぞ」
少しだけ、兄らしいことを言ってみる。
水子の霊は名残り惜しそうにしていたが、しばらく光留の前を飛び回り、スッと姿を消した。
(兄上、か。きっと子どもの勘違いあるあるだよな)
水子は、胎児の時か死産した赤子、或いは生後間もない赤ん坊んの魂だ。生まれたての魂なら見間違いをしていても不思議はない。
(さて、どうすっかな……)
目を覚ます気配のない2人。光留自身も昨夜の名残りで、動くにしても腰が痛い。
(うちで出来る職業で良かった。じゃなきゃ確実に会社に遅刻……)
と、思ったところでハッとした。
「ヤバっ、今日打ち合わせっ!!」
光留がガバリと起き上がる。
時間を見れば午前11時。いくらなんでも寝過ぎだし、待ち合わせの時間まであと2時間しかない。2人も大学やバイトがあるはずだ。
「おい、起きろ2人とも!」
光留は慌てて両隣の2人を叩き起こす。
「嫌ですぅ……もうちょっと……」
「バッカ花月、今日午後からバイトだろ! 間に合わなくなるぞ」
「んふふ、そんな、馬鹿な……って、ええっ! 嘘、なんでこんな時間! やばいやばいやばい! 遅刻するっ!」
花月が慌てて飛び起きる。
月夜ももそもそと起き出すが、スマホの画面を見て「休み」の連絡をする。
「おい、サボるなよ」
「ふぁ~あ、構わない。単位は十分取れてるからな。光留は俺のことより自分の心配したらどうだ?」
「ぐ……そうする……」
光留と花月は慌てて支度するのを月夜はのんびりと見守る。
夜、2人が帰ってきて3人で食事をしていると光留がポツリと呟く。
「朝、水子を見たんだけどさ」
「水子、ですか?」
「この辺で赤ん坊が死んだ話はないが、連れてきたのか?」
3人の住む家には花月の結界が張ってある。
霊力過多で暴走しやすい光留を守るためのものだから、落神や霊の類は入ってこれない。
可能性としては外出時に気付かない間に憑かれていた場合くらいだろう。
「それがさ、その子に言われたんだよ。『ずっと一緒にいてくれてありがとう、兄上』って、俺覚えてないんだけど、なんか知ってる?」
月夜と花月は顔を見合わせる。
月夜と花月の推測では、光留がその水子であるということだ。だが、光留を信じるなら光留と水子は一切関係ないということになる。
2人の背中にゾワゾワとした悪寒が走るのと同時に、何処か安心する。
「……さあな。“俺達兄妹”に、3人目はいなかった」
「え、ええ。僕も、お母様のお腹に新しい命が宿っているのを見ていません」
何気ない雑談のつもりだったが、動揺する2人を見て光留は首を傾げる。
「ふーん、じゃあやっぱあの子の勘違いか」
光留の前世である“槻夜光留”はひとりっ子だし、現代に生まれるなら「兄上」とは呼ばないはずだ。
となると、やっぱり“月夜”と“月花”に関連すると思ったのだが、関係ないとなると偶然入り込んだのだろうと光留は結論付ける。
願うなら、今度こそちゃんと生まれて来れますように――。
――まっててね、もうすぐ産まれてくるから。またいっしょにいてくださいね、3人のお父様。
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