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廻る魂

第二十話

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 ――あにうえ、あねうえ。ふぇぇ……。
 呼びかけに振り向けば、まだ数えで3つを過ぎたばかりの幼子が泣きながら手を伸ばす。
 ――あらあら、どうしたの?
 姉上と呼ばれた少女は苦笑して、弟を抱き上げる。
 ――俺達の姿が見えなかったから、寂しくなってしまったのだろう。
 兄の言葉を肯定するように、幼子は兄にも手を伸ばす。兄はそれを受けて姉から幼子を受け取る。
 ――まあ、そうなの? 「 」は甘えん坊さんね。
 姉がくすくすと笑う。だけどその笑みは優しく慈しむような温かな笑みだ。
 ――案ずるな「 」、俺達はお前を置いていったりしない。
 ――ええ、ずっと一緒よ。
 兄に抱きしめられ、姉に頭を撫でられて、幼子はふにゃりと笑う。
 ――じゅっと、いっしょにいてね。あにうえ、あねうえ。
 幼子の拙くも純粋な願い。
 あり得たかもしれない優しい日々は、次第に遠くなる。

 月夜が目覚めると、隣には光留と花月が抱き合うように眠っていた。
 あの後、なんとか処女喪失は免れたものの、2人を落とすのは手こずった。
(まあ、可愛いからいいのだが……)
 だが、隙を見せればあっという間に食われるだろう。
 光留はともかく、花月はそういったことに容赦するタイプではない。
(それにしても……)
 光留を見れば、夢で見た幼子と被って見えた。
(ありえない……と言い切るには似ている)
 羽宮兄弟と花月の前世である“月夜”と“月花”は5歳差の兄妹で、彼女が5歳の年に両親が火災で死んでいる。“月夜”が彼女を想うあまり無意識に前世の権能を発現させたのが原因だ。
 だからその下に弟妹が出来ることはあり得ない。
 だが、死ぬ前の母に新しい命が宿っていたとしたら?
 母と共に死亡し、その水子の魂が血縁である月夜を頼って取り憑いていた可能性もある。あの頃の“月夜”はまだ10歳で知識も力も未熟で、気づかなかっとしても不思議ではない。
 そして、その水子が光留の本当の魂だとしたら?
 月夜は背筋にゾクッとした悪寒が走る。
 それであれば、2つの魂がひとつの身体に同居していたのは“槻夜光留”からではなく、“月夜”の頃からということになる。
 “月花”の守り人だった“月夜”であれば、水子の霊は入りやすかっただろう。そして血縁だからこそ、“月夜”はその水子に気づいても邪険には出来ない。
(俺は……)
「ん、ぅ……」
 横で寝ていた光留がもぞもぞと起き出す。
「みつ……」
『こんどはころさないでね、あにうえ』
 光留にしては舌足らずな言葉。にこりと笑う顔に邪気はない。
 月夜の背筋にゾワゾワした何かが這い上がる。
 光留はパタリとまたうつ伏せになると、再び寝息を立て始めた。
 光留を挟んで隣で寝ていた花月も、もそりと起き出す。
「月夜様……」
「起きて……」
「はい、何だか変な夢を見て。光留君は?」
 月夜はもう一度光留を見る。
「寝ている。このままなら朝まで起きないだろうな」
 花月はホッとしたような不安なような微妙な表情になる。
「……さっき、“私”に弟がいた夢を、見たんです」
 羽宮兄弟ど花月は前世からの繋がりがある。だから同じ夢をみたとしても不思議ではないのだが、それにしては不思議な夢だった。
「花月もか。となると……」
「光留君は、本当なら……」
「3人目、だったのだろうな。知らなかったとは言え、俺は……」
 花月は月夜を抱きしめる。
「それ以上はダメです。もう、過ぎ去ったこと。前世でも、必ず光留君を幸せにすると、僕達は決めたんですから」
 光留だって望まないだろう。
 両親がいて、兄妹3人で過ごすことはもうあり得ない。もしあり得たなら、今の生はなかったはずだ。
「……そうだな。2人がいて、良かった」
「はい。僕は、月夜様も光留君も大好きです。だから、今度こそ、3人で幸せに。幸せだったと思える人生にしましょう」
「ああ」
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